見出し画像

#13 母はクリスチャン。

 東京の叔母の入院がきっかけで、牧師夫人の叔母と連絡を取り合うことが多くなった。70歳を過ぎたこの叔母がスマホを駆使し、動画やスタンプまで送ってくれる。(正直驚き!)さっそく姉と3人でグループトークを始めた。季節の写真や家族の様子、料理のレシピなど、日常の他愛のない会話が弾む。

 ある時、ずっと気になっていたことを相談してみた。母の好きな『🎵アメージンググレイス』のことも含め、仏教の家に嫁いだ母の最期を、私達姉妹はどう見送る準備をすべきなのかと。初めての問いかけである。なぜなら生まれた時から家には仏壇があったし、何度となく法事も経験している。いつか母にその日が来たとしても、普通に仏教式で見送るものだと思い込んでいたのだから。

 すると、叔母が教えてくれた。
『私達姉妹は3人とも、洗礼を受けているのよ。』

・・・衝撃だった。知らなかった。母が洗礼を受けたクリスチャンだったとは。クリスチャンなのは祖父母と叔母達だけで、仏教の家庭に嫁いだ母は違うものと勝手に思い込んでいたのだ。

 母が結婚後、礼拝に出向くことができなかった事実を叔母は理解している。もちろん、母が毎日仏壇に手を合わせ、ご先祖様を大切に思う日々を過ごしてきたことも知っている。今は礼拝に出られないけれど、人に優しくし、感謝する心を持っていればきっと大丈夫だからと、遠く離れた地から母を思い続けていてくれた。

『残りの人生、身体に無理のないように、できる範囲でいいから礼拝に連れて行ってあげてね。本人がキリスト教式のお葬式を望んでいるのなら、是非そうしてあげてほしい。』

 話によると、母がキリスト教式のお葬式を選んだとしても、嫁ぎ先のお墓に一緒に入れてあげて良いのだそうだ。思いもよらぬ教えに、私はとても驚いた。諸説あるのかもしれないが、ただ私達にとって最も身近な専門家は、叔母の夫であり牧師である私達の叔父なのだから。
 
 晴天の日曜日、姉と一緒に母を礼拝へ連れて行った。出迎えて下さった牧師先生に、母は手を振り、満面の笑みで挨拶をしている。
 礼拝が始まった。すると、何と認知症の母が『主の祈り』をスラスラと迷いなく暗唱し始めたではないか!このような母の姿を見たのは生まれて初めてだった。私は、突然の出来事に驚くとともに、感動を覚えた。
『あぁ、母は間違いなくクリスチャンなのだ!』

 祖父母が3姉妹に付けた名前には、それぞれ聖書の言葉から引用した字があてられているとの事。
長女には『悦』、
次女には『喜』、
三女には『潔』。
祖父母の愛が溢れている・・・。 

『🎵アメージンググレイス』は亡くなった祖母も大好きだった曲。年末年始に親戚一同が集まったら、母の前でぜひこの曲を演奏してあげたい。
もちろんハンドベルで。
『さて、みんなで演奏するために、まずは専用の譜面作りから・・・!』
私の中で熱い気持ちが込み上げてきた。

 

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?