ハーメルン【6】

これはフィクションです。
ハーメルン【1】
ハーメルン【2】
ハーメルン【3】
ハーメルン【4】
ハーメルン【5】の続きです。


晩御飯を食べながら、コウくんちの話をした。コウくんパパの爪をカレーに混ぜてパパに食べさせようとしたことはもちろん黙ってた。
「コウくんちのママは美人だからな〜。」
「ママだって綺麗だよ!」
ムッとしてパパに言い返す。
「ありがとう。」
ほら!僕に笑いかけるママは本当に綺麗だ。
「もちろんそうだ。外見だけが全てじゃないことくらいパパだってわかってるよ。いや、ママだって昔はもっと痩せてて、若くて
良かったんだよ?」
パパがそう言った瞬間、ママは無言で立ち上がって食器を片付け始めた。ママの顔から、綺麗だったあの笑顔がすっと消えた。そのことにパパも僕も気がつかなかった。


次の朝、コウくんは深刻な顔をしていた。
「ヨシくんちのママがいなくなったって聞いた?」
みんなびっくりした。コウくんが言うには、スマホもお財布も置いたまま、忽然と消えちゃったそうだ。スリッパは冷蔵庫の前に脱ぎ捨てられていた。
「ヨシくんの小さな妹が冷蔵庫がママを食べちゃったって言ったんだって。そしたら、ヨシくんにもママが冷蔵庫に入っていくところが頭の中にばーって浮かんで、見えたんだって。でも、そんな話し大人は誰も信じなくて。妹の妄想を聞いたせいで、夢に見たんだろうって。」
イズミちゃんがゆっくり口を開いた。
「ママが言ってた。最近、全国で主婦の人達の行方不明が増えてるって。」
イズミちゃんのママは営業の仕事をしてる。たくさんの人に会ったり、SNSとかで、いろんな噂を聞くんだって。
「ヨシくんちの冷蔵庫、ハーメルンだったよね?」
僕は一気に不安になった。
「最近の行方不明の人のうちって、もしかしてみんなハーメルンの冷蔵庫だったりして。」
「ママに聞いてみる。SNSで何か情報がわかるかもしれない。」
イズミちゃんは僕を見てしっかり頷いた。

僕は一日中、気が気じゃなかった。学校が終わると、みんなを待たずに一人で走って帰った。
「ただいまっ!」
ママの返事は無いまま、キッチンに駆け込む。ママはまた、ぼんやりしたままダイニングの椅子に腰掛けて何かを呟いていた。
「ママ!ただいま!」
ママに抱きついたけど、ママは反応しない。
「ママ!ママ!!」
抱きついたまま強く揺さぶると、ゆっくり僕を見てぼんやり笑ってやっと答えた。
「おかえり。」
「ママ、大丈夫なの?」
「うん。少し疲れちゃったみたい。大丈夫よ。」
「あっちで少し休んだら?」
「そうね、30分だけソファーで横になるわね。」
そう言って横になったママのために毛布を持ってきたら、ママはもう寝息をたてていた。今日は無事だった。けど、このままじゃ、まずい。
僕はなるべくママが冷蔵庫から離れる方法を考えて、ママが好きそうな韓国ドラマを観るように勧めようと思った。


つづきはこちら
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ヨシくんちの話は、以前書いた『半笑いの冷蔵庫』です。

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