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ハーメルン【4】

これはフィクションです。
ハーメルン【3】の続きです。
前編はこちら
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「ただいまー!」
なるべく大きな声で叫びながら玄関を開ける。今日も返事は無い。最近、ママの「おかえり!」が返って来る日が少なくなった。僕は急いでキッチンへ向かうと、ママは冷蔵庫に右手をあてて立っていた。声を掛けようとした時、微かな声が頭の中に響いた。
「…こち…へ…」
「いえ、私は幸せですから…」
ママはその声に答えるようにブツブツ呟いている。
「ママ!!」
僕は大声で叫んだ。体が勝手に走り出して、ママの背中に抱き付いた。
ママは僕に初めて気付いて振り返った。
「おかえり。」
優しく微笑んで僕を抱き締めかえす。
「どうしちゃったの?赤ちゃんに戻ったみたい。」
「ママ、どこにも行かないで!」
自分でもなんでそんなことを言ってるのかわからなかったけど、言わなきゃいけない気がした。
「フフッ、もうお買い物に行かなきゃ行けないわ。」
「そうじゃなくて!どこか遠くに行ったりしない?」
「どこ行くの?行くとこなんてないわ。」
「さっき誰と話してたの?」
「さっき?誰もいないわよ。」
「話してたじゃない。『幸せです…』とか。」
「え?ママが?勘違いじゃない?そんなこと言ってないわ。」
ママは本当に覚えてないみたいだった。

その夜、僕はママがお風呂に入っている時にパパに言った。
「パパ、あの冷蔵庫なんか変だよ。気持ち悪いんだ。別のに替えようよ。」
「何言ってんだ。この前買ったばっかりなのに。」
「だって、あの冷蔵庫が来てからママが変だと思わない?」
「変?どんな風に?どっちかって言うと最近は機嫌がいいじゃないか。」
確かにあの冷蔵庫が来る前までは、ママはよくパパに怒ってた。だってパパは、いっつもママの話を聞いてないんだもん。
「変だよ。よくボーっとしてるし、独り言を言ってる。ママは氷を作る所が全部取り外せて丸洗いできる冷蔵庫がいいって言ってたのに。パパが勝手に決めちゃったじゃん!」
「そんなこと言ってたっけ?ママの機嫌はいいんだからいいじゃないか。」
「パパ、ほんとに何にも感じないの?ママのこと、大事に思ってるの?」
「な、なに言ってるんだ。家族なんだから、大事に決まってるだろう。いつもママの気分がいいようにって思ってるさ!」
パバはしどろもどろだ。話しは全然通じないし、うまく説明できない自分にもイライラした。
「もういいよっ!」
僕が叫ぶと、ちょうどお風呂からあがったママがやってきた。
「どうしたの?言い合いなんてめずらしいわね。」
「なんでもない。」
そう言うと僕は、わざと大きい足音を立てて自分の部屋に歩いて行った。


つづきはこちら
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