マーケティングの定義を巡って、ちょっと冒険的なことを書いてみた。
「マーケティングの定義」はとてもポピュラーなテーマです。というのも「マーケティング」という言葉は極めて適当に使われている言葉でもあるからです。いまだに「マーケティングリサーチ」が「マーケティング」のように言われることも多いですし、「営業」と「マーケティング」の区別がついていない企業や人に、私自身もよく出会います。今日は「マーケティング」っていったい何だっけ?という素朴な疑問に答えられるように、これまで作った資料などを紐解いて説明していきたいと思います。
「マーケティング」の概念は第一次世界大戦後のアメリカで発展しました。1960年代以降に体系化され、定義されてきたと言えます。現在まで約60年の間、様々な形で「マーケティング」は定義されています。最も権威があると思われる、AMA(アメリカマーケティング協会)がどのように定義しているのか、改めて確認してみます。
Definition of Marketing
AMAによるマーケティングの定義は2020年1月17日現在、2017年版が最新ですね。私もいくつかの大学や企業研修でこのテーマを扱います。そのため定義が更新されていないか、毎回講義の前にAMAのサイトを確認するのですが、今回も更新されていなくて安心しました。
手元にある 私の過去の研修用マテリアルを参照してみます。ここには2007年のマーケティングの定義が書かれています。
なんということでしょう。変わってない。(笑)
AMA、もはやマーケティングを定義する気力を失っているのかしら。
とりあえず、気を取り直してひとまず日本語訳してみましょう。学生さんや先生や実務家など他の誰かもしていると思いますが、まあ気にせず書いてみます。
マーケティングとは広範な企業活動を指示していると言えそうですね。これ以前にはどんな定義だったか、私の研修マテリアルを遡って見てみます。
やはり古い記録は取っておくものです。2004年のAMAの英文定義が見つかりました。これも簡単に訳してみましょう。
2004年の定義とその後の定義を比較すると「組織的な活動である」という言葉と「顧客との関係性を適切に管理する」という言葉が印象的です。インターネットの普及を背景に顧客との関係性が変化しつつあり、それをどう管理するかが企業の大きな課題となっていたことが推察されます。CRMが流行っていた当時のことが思い起こされます。
さてこれ以前はどんな定義があったのでしょう。さすがの私ももう持っていないかって?それがあるんです。英文は確認できないのですが、日本語ならあります。
おそらくマーケティングを体系的に教える組織は日本では大学からだと思います。商学系などで基礎として教えられるのはまず「4つのP」というやつですが、その原型がこれです。商品、価格付け、プロモーション、流通の4つのPがここで示されたわけです。「4つのP」は35年以上も前の概念なんですね。
もうないだろうと思うでしょ。実はまだまだあるんです。どんどん行きましょう。
My Own Definition of Marketing
最後に出てきたマクネアの定義は少し面白いと思いませんか? マーケティングを企業目線ではなく、社会目線で語っています。私はマーケティングというものを「企業活動」ではなく「社会機能」として語るべきときが再び来ていると思っています。上記の定義たちはほぼすべて、経営学の一環として企業活動としてのマーケティングを扱っていますが、実務家にとってのマーケティングとはカスタマーインサイトがその本質です。顧客に興味を抱き、顧客の関心や意向を知ること。そしてそれをいかにして商品やサービスに内包させ、あるいは関連づけていくか、それが実務としてのマーケティングに他なりません。
これを別の視点から捉えると「顧客の望みを形にすること」になります。顧客=現代社会を生きる人々と考えれば、顧客の望みは特定の商品やサービスの改善にとどまっているわけではありません。SDGsで取り上げられているように、多くの社会課題の解決につながるような商品やサービスによって「よりよい生活」が創り上げられること。それこそが顧客の関心事なのです。そして私たちが長年関わってきたマーケティングとは、顧客の希望を掬い上げて、よりよい生活を創り出すことができる仕事だと思うのです。もう少し考えを進めると、すべての人々がマーケティングしている、あるいはしていくべき、と言えるのかもしれません。ヨーゼフ・ボイスがかつて語ったアイデアのように。
ということで、2020年、海野裕版のマーケティングの定義を掲げてこの稿をひとまず了とさせて頂きましょう。
海野裕の本宅、公式ブログbeyondtextはこちら。
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