「戦争は女の顔をしていない」
しばらく前に購入していたけれど、まだ読んでいなかった「戦争は女の顔をしていない」のコミック版を読了しました。
ソ連では第二次世界大戦で100万人をこえる女性が従軍し,看護婦や軍医としてのみならず兵士として武器を手にして戦った。しかし戦後は世間から白い目で見られ,みずからの戦争体験をひた隠しにしなければならなかった。500人以上の従軍女性を取材し、その内容から出版を拒否され続けた、ノーベル文学賞受賞作家の主著。『狼と香辛料』小梅けいとによるコミカライズ。
(Amazonページより抜粋、編集)
原案本の著者は、2015年にノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ アレクシエーヴィチさんです。この他にも「チェルノブイリの祈り」などの著作でも知られています。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
アレクシエーヴィチ,スヴェトラーナ
1948年、母の故郷ウクライナに生まれたのち父の故郷ベラルーシに移り住む。国立ベラルーシ大学ジャーナリズム学部を卒業後、地元の新聞社などではたらいたあとジャーナリストとして独立し、第一作の『戦争は女の顔をしていない』以来、一貫して人びとの心の声や小さな記憶を集めて伝えるドキュメンタリーを書きつづけている。現在はドイツ在住。毎年世界のすぐれたジャーナリストを対象におくられるユリシーズ賞の選考委員もつとめている。
今世界が注目しているウクライナ出身のジャーナリストが、第二次世界大戦に従軍したソ連の女性兵士たちにインタビューした記録本になります。
●「戦争で一番恐ろしかったのは、男物のパンツを穿いていることだよ」
印象に残るエピソードはいろいろあったのですが、一番はこの中見出しにもした「戦争で一番恐ろしかったのは、男物のパンツを穿いていることだよ」でしょうか。
この字面だけ見ると、少し滑稽に感じられるかもしれません。
けれどこの一言に、戦争がどれほど女性の身体と尊厳を踏みにじるのかが凝縮されています。
軍隊は女性兵士をも戦力として活用しているのに、供給物資には女性の身体に配慮した下着や生理用品などは一切ないのです。
冒頭の発言をした方とは別の女性も、経血を垂れ流しながら行軍することのすさまじさを述懐しています。
「私たちが通った後には、赤いしみが砂に残った。女性のあれです。隠しようもありません。」
「兵士たちは、後ろを歩きながら気づかないふりをする。足下を見ないように……。」
「私たちが穿いているズボンは乾ききって、ガラスのようになる。それで切れるんです。そこが擦れて傷になる。いつも血の匂いがしていました。何もくれなかったんですから」
自分の経血を吸い乾いたズボンが、自分の内股を切る。それでも歩き続けなくてはいけない。想像するだけでも痛々しいですね。
●戦場では敵同士
本に登場する女性たちは、国を愛し職務に忠実な兵士でありながら、若い女性らしさも持ち合わせる人ばかりでした。読書中は、そんな彼女たちに親近感を抱きながら読み進めました。けれどふと、当時彼女たちと戦場で出会っていたら、私は彼らの敵だったという事実に気づいたのです。第二次世界大戦で日本は、ドイツの同盟国でしたから。
平和な時代に出会ったら友人になれたかもしれないのに、戦争は、そういった縁も切り裂いていきます。
いま起こっている、ロシアのウクライナ侵攻に関しても言いたいことはあるのですが、この本の感想からは離れてしまいそうなので、それは別の記事に書こうと思います。
●ウクライナの大飢饉
けれど戦争とは別に、ウクライナを知るうえで重要なサイドエピソードがこの「戦争は女の顔をしていない」には書かれていたので、そちらをシェアします。
それは、ウクライナが1930年代に体験した大飢饉「ホロドモール」。
ホロドモールとは、1930年代前半にウクライナで起きた大飢饉のことだそうで、お恥ずかしながら私は「戦争は女の顔をしていない」で初めて知りました。この飢饉は、スターリンによって計画された、(当時旧ソ連の統治下にあった)ウクライナへの人為的な虐殺だという見方がされているのだとか。
この飢饉によってウクライナでは人口の約2割(国民の5人に1人)が餓死し、約400万から1450万人以上が亡くなったそう。
「戦争は女の顔をしていない」には、このウクライナからソ連軍に従軍してきた女性兵士も登場します。
オクサーナというそのウクライナ出身の女性兵士は、自分の村の半分は餓死し、家族も自分以外は全員死亡したと同僚の女性に語ります。そして「あんたはどうやって助かったの?」という問いに、こう述懐するのです。
「私だけが食べたからよ。……他の誰も食べられなかった。夜中にね、コルホーズ(集団農場)の厩舎で、馬糞を盗んで食べたの」
「まだあったかいのは口に入れられなかったけど、冷たいのは大丈夫だった。凍っているほうがいいのよ、干草のにおいがして」
ウクライナは、そういった壮絶な体験を乗り越えて今日の農業国になれるまで復興を遂げていたのですね。
※ウクライナは小麦生産量2600万tで世界7位、大麦は830万tで世界5位。トウモロコシは3300万tで世界6位。
(JA.comより)
「ホロドモール」という単語を知ると、見えてきた情報があります。ウィキペディア情報ではありますが、現在のキエフ市長(ボクシングの世界チャンピオン、ビタリ・クリチコ氏)の親族も大半がこの飢饉で亡くなったのだそう。
こういった壮絶な歴史の記憶があるから、ロシアのような大国を相手にも屈しないのかもしれません。
まとまらなくなったので、この辺で終わりにしたいと思います。
戦争はどちらが一方的に悪でどちらかが一方的に善だとは決して思いませんし、ヒロイズムに酔いたくもありません。けれど、前線で傷つき命を落とすのはいつも一般の兵士や市井の人々。一刻も早くこの戦争が終結し、両国の国民に平穏と友愛が戻る日を願ってやみません。
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「現代ビジネス」(不定期掲載)
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