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「インターセックス/性分化疾患とは?」をオランダの報告書に学ぶ

ある日ツイッターで、こちらのアカウントに出合いました。

DSDs(体の性の様々な発達:性分化疾患)を持つ子どもと家族のための情報サイト、ネクスDSDジャパン。世界中のDSDsを持つ人々と家族の皆さんの顔と声を発信します。

インターセックスに関しては漠然と知ってはいたものの、断片的な知識しかなかったので、この機会に勉強させてもらおうと考え、フォローしました。

そのアカウントをフォローする中で、私の住むオランダが、「インターセックスの状態/性分化疾患を持つ人々の実態調査書」を公式に作成したと知ったんです。国家機関がインターセックスに関して調査したのは、世界で初めてのことなのだそう。流石は、人権先進国といわれるオランダですね。そのオランダ社会文化計画局が作成した「性分化疾患報告書」を「ネクスDSDジャパン」(日本性分化疾患患者家族会連絡会)さんが日本語に翻訳してくれたそうなので、早速読んでみました。

「いつか仕事として執筆できるかな」という気持ちがあって読み始めたのですが、すぐに「まだ私の手に負える内容ではない」と分かりました。身体と性に関することですので、非常にセンシティブな問題です。実際、オランダのリポートでも関係者はすべて匿名にされています。一朝一夕で理解し、執筆できる代物ではありませんでした

けれど、このリポートは非常に読みごたえがあり、学ぶことが多くありました。せっかくなので、私がリポート内で印象に残った部分を抜粋していきたいと思います。

私のこの抜粋で少しでも気になる部分があれば、オリジナルのリポートにも目を通してみてください。私も、折に触れて読み返していきたいと思います。
少しでも、世の中のインターセックスの状態/性分化疾患を持つ人々に対する理解を進めていきたいですね。

インターセックスの状態/性分化疾患と共に生きる(※リンク先はPDF)

以下、主に抜粋です。中見出しと一部のリード文のみ、私のほうでつけています。


●オランダのインターセックス人口
オランダの約8万人がインターセックスの状態/性分化疾患(無自覚・未治療含む)
※オランダの人口は、このリポート執筆時2014年の時点で約1680万人。

●インターセックス/性分化疾患とは?
(p2より抜粋)
医療者が一般的に、男性もしくは女性と理解している状態とは異なる体の 性の発達をした、様々な先天的状態を指す包括用語である。その違いは、染色体の場合もあるし、外性器や内性 器の状態の場合もある。 インターセックス/性分化疾患で問題となるのはあくまで体の状態であり、自己認知の問題はほとんどない。イ ンターセックス/性分化疾患を持つ人々は常にほとんどの場合、自分を男性、もしくは女性であると感じている。

●あくまでも「身体の状態(condition)」
(p13)
オランダでは、インターセックスの状態/性分化疾患を持つ人々の間で、「体の状態(condition)」という言葉が使われている。この用語は、「障害(disorder)」や「異常(abnormality)」よりも中立的である。他の国の活動家や人権団体は、「体の状態」という用語をあまり用いない。医学的アプローチを連想させるとするからである。オランダでは事情が異なるのか、「体の状態(condition:conditie)」の方がよりサポーティブと受け止められている。

●自己自認に関して
(p6)
インターセックスの状態/性分化疾患を持 つ人々は一般的に、自分たちがLGBTのようなひとつの集団の一員であるとは感じておらず、男性・女性以外の別のカテゴリーと 見なされたいとも望んでいない。むしろ彼ら彼女らの望みは、ただの男性・女性として見てもらうことなのである。

●適切な情報とサポートへのアクセス

インターセックスの人々は、自分に関する情報を得るために戦いを強いられる。すべてを話そうとしない医療従事者たちや、子供(当事者)の気持ちに配慮しすぎて事実を明かさない親などを説き伏せる必要がある。

(p27より抜粋)
ジャクリーン:そう。おかしな雰囲気だったから。なんでみんな何も言わないの?って思った。まだ覚えてる。でも、そうするように母は言われてた。16 歳でもこう言ったのを覚えてる。「私のことだから私にも話してもらう権利がある。だって自分で決められるから」。もうその時から扱いにくい子だったんだと思うわ。タクシーに乗ってすぐ、母に訊いたの。母は隣に座ってて、表情が暗かった。その顔まだ覚えてます。「ママ。私、どこがおかしいの?」 家に着いて母は私に言った。私には子どもは無理、下半身のものが狭すぎる、男の子と寝るのは絶対ムリ、男の子とは親しくならない方がいい。それは飲み込んでいくにはあまりに恐ろしくて重いことだった。

(p33より抜粋)
長い間、医療専門家は、それぞれ各種のインターセックスの状態/性分化疾患を持つ患者に、体の状態につい て話さないようにするのが通例であった。これは、話をしても、より良い人生・生活の助けにはならないという議論 に基づいていた。このような対応は、患者たちがなにか恐ろしい状態を持っているから話すべきではないという考 えに裏付けられている(MacKenzie et al. 2009)。このような秘密は、「言葉で表せない禁忌の感情」を意味す るものとして体験されることが多く、その影響は概して長期間続いている (Liao 2003; Liao & Boyle 2004b: 460)。このような秘密と、医学的介入について子どもが同意するかどうか決して問わないという事実が、現在イン ターセックスの状態/性分化疾患に関する最も大きな問題であると論じる人もいる。AIS を持つイギリスの女性 と、インターセックスの状態を持つニュージーランドの女性のインタビューは、すべての情報を、サポートと共に与 えられるのが、自分の体の状態を受け止めていくのに極めて重要であることを示している(Alderson et al. 2004; MacKenzie et al. 2009)。資料3.3は、ある女性が、自分の体の状態について適切で完全な情報が無 かったことで、彼女の人生に影響を与えられた流れを物語ったものである。

●人々の反応

そして同時に、人々の無理解に苦しんでいる。一般人の無理解に関しては、ほぼ諦観している。けれど医療従事者の無知・不勉強・無理解には失望や怒りを覚える。

(p43)
エルスを悩ませるのは、時折彼女のような女 性たちの知能に疑いをかけられることだ。彼女は大学を卒業していて、良い仕事につき、ボランティアとし ても活動している。彼女は自分の体の状態について話すのをためらう時がある。もし話した人たちがイン ターネットを検索して、全員が皆同じ症状が出るわけではないのに、可能性がある症状の長い一覧を見 つけてしまうからだ

(p44)
ジャクリーン:周りの人には難しいんだと思う。重荷を背負わせるみたいになっちゃうから。性についての ことだし。本当にちゃんと理解する人っていない。訊いたりする人もいない。これではこっちもちょっと悩む。 たとえば私の両親だったら、ふたりとも[体の状態名]を持ってるんだけど、周りの人は、母に訊くのは大丈 夫なの。たとえば、誕生日で一回しか会ってない親戚とかね。「それで、[名前]、[体の状態名]の方はどう なの?」って。そして母がそれに答える。でも私には絶対訊いてこない。なにかとっても危険なことなんだと 思う。

(p45)
インタビューを受けたインターセックスの状態/性分化疾患を持つ人々は、一部の医療従事者によるネガティブ な接し方には理解を示し難く感じている。専門家の医療センターでの彼が受けてきた接し方にはいつも満足して いるという男性は例外として、インタビュイーたちは、医療従事者による彼ら彼女らへの接し方に、失望と悲しみ、 そして時には怒りを感じている。医師が彼ら彼女らの体の状態についてほとんど知らないことに憤りを感じている 人もいた。彼ら彼女らは、情報が乏しいこと、無神経な話し方、そして失礼な接し方について、たいへん大きな感 情を以って語っていた。

●不妊問題
(p42)
不妊であるというリアリティを受け止めることは、インターセックスの状態/性分化疾患を持つ人々とそのパート ナーに影響を与えるだけでなく、社会ネットワークの周辺の人々にもインパクトがあり得る。インタビュイーの何人 かは、家族や友人がどう反応すればいいかわからなくなっていたと報告している。そのため、この悲しみを取り 扱っていく感情的余地が狭まっていく、あるいは当事者たちが、自分は理解されないと感じることもあるのだ。


●同じ状態をもつ人々との出会いの重要性
(p48)
インターセックスの状態/性分化疾患を持つインタビュイーたち全員が唯一共通して言ったことは、同じような体 の状態や、似たような問題を持つ人々と出会うことが重要だということだ。(そしてこれは他の調査でも確認され ている)。このような体の状態を持つのは自分一人だけではないという想いと、体験を共有できる力は、自分の体 の状態の受け止め、折り合いをつけていく力を促進する。

(同)
誰も変だって思わないの。誰一人。(ささやきで)そう。うん。どんな感じかな…。みんな理解してくれるの。 もちろん今でも嫌なことはたくさんある。想像してみて。これは女性の障害で、膣が小さい、膣が無い。完 全型 AIS を持つ女性は、テストステロンに反応しない。ホルモン補充をしなきゃいけない。そういういろい ろなことをみんな経験してるの。このミーティングで、そんないろいろな物語が語られるの。それがどういう ことか想像してみて。 あれは本当に…。うん。そういう女性たちとみんなでひとつの部屋の中で座って、認めてもらえるの。そ れって私には信じられないほど素晴らしい体験だった。認められてるって、それが分かって私は…。ああ …。私は「ひとりフリークショー(奇人変人ショー)」じゃないんだって。あのグループは私を助けてくれたの。 とてつもなく。

(p49)
私が特に心配なのは親御さんなんです。[この体の状態を持つ若い人たちを]サポートするには、まず親 御さんから始まると思うから。でも親御さんの皆さんは、気持ちがいっぱいいっぱいになってて、自分自 身の話ができる所がないでしょ。話すのって重要なことだと思うの。患者であるってだけでもう大変なん だから。私の女性の友達全員がそうだった。そして、特別な子どもの親であるってことも、特に、違いに向 ける余裕がなくなってきてる社会では、もう単純にほとんど不可能なことになっちゃってる。

※抜粋はここまで。

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