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trifa's pieces.

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とりふぁの妄想から生まれた短編たちを覗いてみましょう。
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おばけ鳥居

おばけ鳥居

僕らが遊ぶ林の中には、不思議な鳥居があった。
何度見ても、どこを見ても、社はない。
もとからなかったのか、後から壊れてしまったのか。大人たちは、誰も教えてくれなかった。
だから、鳥居の由来はわからない。
でも、そこには確かに鳥居があって、そしてそれは、いつでもそこにあった。
僕らはそれを、「おばけ鳥居」と呼んでいた。
いつからそう呼ばれていたのかは知らない。
でも、おばけ鳥居にはウワサがあって、そ

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When you came into my life.

When you came into my life.

 ライン川のほとりにある、薄暗いパブ。
 『狼の腹の中』と名付けられた店に、私と彼は来ていた。
 結婚五年目。
 喧嘩もするし、お金だって満足するほどではない。
 主人と私の生活リズムの違いのせいで、子供だってまだいない。
 だから、順風満帆とまではいかない。
 けれど、それでも慎ましく夫婦をやれている、と私は思う。
 五年間、頑張ったよね、二人とも。
 そのご褒美として、少しずつ少しずつへそくり

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Falling jimmy.

Falling jimmy.

人は、誰しも才能を持っている。
だから、一人一人が、大事な大事なオンリーワンだ。
俺の小学校生活最後の年を受け持った教諭が、そんなことを言っていた。
確か、あの当時流行っていた歌にも、似たようなフレーズがあったような気がする。
あるいは、そのフレーズから頂戴した言葉だったのか。
とにかく、そんなことを言った教諭がいた。
今となっては、まったくもってその通りだと納得できる言葉だが、当時の俺には、その

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『夢の守り人』

『夢の守り人』

「なんで、パパは、私の誕生日に一緒にいてくれないの?」

 今日で7歳になる心に言われた一言が、胸にチクリと刺さった。

「パパは、お仕事で忙しいのよ」

 亜美——妻だ——の一言も、僕の胸をチクチクとつつく。
 今日は、心の誕生日だ。
 子供にとって、誕生日はいつだって特別だ。中でも、小学校に上がって初めての誕生日である今日は、さらに特別なものであることは間違いない。
 けれど、今日

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桜花

桜花

「綺麗な――桜――ですね」

不意に、背後から声をかけられた。
満開の桜の下である。
私は、手に円匙(シャベル)を持ち、やっと土を盛り終え、満開の桜を眺めていたところだ。
しかし、恐らくまた掘り返さねばなるまい。
そしてまた盛るのだ。

「ええ、とても綺麗ですね」

振り返らずに答える。
振り返る必要がないからだ。
振り返らずとも、私の背後には、彼女がいるのだろう。
それは、予

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『青空』あとがきのようなもの。

ショートショート(SS)『青空』は、2年ほど前に、「曲を聴いて感じた印象をSSにする」という遊びをやっていた時に生まれた作品です。いくつか書いたのですが、中でもお気に入りだったのが、この『青空』です。そのため、今回、少しだけ手直しをして公開してみました。

当時、僕はバス会社に務めていたので、バスを題材にしたお話しを作ろうと思っていました。そこで、THE BLUE HEARTSの名曲、『青空』をモ

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青空

青空

 勢い良く乾杯を交わしたような音がして、私は目が覚めた。  

 後ろに目をやると、野球帽をかぶった少年が、バスに乗り込んできたところだった。

 発券された整理券を大事そうに握り、どの席に座ろうかときょろきょろしている。

 しばらくそうしたあと、少年は、後ろの方の席に、ちょこんと腰をかけた。

 その様子は、どこか居心地が悪そうだ。

 きっと、バスに慣れていないのだろう。

「発車し

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