旧字体で読む『草枕』と、2000年代のインターネットについて
一番好きな小説は何かと訊かれたら、夏目漱石の『草枕』と答える。『草枕』は、春先に熊本の温泉郷へ逗留に来た画描きの「余」が、ひたすら一人称視点で情景描写や思索を展開していく、ただそれだけの内容である。物語としては、ある不思議な女性との微妙な駆け引きが随所に挟まれ、「余」がそれに翻弄されたりもするが、強烈なオチや事件性は殆どない。じゃあ何が良いかって、何の変哲もない一人旅の情景すべてが、これでもかというほど美しく精緻に描写されているところだ。漱石は英文学、漢詩、古美術などに造詣