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壁打ち。 (2024/7/13~)

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スポメニック巡礼(下)

前回の続き  「旧ユーゴ僻地の巨像スポメニックをこの眼で見たい」という衝動に駆られ、私の旅は始まった。2022年11月のことである。拠点であるドイツからスロベニアまで夜行バスで向かい、そこから先はレンタカーを使ってクロアチアへ入国。ポポヴァチャという小さな村で一泊した翌朝、深い霧に包まれながら、赤い小さなマニュアル車で村を北上。10 kmほど走って山を二つ越えると、ポドガリッチ(Podgarić)という集落にたどり着いた。 ポドガリッチのスポメニック その巨像は、集落の高

    • スポメニック巡礼(上)

      スポメニックとは スポメニック(Spomenik)とは、旧ユーゴスラビア国家に点在する巨大彫刻群を指す。クロアチア、スロベニア、セルビアといったバルカン半島諸国の辺境に、様々な形のものが存在する。旧ユーゴの暗い歴史に立脚したモニュメントであり、慰霊碑だったり戦勝記念碑だったりと、それぞれに意味が込められている。  私がスポメニックを知ったのは、今から10年ほど前。たしか「らばQ」というまとめサイトだったと思う。世界の面白いものを写真付きであれこれ紹介するサイトで、暇つぶしに

      • 異形巨大建造物 巡礼

         私は巨大建造物フェチである。子供の頃から、近所の田んぼの中に屹立する大きな送電塔をぼーっと見上げるのが好きだった。そこに特別な理由なんてなく、ただそのデカさに魅了されていた。昔のことなどほとんど忘れてしまったけれど、空の色によって様々に表情を変え、時にジリジリと電磁ノイズを放っていたあの送電塔の風景を、私はしっかりと覚えている。 巨大建造物は、私にとっての宇宙だった。私はこれまで、様々な巨大建造物を訪れ、それらを拝んできた。本稿はその断片的な記録である。 太陽の塔 20

        • 異世界日本体験記

           美容室の受付で「お会計50ユーロです」という日本語を聞いたとき、この文章を書こうと思い立った。ヨーロッパにぽつりと存在する異世界日本の話をしよう。  現在、私はドイツ南西部のとある研究所に数ヵ月間滞在している。研究所のある場所というのは往々にして退屈な田舎町だ。よく言えば長閑で、研究に集中しやすい。5分も歩けば深くて黒い森の中である。  週末はだいたい小旅行をするか、あるいは街に出て適当に時間を過ごしている。日本から持ってきたいくつかの書籍を、カフェでぱらぱらと手繰った

        スポメニック巡礼(下)

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          9本

        記事

          マンドリア共和国について

          ………もちろん現実には、中国の沿岸部にそのような国家はない。上海や温州といった都市が雑然と並ぶだけだ。マンドリア共和国なんて国家は、この世界のどこにも存在しない。マンドリンもイタリアの楽器だ。  これは、私が2022年8月17日の早朝に見た夢の中で、突如として現れた国である。夢の中の私は、グーグルマップでモンゴルの場所を調べようとして「Mongolia」と入力したつもりだったが、誤変換で「Mandolia」と検索していた。その結果、アプリは中国大陸の沿岸部へとフォーカスし、

          マンドリア共和国について

          紀伊半島奥地の秘湯レポ

           2年ほど前からバイクに乗るようになった。お気に入りだったルイガノの自転車を盗まれたのがきっかけだ。バイクと言っても110 ccのスーパーカブ。高速は走れない。だが、この制約が逆に旅に彩りをもたらしてくれる。山間部をゆっくり走る方が性に合う。  大学院生は気楽だ。休みが欲しければ勝手に休める。特に毎年3月は年度末ということもあって、数日間の休暇が取りやすい。その休暇を使って私は、紀伊半島奥地へ踏み入ることにした。  愛知県民にとっては、北は下呂温泉、東は浜松、西は京都あた

          紀伊半島奥地の秘湯レポ

          旧字体で読む『草枕』と、2000年代のインターネットについて

           一番好きな小説は何かと訊かれたら、夏目漱石の『草枕』と答える。『草枕』は、春先に熊本の温泉郷へ逗留に来た画描きの「余」が、ひたすら一人称視点で情景描写や思索を展開していく、ただそれだけの内容である。物語としては、ある不思議な女性との微妙な駆け引きが随所に挟まれ、「余」がそれに翻弄されたりもするが、強烈なオチや事件性は殆どない。じゃあ何が良いかって、何の変哲もない一人旅の情景すべてが、これでもかというほど美しく精緻に描写されているところだ。漱石は英文学、漢詩、古美術などに造詣

          旧字体で読む『草枕』と、2000年代のインターネットについて

          虚言癖の人たち

           お人好しの八方美人なので、たまに変な奴に執着される。宗教勧誘された回数は数知れず、ちょっと社会から浮いた感じの老人に話しかけられ捕まってしまうこともしばしばだ(先日はその流れで寸借詐欺に遭った)。なので私は、虚言癖の人たちの恰好のターゲットでもあった。  大学に電車で通っていたころの話だ。ある夜、地元の駅に降り立った私に怪しげな雰囲気の男が「よう」と声をかけてきた。髭を蓄え、ギョロリとした目つきのその男は、小中学校時代の知人Aだった。Aは昔から嘘か本当かよくわからないこと

          虚言癖の人たち

          くたばれ一流エリートビジネスパーソン

           あぁ、やられた…ついに、ここも奴らに攻め込まれたか。駅ビルの大型書店で学術書を漁っていた私は、ふとこんな書籍を見つける。『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』…最悪だ。エリートなビジネスのパーソンたちが、また新たに文化を侵食しに来た。  この潮流って、いつぐらいからだろう?白ベースにでっけ~ゴシック体で、たまにフリー素材みたいな写真が中央に据えられてる、自己啓発本のあの装丁。タイトルは、「一流ビジネスパーソンはなぜサウナに行くのか?」「外資コンサルが教え

          くたばれ一流エリートビジネスパーソン