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虚言癖の人たち

 お人好しの八方美人なので、たまに変な奴に執着される。宗教勧誘された回数は数知れず、ちょっと社会から浮いた感じの老人に話しかけられ捕まってしまうこともしばしばだ(先日はその流れで寸借詐欺に遭った)。なので私は、虚言癖の人たちの恰好のターゲットでもあった。

 大学に電車で通っていたころの話だ。ある夜、地元の駅に降り立った私に怪しげな雰囲気の男が「よう」と声をかけてきた。髭を蓄え、ギョロリとした目つきのその男は、小中学校時代の知人Aだった。Aは昔から嘘か本当かよくわからないことをよく放言していた。何年も会っていなかったから今何をしているのか尋ねると、Aは高校卒業後、自動車関連の工場で働いてるらしい。そのまま無難に会話のラリーを続けていたが、途中で彼は、最近、王水を使って携帯電話のチップから金を回収して儲けているという自慢話をしてきた。急に嘘のにおいがしてビビったし、私は化学を専攻していたから、その困難さは容易に想像できた。しばらく聞いていたが、やはり内容が薄っぺらく、つつけばすぐ崩壊するようなフワフワした論理にのみ立脚していた。その場では適当に驚いてあげて、穏便に済ませて別れた。連絡先を聞かれずに済んだのが不幸中の幸いか。結婚して嫁と子供がいる、とも言っていたが、それすらも嘘なんじゃないかと疑ってしまう。いや、絶対に嘘だ。この人はいつもそうなのだ。なんなら働いているというのも正直怪しい。彼の矮小な自尊心を満たす一過性の道具として自分が使われた感じがして、後味が悪かった。

 もう一人、そんな奴がいた。Bとしよう。小4の頃、Bは下校時に「うちはレーザーを装備したコブラを飼っている」と言い始めた。コブラは、頭部に装着したレーザーで対象を焼き払うことができるらしい。うそだ~とか言って適当に流していたが、途中から彼はヒートアップし、じゃあ俺の家に来てみろ、本当にいるから見せてやる、と言い始めた。かなり本気のようだった。なんでそんな滅茶苦茶な嘘をつくのかわからなかったし、さっさと帰りたかった。結局私はBを振り払うように帰った。たぶんそれは双方にとって最善だっただろう。

 書いていてもう一人思い出した。青山学院に合格したぞと周囲に元気よく触れ回って結局地元の私大に行った彼も、熱心に私にいろんな話をしてくれた。曰く、青学は蹴ったそうだ。

 たぶん、彼らには虚言癖が入っている。精神科医ではないので理屈はよくわからないが、もう少し設計/制御された嘘をついたほうがいいのに、と思う。誇大な嘘を真顔で言えるのは逆に人間味がないというか、なぜそれでいけると思ったのかが不明でなんだか怖い。ネットによくいるすごそうな人たちも、みんなみんな虚言癖か情報商材だろうなと思っている。

 そして結局、一番腹立たしいのは、そういう人間にもなあなあで接してしまうお人好しな自分だったりもする。上述のどのエピソードにおいても、私自身は受動的にしか振舞っていないし、それは聞き上手だからでは決してない。だから、もう少し人を突き放せるようになろうと思う。毅然とした態度で嫌な奴を突き放すのはきっと気分が良いだろう。虚言癖も大変だろうが、こちらも大変なのだ。今度からはNOと言える日本人になろう。


イエローページ vol.23(2021/11/29)にて掲載
2024/7/13 加筆修正