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異形巨大建造物 巡礼

 私は巨大建造物フェチである。子供の頃から、近所の田んぼの中に屹立する大きな送電塔をぼーっと見上げるのが好きだった。そこに特別な理由なんてなく、ただそのデカさに魅了されていた。昔のことなどほとんど忘れてしまったけれど、空の色によって様々に表情を変え、時にジリジリと電磁ノイズを放っていたあの送電塔の風景を、私はしっかりと覚えている。

実家の近くの送電塔

巨大建造物は、私にとっての宇宙だった。私はこれまで、様々な巨大建造物を訪れ、それらを拝んできた。本稿はその断片的な記録である。

太陽の塔

 20歳のときにはアングラ一人旅と題して関西へ向かい、変な場所ばかり巡った。この時、二つの巨大建造物と対峙した。まずは言わずと知れた、大阪万博跡地の「太陽の塔」について。

出典: https://taiyounotou-expo70.jp/about/

第一印象として、自分の想像よりもずっと大きかった。根本はどっしりと重厚で、横一文字に弧を描いて広がる腕は、全体の存在感に強く拍車をかけている。その日は平日で、しかも雨だったからか、万博公園は不気味なほど人が少なかったと記憶している。しとしと降る雨の中、広い芝生の中に無言で佇むその巨像を一人ただ見上げていると、かつて叫ばれた「人類の進歩と調和」という言葉のわびしさを感じた。
(ちなみに、この敷地内にある国立民族学博物館も必見である。めちゃくちゃ面白くて、つい長居してしまった。)

超宗派万国戦争犠牲者慰霊 大平和祈念塔

 大阪にはもう一つ、巨大建造物マニアなら必ず知る名作がある。富田林とんだばやし市の「大平和祈念塔」だ。太陽の塔がある吹田市からは結構遠いが、電車とバスを乗り継いで向かった。梅田や天王寺には目もくれずに。

出典: https://www.asahi.com/articles/photo/AS20191101000103.html?iref=pc_photo_gallery_next_arrow

遠くからでもはっきりわかる、この異様な存在感。新興宗教 PL教団の教祖が、1970年に建立したそうだ。何の変哲もない住宅街に、真っ白でぐねぐねとのたうった不気味な塔が、天を指差してそびえ立つ。敷地内は一般向けに開放しているようで、私以外にも一人、物好きがカメラを持ってうろついていた。塔の内部に入ってみると、中は平成初期の観光地の面影が感じられ、懐かしい雰囲気で満ちていた。上階へ登るには教団関係者でないとだめらしい。富田林市はアクセスが悪く、というかそもそも普通の住宅街なので、これ以外にめぼしいものは何もない。それでも、あの異様な風景を見に行けてよかった。

牛久大仏

 巨大な仏像(巨大仏)もまた、素晴らしい。茨城の牛久大仏はその筆頭だろう。120mもあるのだ。こちらは2021年の夏に、茨城に用があったついでに立ち寄ってみた。

でかすぎる

真っ青な夏空の下、熱気を纏いながら正面から私を見下ろすさまは圧巻で、遠近感がおかしくなる感覚を何度も楽しんだ。そのままこちらへ倒れてきそうな緊張感に胸が躍った。ちなみに、宮城にある仙台大観音も、牛久大仏に並んで有名な巨大仏である。こちらもいつか訪れたい。

 それから、少しマイナーになるが、H県の山奥には某新興宗教の総本山がある。伽藍も灯籠もすべてが尋常でないほど巨大らしく、こちらも行ってみたいのだが、いろんな理由で到達難易度が高い。まず、かなり山奥にあるため、単純にアクセスが悪い。そして、昔は信者以外の見学も受け入れていたが、今はあまり積極的でないようだ。また、ネットで検索すると、しつこく勧誘された、あれはカルトだ…などという声もそれなりに見受けられる。ともあれ、巨大建造物は宗教系が一番面白い。それぞれに異様で、見ていて飽きない。

アトミウム(Atomium)

 海外の巨大建造物もまた、素晴らしい。2022年の秋にはヨーロッパにしばらく滞在していたのだが、そこでも私は普通の観光そっちのけで、巨大建造物を求め続けた。

 例えば、ベルギーのブリュッセルにある「アトミウム」。これも万博跡地にあるもので、ある結晶の構造を模して作った複雑な建造物である。高校の頃に何かの資料集で見たことがあり、少し興味があったので行ってみた。ブリュッセルの中心街から電動キックボードで30分ほど走ると、遠くから銀色の球体が顔を出す。万博記念公園に着くと観光地的な賑やかさは薄れてきて、再開発された清潔な空間が、遠くまで整然と広がっていた。万博跡地というのはどこもこんな感じなのだろう。

マグリットが描いたような雲だ

アトミウムでは、原子を表す球体が一つの部屋になっていて、原子同士をつなぐ棒の中はエスカレーターになっている。なかなか面白い。…しかし、日本で異様な巨像ばかり見て慣れてしまった私の眼には、いささか物足りなく映った。期待値が大きすぎたのだろうか?もっとデカければいいのに…。自分の美的基準って、案外そういう卑近なところにあるのかもしれない。資料で見ることと実際に正面から対峙することは、本質的に異なる。何事も自分の眼で確かめないとわからないものだ。

スポメニック(Spomenik)

 そして、私がこれまで見た中で最も思い出深い巨大建造物は、旧ユーゴスラビアにある。建造物というよりは巨大な彫刻なのだが、「スポメニック」と呼ばれるユニークな(時に不気味な)形をした像が、バルカン半島の至る所に点在しているのだ。2022年11月、私はスロベニアからレンタカーで近隣諸国を駆け巡っては、いくつものスポメニックを拝み続けた。文字通り、巡礼である。この記事のサムネイル画像はその一つだ。この話は次回へ譲ろうと思う。

日本にも世界にも、まだ見ぬ巨大建造物がたくさんある。
私のへんてこな旅はまだまだ続く。


イエローページ vol.37(2023/1/28)にて掲載
2024/7/14 加筆修正

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