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マンドリア共和国について

マンドリア共和国(英: Mandolia Republic)
中国大陸の東側の沿岸部をなぞる様に囲む、細長い国。
歴史的な経緯により、中国領土を間に挟みつつ、国が南北に分かれている(いわゆる飛び地。アメリカのアラスカ州のような状態)。
この国は熱帯雨林気候であり、フィリピン等と同様バナナの輸出量が多い。
マンドリンはこの国の伝統音楽に使われてきた楽器であり、外国へ渡った際、国名に因んでそう呼ばれるようになった。

………もちろん現実には、中国の沿岸部にそのような国家はない。上海や温州といった都市が雑然と並ぶだけだ。マンドリア共和国なんて国家は、この世界のどこにも存在しない。マンドリンもイタリアの楽器だ。

 これは、私が2022年8月17日の早朝に見た夢の中で、突如として現れた国である。夢の中の私は、グーグルマップでモンゴルの場所を調べようとして「Mongolia」と入力したつもりだったが、誤変換で「Mandolia」と検索していた。その結果、アプリは中国大陸の沿岸部へとフォーカスし、マンドリア共和国なる国家を表示した。そこで私は初めてこの小国の存在を知った、もとい、生成した。

私はいま、起きたばかりの布団の上で、この文章の草稿を書きなぐっている。

 たまに、妙に際立ったリアリティや強度で、特定の概念が夢の中に出てくることがある。夢から覚めたあともなんだか脳にこびりつくような感じがする。マンドリア共和国以外にも、これまでいろんな概念が私の中で生成され、そのうちのいくつかは新鮮な状態でメモ帳に保存されてきた。殆どはただの無意味な言葉である。例えばこんな言葉があった。「裸のナチズム」…意味はわからないが、どこか美的に感じられたので捕まえて仕舞っておいたのだろう。

 今回のマンドリア共和国は、もし完全なる嘘のWikipediaがあったらそこにちゃんと掲載できそうなほど輪郭のある概念だったので、こうして記録に残している。作家の安部公房も、ある夢の中で「阿波環状線」という架空の路線が徳島に存在していたと書いている(安部公房『笑う月』(1975))。こういう夢や無意識によって生み出された架空の概念をindexingして、何かアート作品を作れると面白いのかもしれない。まぁ、こんなことはもう100年前にシュルレアリストたちがやり尽くしてしまった気もするが。

 マンドリア共和国は、8月17日の私の夢の中では、確かに中国大陸の東側に「存在していた」。もしかしたら、ある日突然、幻島まぼろしじまの如く私の前に再び姿を現すのかもしれない。

後記

 一応、この世界にそれが実在しないことを確かめるため、「Mandolia」でグーグル検索をしてみた。すると意外なことに、トルコの南、東地中海に浮かぶキプロスという島国の南西部に、同名の小さな町があった。こんな辺境の地をわざわざ訪れる人はいないらしく、日本語でも英語でも全く情報が出てこない。観光資源が何もないのだろう。けれど私は、なぜだか不思議な引力を感じずにはいられない。いつかこのMandoliaを訪れる日を夢見て、地図上にしっかり旗を立てておいた。


イエローページ vol.33(2022/9/27)にて掲載
2024/7/13 加筆修正。なんだこの文章。