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絵本日記DAY7 嗚呼パリ、憧れのパリ

パリ。世界中の人びとが夕陽に染まるセピア色の塔に、ゆるやかに流れる運河に、庇(ひさし)の下で味わうワインに憧れを抱いていることだろう。行ったことはないが(だからこそとも言える)、わたしもパリに情景の念を抱いている者の一人だ。

やっぱりあなたもなのね!と嬉しく思わずにいられない絵本に出会った。

トミー・ウンゲラーの「アデレード」だ。 

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この絵本は、翼の生えたカンガルーの女の子のお話。

カンガルーのパパとママのもとに生まれた天使には、ほんとうに羽が生えていました。大きくなったアデレードは空を飛ぶことができるようになり、鳥や飛行機を眺めてすごし、ある日旅にでることを決めます。

このアデレードちゃん。とってもタフでラブリーでチャーミング。

涙を流してさみしがるパパとママをまるで励ますようにキスをして旅立ち、出くわした飛行機のうしろについていき、パイロットとは友達に。

インドや世界の国々を旅します。

わたしは、この一文!とか、この顔!とか、ぐっと心を捕らえられたものがひとつあれば、その絵本を連れて帰ることにしています。

この絵本での、その文章はこれです。

パリにきたとき、アデレードは こころを 
きめました。たびは これで うちきり。

たびはこれで、うちきり。

愛する家族のもとを去ってまででも、夢見た旅暮らしをすっぱりとやめさせてしまうもの。それがパリの魅力ということなのだろうか。なんともはや。

パリに永住することを決めたアデレードは、出会った優しい紳士に案内してもらい、ルーブル美術館でサモトラケのニケや、ノートルダム聖堂をたっぷり満喫します。

そして舞台女優として成功し、幸せな生活をおくるのでした。

そこであるとき事件が。散歩のとちゅう、火事を目撃します。ごうごうと炎をあげて燃えるマンションには、取り残された人間のちいさな兄弟が。

アデレードは勇敢にも、火の中にとびこみ、こどもたちを救い出します。

一躍、時の人(カンガルー)となったアデレード。月日が流れ、ついには手に入れた自らの財力で動物園の檻に入っているカンガルーを出してもらい、結婚するのでした。

羽がついているんだから、そりゃあ飛びます、旅だってします。プロポーズだって、動ける私がやります、という文字通りの身軽さ。

男とか女とか兄弟で何番目に生まれたとか食べていくための術と生きがいとの狭間とか、ちっぽけなことのようでちっぽけでないあれこれを、かろやかに飛び越えていくアデレード。

彼女のたくましさと行動力と、それでいて優美な姿。ハッピーエンドにほっこり安心できる絵本です。


アデレード そらとぶカンガルーのおはなし 作・・・トミー・ウンゲラー 訳・・・池内紀 2010年9月30日 株式会社ほるぷ出版

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