見出し画像

絵本日記DAY16 はじめてのキャンプ

こんにちは。じりじり焦げつくような毎日が続いていますね。
なぜか「意外!」「夏は私の季節って感じなのに」などとよく言われることが多いのですが、私は夏の暑さがほんとうにニガテです。さらに冷房もニガテなので、毎日ほとほとこまっています。

でも、夏の行事は大好き。お祭りのお囃子には血がどくどく騒いでくるし、風鈴の涼やかな音色には手をとめてうっとりできる。

流しそうめんなんて、半ばクレイジーな夏のおたのしみ。
上からホースの水とともに、勢いよくそうめんが流れてきて、それを狂喜乱舞、箸で掬おうとするなんて。流しそうめんを目の前にしてはしゃいでいないひとには、未だ出会ったことがありません。

それから、ひと夏の恋、ということばがあるくらいだから、きっと一度や二度は誰しもにそんな甘酸っぱい思い出があるかも、しれません。

そういう、夏のすこし危険な愉しさや、刹那さが、私は好きなのだとおもいます。


それで。先日、ユカイなおとなの皆さんと、二泊三日のハイクを体験してきました。
ギア(荷物や道具のこと、たぶん)の軽量化を目指しながら、酒瓶はわんさか持って歩く、というプログラムです(趣旨の解釈に差異あり悪しからず)。

テントで二泊するのははじめて。しかも仲の良い友人は皆都合により参加できなくなり、アウトドア初心者の私はほんとうに三日間も歩ききれるのかしら、と終始不安なままでした。しかもよりによって、全国的猛暑日のあたりくじつき。
かげろうがめらめらとゆれるアスファルトを、ザックを背負って歩いた距離、実に70キロ。一日あたりだいたい20キロで、時間にすると6〜7時間くらい。総距離を知らなかったからこそ歩ききれた、というのが正直なところです。


ではなぜ、人はハイクをするのか。
これはあれですね、人はなぜ山に登るのか、という答えの出ない哲学的問いシリーズの類ですね。

もちろんいくつか、すでに答えは知っています。
自然のなかでたべるごはんは、最高においしい。
ふだんは極力避けているカップラーメンもビールも、大自然の中では身体に毒どころか薬にさえ感じるくらい、ウマイのです。

それから、仲間、という漫画にでてくるようなことばを何歳になっても恥じらいなくつかえるところも、好き。
一人では、炎天下のなか70キロ歩く挑戦なんて、なし得られるはずがありません。24時間テレビのマラソンだって、伴走者の坂本コーチがいるからこそ。
ゴール付近では私の脳内BGMはサライでした。

道すがら目についた看板をネタにエピソードを拡げ、お腹がよじれるほど笑いながら歩く。赤い自販機を見つければ駆け出すし、目の前に海があれば迷わずとびこむ。短パンを乾かしながら、疲れた足を前に出して、ひたすらに歩く。
そしてゴールでは寂しさを感じつつ、頑張ったなぁ、楽しかったなぁ、を共有する。

これを、仲間と呼ばずしてなんと呼ぶのか。


さて。ここで、ようやく今回の本を紹介しますね。
「はじめてのキャンプ」の主人公なほちゃんは、「ちっちゃいおんなのこ」なので、無論キャンプには参加したことがありません。
この本には、太く大きくなっている文字が三箇所だけあります。
それが、この物語の肝であり、味わうべきところです。

「ちっちゃいこは だめ!」

と、おおきいこが いいました。

おおきいこたちには、なほちゃんとは呼ばれていないんですね。
ちっちゃいこは重い荷物を持って歩けないから、
ちっちゃいこはすぐ泣くから、
ちっちゃいこは暗い外にひとりでおしっこにいけないから、キャンプになんて連れてはゆかれない、という具合です。

そこで、なほちゃんのめが きゅっとつりあがるわけです。

「わたしも いく!」



おもたいリュックサックを背負って、『おおきいこ』たちの先頭を歩くなほちゃんや、川でひやしたすいかをたべて、タネを『おおきいこ』の真似して飛ばそうとするなほちゃんの姿は、たまらなく愛おしい。
キャンプというはじめてのビックイベントを経験した、ひとりのちいさな女の子。表紙と裏表紙の表情の違いが、林明子さんの”はじめて”を描く秀逸さを物語っています。


人はなぜ、ハイクをするのか。
もちろん、なほちゃんのようなこどもは、
「あたしこの夏、キャンプをとおしてひとまわり成長したいのよネ。だからおかあさん、ちょっと行ってくるわ」
なんて、言いません。

でも、人は皆、潜在的に知っているのだと思います。
人間などが到底敵うはずのない大自然のなかで過ごすと、じぶんがどう感じるのか。
何を得るのか。

それで、私たちは幾つになっても、夏には汗をかきかき、冬には凍えながら、また性懲りも無く山を登ろうとするわけです。
何十キロも歩こうとするわけです。
おもたい酒瓶を背負って。


今年の夏も、各地でお祭りが中止になったり、帰省が制限されたり、まだまだ今までのようにはいかないこともつづいていますね。
この記事を最後まで読んでくださったあなたにも、どうか、たのしい夏の時間がおとずれますように。

はじめてのキャンプ 林明子さく・え/1984年6月20日発行 福音館書店


画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?