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絵本日記DAY4 秋の夜長に絵本であそぶ

久しぶりに、赤い扉のパン屋さんへ行った。

新しいメニューがたくさん増えていて、あっという間にトレーがパンで埋まっていく。一際目をひいたのが、挑発的な赤のラズベリージャムと有塩バター、板チョコレートが2枚サンドされたバゲット。

お会計の時に、お店の奥さんから「早めに食べてくださいね。バターが溶けちゃうから」と教えてもらった。

それで。図書館に向かう車の中で、がりりと一口そのバゲットを噛んだ。

なにもそこまで急かしてはいないだろうに、しかし私は教えを忠実に守りました。というよりは、ラズベリーの誘惑に負けた。

そもそもバゲット自体が薫り高くて美味しいが、ラズベリーの甘酸っぱさと、ほんのり苦いチョコレートと、罪深いでっぷりとしたバターが一気に攻めてくる。なんだこのうまいパンは...。このたべものを作ったパン屋のご主人は天才だ。車の中にパンくずをぼろぼろ落としながら、ひとり感動したのでした。

それで、絵本のはなし。今日は「あそべる」絵本を見つけました。

おとうさん 

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サラリーマンのお父さんが、住宅街からバスに乗り、満員電車に揺られ乗り換えをし(電車の中には隣の人が読む新聞をのぞきこむ人もいる)、人人人の駅(さっきのバス停にいた親子もいる)から歩いて出社する。

このお父さんの会社はビルの雰囲気からいって神保町あたりかしら、と考えるのがたのしい。

会社では会議に出席し、発注をし、お昼には混雑する列に並んで外ランチ。プレゼンを聞き、電話応対をし、コピーを頼み、部長と話をする。

18時になり、おでんや焼き鳥の屋台で一杯、には見向きもせず(あるいは後ろ髪をひかれる思いで)、電車を乗り換え、家族の待つ我が家に帰る。今日も一日お疲れ様でした。

という絵本。でもこれはあくまで私が切り取った「おとうさん」の日常。

この絵本には一切文章は添えられていない。だから私は団地のベランダで布団を干しながら隣の奥さんとおしゃべりすることもできるし、あくびをしながら駅を歩く人になることもできるし、このお父さんにコピーを頼まれているOLさんになることもできる。

日常のディティールが丁寧で、自由で、何度だって遊べる絵本は最高。

同作者の『ふくのゆのけいちゃん(こどものとも・福音館書店)』や、『はじめてのおつかい(筒井頼子 作・林明子 絵)』が楽しいのも、そういうディティールがあるから。

銭湯にいる人たちが体を洗ったり脱衣所でフルーツ牛乳をのんだりしている。町内会の掲示板に貼られている「絵のおけいこ」のポスターは、先生の名前が林明子だったりする。さらに言うと、はじめてのおつかいで登場する煙草を買いに来るおじさんは、『いもうとのにゅういん』にもこっそり描かれているのです。

散歩中によその家の洗濯物をちらりと見てしまうとか、開いている窓越しにおじいちゃんの後ろ頭とテレビが見えるとか。誰かの日常の一瞬が、こっそり見えてしまうときのあのなんとも言えない感じ。

そういう物語の大筋とは関係のないところで繰り広げられていることこそがありふれた日常なのであって、それが絵本のなかだったら尚更、自由に歩きまわることができる。 

子どもの頃、ウォーリーを探すより彼が落としたちっさい双眼鏡や杖を探すのが好きだった。RPGをやっても、ストーリーを進めずに本棚とか樽とかばっかり調べてた。

そういうことが好きな方は、楽しめる絵本なんじゃないかと思います。

紹介したい「遊べる絵本」というのはまだまだありますが、今日はこの辺で。

おとうさん: 秋山とも子 さく 瑞雲社 出版

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