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絵本日記DAY5 雨、雨、雨
今日の盛岡は、久しぶりにどしゃぶりの雨。
濡れた路面に映って光るイルミネーションを見て、なんだか少し焦ってしまった。あ、もうクリスマスが来る、年末がやって来る、と。
ほんとうに急がなけきゃいけないことなんて、実際はそんなにないのにな。
今日会ったひとが「雨ずっと降ってて、いやだねぇ」と言ったとき反射的に「そうですねぇ」と答えてしまったけれど、ごめんなさい。嘘をついてしまいました。私は雨がたまらなく好き。雨が屋根にあたる音も、雨が降る予感をはらむ匂いも、土がむわんと立てるあの匂いも。
それで今日は、雨にまつわる絵本を2冊選びました。
①あめのひ
ユリーシュルヴィッツ 作・画 矢川澄子 訳 福音館書店(1972年発行)
雨について描かれた絵本は数多くあれど、私の雨の絵本ベスト1は間違いなくユリーシュルヴィッツの『あめのひ』。
『あめが ふりだした ほら きこえる』
出だしのこの一文で、心がぐわんともっていかれる。
『まどに ぴしゃぴしゃ やねに ばらばら』
うんうん、雨、降ってる。アパートメントの出窓から雨を眺める猫。ここはパリなのかな、それともニューヨークかしら。
やわらかな黄緑や黄色、緻密な線だけで描かれた絵。
絵も添えられた日本語も、ごくシンプルなのに(だからこそ、と言うべきなのかもしれない)、雨も人も自然のいきものたちも、のびのびと喜んでいるように見える。ここまで雨が生きている絵本は、ちょっと見たことがない。
この絵本の描かれ方で好きなのは、世界のすべてが雨に濡れることを全面肯定しているところ。山も丘も草も池も、子どもたちも、雨を歓迎している。命の水としての雨。
『みずたまりは そらのかけら』という表現も詩的でとっても素敵。
心がぱさぱさに乾いているときに、読むとしっとり潤わせてくれる絵本だと思っている。
②あめがふるときちょうちょうはどこへ
M・ゲアリック 文 L ・ワイズガード 絵 岡部うた子 訳
はて、雨が降るとき、たしかにちょうちょうは一体どこで雨宿りしているのだろう。考えたこともなかったな。
ページをめくる度にいろいろな動物たちが出てきて、雨のときにはどうしているかを、教えてくれる。
『へびは、いわのあいだに するすると すべりこめるでしょうし,』
『あめがふるとき,さかなは どこへ いくのでしょう
まぁおかしい みずのなかには あめなんか ふりませんね』
教えてくれる、と書いたのは絵本の言葉が、澄んだ女性の声で聞こえてくるから。たぶんちょっと細身で、上品で、眼鏡をかけたおばあさん。
描かれているのは春のやわらかい雨のような感じがするし、人生経験豊かで気品あふれる声が、自然界のことを教えてくれる絵本は素敵だ。
以前西荻窪の住宅街を歩いていたとき、突然目の前に、いきいきと茂る緑が現れた。一瞬イギリスの田園地方かと錯覚してしまうような、手入れのされた木と白い壁の家。TEA&CAKEと書かれた看板には蔦に実る葡萄が描かれていた。
お店に入ってみてもっと驚いたのは、そこが絵本の中に入ったような空間だったからだ。あかるく白い壁、あたたかいオレンジの灯り、白い木枠のついた窓。美しいグレーヘアーをお団子にひっつめて、ぴんと糊のきいたグレーのシャツを着た年配の女性がきびきびと働いていた。
今日この絵本を読んだら、なぜかその喫茶店のことを思い出したのだった。そこにいたときは、雨なんか降っていなかったというのに。
雨が記憶を連れてくるってこと、あるんじゃないかと思っている。
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