見出し画像

「心優しきガイドのジョンー立ちはだかるバスの乗客ー」アフリカ大陸縦断の旅~エチオピア編⑦~

*前回の物語はこちらから!!!


 2018年8月15日、10時頃。私たち日本人観光客は完全に見下され、街全体から放たれているかのような異様な雰囲気。そして、当然のように、金目当てで群がってくる黒人の詐欺集団。「(早く次の場所、カイヤファールへ。)」しかし、矢継ぎ早に近寄ってくる客引きたちから、身をかわすことで精一杯の私たち。そんな中、声をかけた彼は、ジョンと名乗る男性。どうにかこの街を脱出すべく、カイヤファールまでの案内を頼み込んだ私たち。すると、何ともあっさりとそれを承諾したジョン。さらに値段交渉の末、1日300ブル(当時約1200円)を支払うことを条件に、最終目的地であるカロ族への訪問まで付き添ってくれることに。時が経つにつれて増幅していったアルバミンチからの脱出願望と、ガイド料の安さという安易な2点から、ジョンを選んだ私たち。人柄を度外視したため、信用することはできず、騙される可能性も考慮しておかなければなりませんでした。

 大きな不安を残しながら過ごさなければならない、と思っていた私たちでしたが、徐々に垣間見えてくる、ジョンのガイドを超えた人柄の良さ。

 ジョンによれば、この日はイスラム教のイベントで祝日。そのため、バスがほとんどない出ておらず、諦めかけた私たち。しかし、1時間尋ねて回ってくれたジョンのおかげで、バスを見つけ出すことに成功。
 その後、バスの停車中に、バナナを売りに来た子供たちから、その1房を購入したジョン。それを私たちに分け与え、バナナ売りの子供たちに笑顔で手を振っていたジョン。

「(ジョンをガイドに選んで良かったのかもしれない。)」そう思い始めていた私たちを乗せて、バスはカイヤファールの手前の街、コンソに向けて走り出しました。

 ジョンに買ってもらったバナナを食べ終えたその後、景色を眺めたり、乗客たちと世間話をすること約3時間。例のごとく一睡もできないまま、私たちはコンソに辿り着きました。無事に荷物を回収し、木々に囲まれた道路を下っていくと、建物や人がたくさん見えてきました。左側に立ち並ぶ、日用品販売のボロ小屋。右奥に見える、ダンプカーやショベルカー。緑に囲まれた小さな街、コンソ。すれ違う人々からは、あのアルバミンチで感じた異様な空気は放たれていませんでした。

「この街ならカイヤファールへ向かうバスが出ているはずだ。今からバス会社まで案内するよ。」

 そう言って前を歩くジョンについて行くと、多くのバスが停まる砂地に案内されました。そして、ジョンは受付のような場所で何かを話し、2枚の紙切れを持ってきました。

「2人で100ブル(当時約400円)だ。祝日料金だからいつもより少し高くなっている。」

「(調べてた値段は70ブル。ちょっと高いけど、他のところも知らんしなぁ。祝日やし、しゃあないか。)」

 値段の誤差を諦め、100ブルをお支払い。そして、今日中のカイヤファール行きが確定。バスの発車時刻まで約1時間あるということで、3人でご飯を食べることになりました。

 少し歩き、屋台に到着。メニュー表を埋め尽くすインジェラの文字。ジョンは早くも店員に何かを注文した様子。

「インジェラか。見た目、雑巾で味がゲロのやつやろ?この後も移動あるし、腹壊すかもしれへんから、今はやめとこか。金も使いたくないし。」

 メニュー表の隅に書かれたパスタの文字に目をつむり、私たちは我慢することを選びました。

「お腹いっぱいやから、今は大丈夫。」

 とジョンと自分に言い聞かせ、テーブルに座りました。そして数分後、ジョンに届けられた巻物状のインジェラと、鉄板に乗った野菜と肉。昨晩からあのバナナしか口にしていなかった私たちでしたが、ジョンが頼んだインジェラを見つめることしかできませんでした。

「エチオピア人は1日3食これを食べる。インジェラは俺のソウルフードだ。3人で食べよう!」

 ジョンの気遣いもありましたが、インジェラ以外を少しもらった私たちは、お腹いっぱいの一点張りでその場をやり過ごしました。

「ところで、カロ族の後はどこかに行く予定はないのか?」

「次はケニアに行くと思う。モヤレって場所まで行くバスがコンソから出ているはず。だからカロ族の後はもう1度ここに戻ってくるよ。」

「そうか。カロ族まではまだ長い。その荷物は預けた方がいいな。安いところ知ってるから、食べ終わったら、荷物を預けに行こう。」

 言われるがままジョンについて行くと、もう廃業しているであろうボロ宿に案内されました。

「ここに預けよう。1日30ブルだ。貴重品は忘れずに持って行くように。」

「(1日自分の荷物放置か。しかもロッカーちゃうし、怖いな。でも100円しかかからんし、バックパックがなくても旅は続けられる。この後どんな道のりかも分からんし、ジョンを信じてみるか。)」

 行動を共にするにつれて、ジョンへの信用度が増していった私たち。迷いつつも、小さなカバンに貴重品を詰め込み、汚い食料庫のような場所に荷物を置いて、その場を後にしました。

 そして午後3時頃。予定より少し遅れて、私たちとジョンを乗せたバスは、コンソからカイヤファールへと出発しました。

 イスラム教のイベントで祝日のせいか、満員のバス。なぜか砂と草まみれの床、破れたボロボロの座席、車内に充満する特有の匂い。

「てか待ってくれ、座るところないやん。」

 席に案内される訳もなく、たくさんの乗客と対面する形でバスの前に立つしかなかった私たち。ジョンの席もなかったところを見ると、差別的なモノではないと思い、少しほっとしました。

「(こっから3時間立ちっぱなしはきついなー。)」

 先を考えて落ち込んでいた私たちをよそに、乗客たちは大きな声で話し始めました。

「(なんか盛り上がってるなぁ。)」

 そんなことを吞気に考えていた私たちでしたが、徐々に車内は異様な空気に変わっていきました。乗客同士で盛り上がっていたかと思えば、私たちを横目にジョンに何やら伝える彼ら。私たちに向けられた、乗客からの奇妙な視線。そこには、アルバミンチと似通った空気が漂っていました。良くも悪くも笑顔の人。怪しげにこちらを見る人。私たちのことなど見ていない人。

「(これは良くない、良くないなー。)」

 すると、1人の男性が私たちに近寄ってきました。手に持っていたのは、数個のピーナツと、葉っぱがついた植物数本。それらをおもむろに私たちに渡したかと思えば、すぐに座席に戻っていく彼。

「(なんやこれ。)」

 数秒の間、頭を回転させ、色々と考えた私たちでしたが、意味が分かるはずもありません。しかし、耳に入る乗客たちの大きな笑い声。ふと顔を上げると、乗客全員が私たちに目を向けていました。

「(完全に見世物やんけ。)」

 はやくそれで何かしてみろよ、と言語は分からないものの、そう言われている気がしてなりませんでした。


「(この後3時間、この地獄の空気で過ごすんか?いや、それは耐えれん。今はジョンの助け船も期待できへん。どうする?でも舐められたままやと、この後何が起きるか分からん。何か打開策は、、。ピーナツと植物、、、。)」


「よし、やってやろうじゃないか、エチオピア人たちよ!!!」


*次の物語はこちらから!!!



















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?