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「差別の向こう側ーサイレントモノボケで笑いを取れー」アフリカ大陸縦断の旅~エチオピア編⑧~

*前回の物語はこちらから!!!


 2018年8月25日、私たちはガイドのジョンと共に、カロ族訪問を目指しました。ジョンの尽力もあり、バスに乗ることに成功した私たちは、途中でバナナを食べつつ、約3時間の移動を終えて、無事にアルバミンチからコンソに到着。ここでもジョンの案内を頼りに、私たちは次の目的地である、カイヤファール行きのバスチケットを手に入れることに成功しました。そして、バスの時間まで昼食をとり、背負っていた重たい荷物をボロ宿に預けました。こうして準備完了。いざカイヤファールへ。

 意気揚々とバスに乗り込んだ私たちでしたが、車内の劣悪な環境に面食らうことになりました。さらには座る場所もない。たくさんの乗客と対面する形で、3時間の棒立ちを覚悟した私たち。と、そこへ1人の男性が近寄ってきました。彼は私たちに、数個のピーナツと謎の植物を手渡し、すぐに座席へと戻っていきました。妙に盛り上がる車内。そうです、私たちは完全に見世物になってしまったのです。

「ピーナツと植物で何かしろと、、、?」
「よし、やってやろうじゃないか、エチオピア人たちよ!!!」

 とは言っても、言葉が伝わるはずもありません。動作だけで乗客の想像を上回らなければならないという事実。しかし、次第に強まっていく乾いた笑い声は、私たちがいつまでも突っ立っていることを許してはくれませんでした。

「(怖いけど、何かせなあかん。)」
「(訳分からんけど、捨て身でいくしかない!)」

 バスに充満した異様な圧力に勝てないことを悟った私は、気が付けば植物を次々と口に放り込んでいました。

 ピーナツを食べると見せかけて、夢中で謎の植物の葉を平らげる私。

 何秒、何分経ったのか、、何枚、何本食べたのか、、

 車内に巻き起こる爆笑の渦。

「いいぞ!もっとやれ!」ともはや日本語で聞こえてきそうな乗客たちの高い声。

「(勝った、、。エチオピア人の想像を超えてやった。)」

 なお鳴り止むことのない大爆笑に、調子に乗った私は、留まることなく同じ行為を繰り返しました。

 すると、急ぎ足で私に駆け寄ってくるジョンの姿が横目に見えました。慌てて私の右手を掴み、植物をバスの通路へと叩き落としたジョン。

「no、、No、. STOP!!!」

 そう言って両目でしっかりと私を見つめるジョン。いつの間にか先ほどまで聞こえていた賑やかな声は消え、静まりかえる車内。何人かの乗客が、「もうやめとけ。」といったジェスチャーをこちらに向けていました。

「(なんかまた変な空気になったな。でも最初とは違うこの感じ。やりすぎて、気遣われてんのか?)」

 植物を没収された私は、何となくピーナツを口にして、再度近くの者同士で何か会話を始めた乗客たちを、ぼーっと眺めていました。

「ごめん、もっと早く止めるべきだった。」

 状況が飲み込めず沈黙していた私に、小さな声で謝罪をしてきたジョン。

「(ジョンが謝らなくてもいいのに。)」

 見世物にされたことは気にしていない、こんなことも覚悟の上で来ているから大丈夫だ、と伝えようとした私でしたが、それを遮るようにジョンは言葉を続けました。お互い拙い英語だったこともあり、全て理解することはできませんでしたが、恐ろしい事実が発覚しました。

 ジョンによると、私が食べまくっていたあの植物は、チャットと呼ばれており、覚醒作用のようなものが含まれているとのこと。不慣れな人間の大量摂取は体に良くない影響をもたらすんだとか。

「(まじかよ、、。何かよく分からんけど、日本やと非合法のやつってことね。もう終わったことやし、今更どうこうできん、、、。)」

 時間が進むにつれて、何もなかったかのように徐々に盛り上がりを取り戻していく車内。

「(やかましくなってきたな。特に1番前の席の女性陣。何話してるか分からんけど、さっきのが相当ウケたか。)」


 吞気なことを考えていた私でしたが、私たちが乗車した時に感じた雰囲気と少し異なっていることには気付いていました。もう誰も私たち日本人を気に留めてはいなかったのです。私たちは見世物としての観光客から、ただの1乗客としてその場に存在していました。

「(無理矢理なんか分からんけど、俺らほぼ空気扱いやん。完全に線引かれてる。そんなつもりでやった訳じゃないねんけど。まぁこっちの方が何かと楽か。でも、これはこれでちょっと寂しいなぁ。)」

 これが普段のエチオピアのバスの車内なのか、乗客たちが何かを察して協力し合っているからか。賑やかな乗客たち1人1人から滲み出る重たい空気を乗せて、バスは走っていきました。

 そして、ただそこにいるだけの自分にも慣れてきた頃、今度は1人の女性が私に近寄ってきました。そして、彼女は1枚の紙切れを、私に差し出しました。雑に半分に折られ、砂埃が付いた小さな紙。

「(次はなんや。見世物のお題でも書かれてんのか?ちょうど物足りへんかったし、乗ってみるか。)」

 コケにされることさえも楽しめそうだったこの時の私は、興奮気味にその汚い紙切れを開きました。

「ん、、?なんやこれ。何かの番号?)」

 そこにはただ数字の羅列があるだけでした。不思議に思い、目の前の彼女の顔を覗き込んだ私。すると、彼女は目を逸らし、小さな声ではっきりと私に伝えました。


「 I Love You 、 、 、



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