10.未来ファンタジー_ホロパース2121
#小説 #シロの正体 全11話
トゥガク
「創造の前には破壊。コスモルールです。人類を殺めず、グアンに知られずという前提のもと作戦は決行されました。『ユーラシア中央部にある核ミサイルの落下地点コードが書き換えられ、そのまま垂直落下させる計画がある』という偽の情報を流しました。実際はスター連盟の子どもたちが自分たちにコントロール機能をすべて移管させたあと、その情報を流したのでグアン軍が慌てて計画を早めて発射ボタンを押しましたが、すでに無駄な状態でした」
サトリ
「そんなの初めて聞いた」
ユラ
「うん」
二人ともポカンとした表情である。
トゥガク
「もともとは私たちが、あまりに早く人類に『文字』を渡してしまったことが原因です。それを人類へ説明するには、あまりにグアンの洗脳やブロックが強すぎて私たちの言葉にほとんどの人類は嫌悪感しか示しませんでした。ですから人類を守るためにも、強行手段としてシロを起動させました」
ユラ
「結局シロは、なんなのですか?」
トゥガク
「あれは『人類の良識』です」
二人は不思議そうにトゥガクを見つめました。
トゥガク
「ここに来るまえ、僧侶に聞いていますね。私が『特定の感情を収集して、それを動力にできる』発見をしたと。特定の感情は喜怒哀楽でも良いのですが、私たちが選んだのは『良識』でした。人々の前頭葉に宿る『良識』の電気信号をリングが収集し、シロが解析と統合と発信をして、リングが受信する。構造はシンプルです。私たちはそれをかつての人類に重ね『ホロパース』と呼んでいます」
ユラ
「つまり、リングが僕たちの『良識』を収集していて、その総意が人類をコントロールしているのですか?」
トゥガク
「さすがユラさん。話が早い。コントロールというとすべてが予定調和のようですが、私たちは人類がつくり出した文明を平等に広め、文化や生き方を自由にチョイスできるよう設計しました。そして深い闇へ沈まないようサポートをしている。闇は否定すべき存在ではなく、摂理の一部です。闇から抜け出す力は大きな成長を人に与えることもある。それもまた、一つの人間の在り方。結局はどんな道を通ったとしても、人は幸福を自由に求める権利があります。AIは人類を圧倒していますが、人類に必要な感情や表現はどうしてもできなかった。そこで私たちはAIにホロパースをドッキングさせました。
人類自身が自分たちを守り、発展していけるような仕組みを『自然摂理研究所』の方々といつも模索しています。そして『良識』の分野も研究しています。とにかくケースバイケース。法律や良心、善悪だけで判断がつかないことの方が人類には多いのです。先ほども話したとおり、誰かを守るためについた嘘は悪なのか?苦しみから逃れるために選ぶ死は悪なのか?生まれながらの殺人者は悪なのか?
前後の状況や環境、当人や周囲の人々の価値観によってあまりにその判断が異なる。それを『人類の良識』に判断を委ねました。もちろんその判断を常に一人ひとりに課しているいるわけではなく、各個人の思考と行動の傾向と、過去の判例、そして当人の思考や能力などをすべて数値化して計算し、いくつかの『総意』を導き出し、社会にリリースしています」。
サトリ
「例えばどんなことですか?」
トゥガク
「まず、不動産業を廃止しました。地球は人類の遺産です。土地に値段をつけることが、悪銭の根源でしたのでそれを解体しました。そして、上下水道など生活インフラに値段をつけることも禁止しました。命に値段をつけることは、摂理ではありません。あとは君たちが小さい頃に万引きで捕まりそうになりましたね。あれは君たちの脳に、驚きと罪悪感が生まれたのでお咎めなしとシロが判断しました。
法律で決まっているから、という詭弁なくしたのです。相手が嫌がっていたらそれがしてはいけないことですし、ルールを守っているから自分だけ得して、他人が損をしても構わないというのは明らかに闇の温床です。逆に少しルールから逸脱したとしても、誰も傷つけることなく多くの人が幸せになるなら、それは光だと思いませんか。ときどき立ち入り禁止の絶景区域に人が入ってきます。けれどその人自身はそこで悪さをするわけでもなく、自慢するわけでもなく、落ち込んだ友だちにその景色を見せてあげたいからと、安全を期して連れてきました。優しさです。ある程度の法律やルールは必要ですが、全能でないことは人類も認めています。シロが実現したのは、一人ひとりの人生に即したルールを課すことや、自由の許容度を最大化できるという世界です」。
ユラ
「良識はだれにでもあるのですか?」
トゥガク
「理論的には、あります。しかし実際それを得るには、教育と時間が必要なので、今すぐ誰でも持ち合わせているというわけではありません。教育もグアンがお金で囲っていたので解放し、無償化しました。すでに知見とネットワークは十分な開発がされていたので、あとは広げるだけです。
良識に必要なのは、思いやりと前向きな思案の経験の多さ、そして知識です。私たちが良識を育てるために着目したのは『クリエイティビティ』という脳の活動です。子どもにさまざまな体験をさせたり、その個性を伸ばすことで得られるクリエイティビティは、多くの場合お金をかけたり、家系や利権をかけなければ得られない特権でした。茶道、音楽、美術、旅行、ビジネスセンス、特権階級だけの交流など、歴史ある文化はクローズドな贅沢品でした。
贅沢なことと幸せなことはよく混同されたので、貧困層は富裕層を憎み『相容れない』という感情によって対立構造が作られました。そして心にも格差が生まれたので、さらにグアンの思惑通り大衆の心にも闇が根付くようになりました。しかし、ときどき貧困家系でもクリエイティビティの高い子どもがいて、彼らがビジネスなどで成功する美談は大衆のヒーローとして注目を集めました。グアンはそれを良しとせず『クリエイティビティ』という言葉を小難しく表現させ、大衆には『理解しえない、できない』という能力開発のブロックを課しました。そのため裕福な子や才能のある子だけが結果を出せる、という絶望や嫉妬心を植え付けることで心の格差に閉じこめ、人類を自滅へとコントロールしていったのです。
しかし私たちが教育を無償化する前に、スター連盟の子どもたちがとても良い変化を人類に与えていました。1990年代の情報革命です。クリエイティビティがオープンになり始め2010年代に花開き、YouTuberや個人クリエイターの活躍が世界中を席巻しました。そしてそれが一般へ急速に浸透したのもまた、2020年のウィルス蔓延がきっかけです。人類は家に閉じこもり、オンライン上での活動を否応なしに求められました。以前からスター連盟の子どもたちが発信していた『お金より、まず人の心』へと人類の回帰が始まっていました。
クリエイティビティとはその名のとおり、想像を具現化する創造力のことです。問題を解決したり、新しい発見をしたり、今までにないモノや活動を作ったりと、未来を作り出す煌めく能力、全人類が持っている才能です。その才能や個性を伸ばすことで、良識のパワーが得られるのです」。
サトリ
「いまグアンはどうしているのですか?」
サポートで、パワーチャージ! 有り難く頂戴いたします✨感謝