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【芸術文化の理想の助成とはVol.2】活動の評価が十分にされていないという現実、「事業検証⇔助成制度の更新」がもたらすもの

ほとんどの助成で、活動に対する評価がされない


前回の記事(https://note.com/trash_treasure/n/nda8078f62a0a
で挙げたリストの中で、個人的にいま気になっているのが

・効果測定、事業評価


助成金の申請では「期待される事業効果」について記入する必要があることが多いです。
そして報告書にも「活動の波及効果」を報告するところが大体あります。
確かに自身の活動の振り返りや、社会にどのような影響を与えたかを意識することは大事だと思います。


ただ、ほとんどのケースでは事業評価が自己申告だけで終わってしまうことが多いのです。
本来、効果測定や事業評価というのは他者による「客観的な視点と分析」を基に行うべきではないかと思うのです。
これまでにいくつかの助成団体からは1行~3行程度の事業評価を受け取ったことはありますが、それ以外のほとんどの団体はこちらからの報告だけで終わりました。
助成団体からの報告に対するフィードバックは一切なし、という訳です。

 


ニッセイ基礎研究所のホームページ内より
「地域アーツカウンシル その現状と展望」
著者:社会研究部 研究理事 吉本 光宏 氏
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53306?site=nli

こちらの[助成制度の運営に伴うシンクタンク機能の充実]より一部抜粋させてください。

「審査委員会による審査では、採択の有無を決定する事前審査だけが行われるケースが多く、助成による成果や効果の把握は手薄になりがちである。しかし、限られた予算をより有効に活用するためには、助成によってどのような効果があったかを把握し、それを次の審査あるいは助成制度の改善につなげていくことが重要である。」



事業の成果や効果を把握し、次に繋げる。


これこそが文化の発展や振興に大事なことではないかと思います。
助成団体とアーティスト(または芸術団体)のキャッチボールによって得られる効果は大きいはず。

ところが現状は「予算が適切に処理されたか」「報告書類に不備が無いか」という部分にしか注力していないようにみえることが多い気がします。
文化を共に発展させるという意識、パートナーシップを感じさせてもらえないことが多いのです。
(ただし、皆無ではありません。意識の高い助成団体もあります)


事業評価は簡単じゃない?


作品内容を理解するには、ある程度の知識や経験を必要とします。
作品への審美眼だけではなく、作品が生まれた背景や現場環境の近況を把握する必要もあるでしょう。
日本では事業評価の専門家も少ないでしょうし、簡単なことじゃないというのはわかります。
また、お金を出す側が作品に口をだすのは良くないという考え方もあると思うのですが、求めているのは作品の良し悪しについて意見することではなく、事業によってどういう効果や影響が生まれたかについて対話を重ねることなのです。

事業の評価ができないとどうなるか。


事業評価が事業内容によって検証できない場合、「報告書類の精度」や「健全性の高い財政収支」「観客動員数」などのデータで事業の良し悪しを管理することになりがちな気がしています。
担当者が見にも来ないのであれば、書類上だけで全てが完結することになります。

ただ、私達が最も大事にしているのは現場で何が起きたか、です。
例え対象人数が少なかったとしても、成果は地味であったとしても、いま、現場に、そして社会に必要なことというのは確実にあります。

「事業検証⇔助成制度の更新」というサイクル


どんな制度であっても「生きた制度」にする為には、検証と更新のサイクルが不可欠であると考えます。

最初から完成度の高い制度なんて、ないんです。
検証をしないと、課題を正確に把握できません。
課題を把握できないと、誰のための制度なのかわからないものが生まれます。


例えば、地方自治体では中央の事業モデルをコピーして実施することがあります。
それは一概に悪いこととはいえず、ベースとなるモデルはあっても良いと思うのです。
ただ、そこに地方都市の現状であったり、目指すべき独自のゴールを設定できなければ、「血が通っていない施策」になってしまいます。


例え最初はコピーの施策でうまくいかなくても、その制度を検証し、更新を繰り替えすことで生きた制度になる訳ですが、現状ではそのサイクルを作ることができている団体は・・・どのくらいあるでしょうね。
毎年同じような募集要項を出して、同じような成果を挙げているところが多い気もします。
もちろん!明確なビジョン、解決すべき課題、そしてその制度を必要とする多くの対象者がいるのであれば、同じような募集要項でも全く問題はないのですが。


次回は事業評価の先にあるはずの「事業報告」や「PR活動」について書いていきたいと思います。
これについては、アーツカウンシルについて書かれた文章ではありますが、最後にもう一度だけ吉本 光宏 氏の記事から抜粋させていただきます。

「なぜ芸術文化に公的資金を投じる必要があるのか、そのことでどんなインパクトがもたらされるのか、さらには、芸術文化はなぜ私たちの社会に必要なのか。そうした問いかけに答えていくためにも、シンクタンク機能を備えたアーツカウンシルの設置は欠かせない」

シンクタンク機能を備えたアーツカウンシルだけがその答えになるとは思っていませんが、そして現状としてアーツカウンシルがそこまで強いメッセージを社会に発信できていない気もするのですが・・・

こういった問いかけに答え続けること。
そのうえで「PR=パブリックリレーションズ」つまりは公共との関係性を作っていくこと。

これは本当に大事なことですし、日本社会にまだまだ足りていないことだと思います。


文章:森嶋 拓
写真:yixtape
ダンサー:Yoshinori Kikuzawa

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