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SDGsブームに感じる違和感:SDGsについて抑えておくべきことリスト

SDGsブームに対するモヤモヤ感

国連が2030年までに人類が達成すべき開発目標として17の持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)を提唱している。日本でも各種メディアが東京オリンピック・パラリンピックの開催に合わせて特集を組んでいたり、企業のCSRや地方自治体の単位での地方創生戦略の中にも頻出するようになってきている。

「SDGsブーム」とも呼べそうなこのような動きのなかで、SDGsを企業経営や自治体運営のなかに取り込むために助言をするSDGs系コンサル、個人の生活スタイルのなかにSDGsを取り込むための教本系書籍、SDGsをプロモーションするためのカードゲームなどが出てきている。SDGs産業とも言えそうなこの分野からの情報発信を見ていると、どうもモヤモヤすることが多い。そこでこのnoteでは、最近のSDGsブームに流されずにSDGsを上手く活用するために私が大事だと思う視点をリストアップしてみたい。

私が考えるSDGsについて抑えておくべきことリスト

1.SDGsの背景:SDGsはMDGsの後継目標

SDGsが出てきた背景には、国連が2000年から2015年までの15年間で世界が達成すべき開発目標として定めた8つのミレニアム開発目標(MDGs: Millenium Development Goals)がある。MDGsは後進国における貧困、飢餓、初等教育、伝染病の予防、環境保全が対象だった。これらについて一定の達成ができたため、次の15年の目標として、こんどは先進国と後進国の違いに関係なく人類共通の開発目標としてSDGsが提唱されている。これは、これまで世界のなかで主に後進国で起きている開発課題について先進国がリードする国連という組織の枠のなかで解決を促していくという視点から、人類共通の17目標を先進国と後進国の違いに関係なく取り組んで行かなければならないという視点の大転換である。SDGsは「2015年に急に提唱されて2030年までになんとか達成なければ!」というものではなく、2000年から続けてきた開発目標達成に向けた努力の続き、という前提を理解することがまず大事である。

2.「2030年」という時間設定の理由:実は根拠が不在

SDGsのなかで「2030年」という時間設定がされている理由は意外と単純でMDGsが設定された2000年(ミレニアム)から数えて「2回目の15年サイクル」というものである。この15年サイクルには何か理論的根拠があるのかというと、実はそんなものはない。国連はしばしばこういう風に実はほとんど根拠のないベンチマークを使ったりする。例えば「人口の7%以上が65歳以上の社会を高齢化社会(Aging Society)、14%以上を高齢社会(Aged Society)とする」という定義を用いた人口の高齢化に関するレポートがある。これらの数字には実は何の科学的・政策的な根拠もない。ただのベンチマークなので5%と10%でも10%と20%でもいいのである。

SDGsの中には気候変動など人間の時間軸と生態系の時間軸が共存するものがあり、人間にとっては長いと感じられる数十年の取り組みも、生態系にとっては一瞬にもみたいない、ということがある。こういう目標については2030年までと言わず、明日から変えたほうがいいことは自明である。もちろんどの目標もなるはやに改善したほうが良いに決まっているのだけれど、実現可能な時間軸を設定するということも進捗具合を理解することと達成感を得るためには大事なことだ。17個の目標についてそれぞれにどの国や地域で語られるかによって、実は2030年とは全然違う時間設定を持ったほうがよいという場合もあるということを抑えておくことはとても大事なことだ。

3.SDGsはチェックリストではない:システム思考でつながりを考える

SDGsでは17個の目標の下にその達成のための169のターゲットが示されている。これを単純に受け入れると「2030年までにSDGs17目標を達成するために169ターゲットのチェックボックスになるべく多く☑ができるようにみんなで頑張ろう!」という発想になる。私はこれはSDGsの本質をよく理解しないうにち運用したときに起きる典型的な「SDGsの誤用」だと思っている。

SDGsの本質はそのゴール間のつながりにあり、17目標のどれもが他の目標と密接につながっている。例えば目標4の「質の高い教育をみんなに」にはたらきかけるとき、まずは教育を受けるものが貧困や飢餓の状態にあってはならないし(目標1と2)、身体的に健康でなければならないし(目標3)、暮らしぶりが安定していなければならない(目標10と11)。質の高い教育は、ジェンダーの平等(目標5)や責任ある消費行動(目標12)、環境の保全行動(目標13-15)、そして平和で公正な社会(目標16)にも関連していく。

このようにSDGsの17目標は、実は「持続可能な社会」という1つのアイデアを実現するための要素なのである。この要素間のつながりを見るためにシステム思考を用いることがとても重要になる。17目標をそれぞれ分けて個別にチェックリストをつくることは、実はこの目標間に隔たりを生み出してしまうことと同義である。このような縦割り型思考は、世界の持続可能性を脅かすような課題を生み出してきた考え方と言ってもいい。SDGsの本質は要素還元主義的に「個別要素の総和が全体を構成している」という考え方から、「全体は連続なつながりの上で1つのシステムとして存在している」という考え方への思考の大転換なのである(と私は思う)。

4.世界は17目標で示せることよりも複雑だ:18個目の目標を考え

SDGsを用いてコンサルティングをする人の議論を聞いていて一番心配になることは、世界の開発課題がまるでこの17個ですべて網羅されていると信じ込んでいる、或いはそう信じ込ませようとするところだ。世界は17目標で示せるほど単純ではないし、そういう意味でSDGsを用いるときに大事なのはその18個目の目標を考えることである。例えばSDGsには「高齢化(Aging)」が入っていないが、これは日本で社会の持続可能性を考えるときに最重要くらいに大事なテーマだ。国際的な視点で考えてみても、高齢化は既にアジアの多くの国々にとって共通の関心事であり、南米においても2030年以降に顕在化していく。また、SDGsには宗教観についての項目である「スピリチャリティ(Spirituality)」が不在だ。現行の17目標をどのように達成していくのか、という議論において異なる宗教観が影響しないわけがない。しかし、国連という場で議論されるがゆえに特定の宗教に偏りが出る可能性があるテーマはそもそも議題として回避されやすい。SDGsで示されている17目標はあくまでグローバルな開発目標という枠組みでしかないので、それに対してむしろ個々のローカルな文脈から批判的に論じる視点を持つことが大事になる。

5.国連って誰?: "HOW"の前に"WHY"を話そう

そもそもSDGsを提唱している国連という組織について私たちはどのくらい知っているのだろうか。「国連が提唱している」から「良い」とか「意味がある」と考えてしまっていないだろうか。SDGsブームの中で、私たちは実は誰かよく知らない人たちが決めて上から降ってきたものを、割とそのまま鵜呑みにしているのではないだろうか。もし「SDGsは国連が提唱しているから大事なのだ」と捉えている個人や組織があるとすれば、これは完全な思考停止であり、変容を受け入れられないこのような思考の型のそれ自体が持続不可能性の象徴のようだと私は思う。

何か特定の方向性がグローバルな視点から示されるとき、気候変動のそれにしろ、AIなどの革新技術のそれにしろ、なぜか私たちは自分の頭で考えることを簡単に手放してしまう癖がある。SDGsについてもまったく同じ構造があり、17個の目標をどのように達成するのかの"how"についての話の前に、私たちは自分たちでこの17個の目標になぜ取り組むのかの"why"についての話をしなければいけない。そのとき、議論をする国や地域の文脈の違いによって、"why"に対する答えは異なるだろう。けれど、それらの多様な答えを包含できる寛容性がSDGsについての話をはじめるための第一歩になると私は考えている。

まとめ的な余談

先日ある打合せの席でSDGsが話題になり、どうもSDGsが国連という長が諸外国に対してずずいとその目の前に水戸黄門の印籠のようなに掲げているものなのではないだろうか、という話になった。17目標のいずれも大事だし、その達成に尽力していくことの重要性も正しい。むしろロジックがきれいすぎて茶々を入れる余白がなく、その分つまらなさのようなものさえある。

「そういえばこれなんでやるんでしたっけ?」という素朴な問いを声に出して言っていいのかどうかよくわからない空気感のまま、胸元に七色のサークル型ピンバッジをつけてしまっている人も多いのではないだろうか。私はそんな空気感に対してもっと批判的に(クリティカルに)思考することのほうが、国連という印籠にあやかって17目標に向かって汗をかくよりも大事なことだと思う。

かく言う私もサステイナビリティ学という分野で大学にいる研究者なので、同じく「持続可能な社会」というものについて考えているひとりである。それでも少しアプローチは異なっていて、サステイナビリティ学のなかでの持続可能性は「私たち人間社会はつまりは何を持続可能にしたいのか?」という問いを社会に投げかけるためのコンセプトだと考えている。私たちは次の世代に何をつなぎたいのだろうか。そんな問いからはじめてみると、SDGsをつくった国連の人たちとも対等な関係で会話ができるような気がする。


参考

(1)ミレニアム開発目標(MDGs)の8つのゴール1. 極度の貧困と気がの撲滅
2. 普遍的初等教育の達成
3. ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
4. 幼児死亡率の削減
5. 妊産婦の健康の改善
6. HIV/エイズ、マラリアその他疾病の蔓延防止
7. 環境の持続可能性の確保
8. 開発のためのグローバル・パートナーシップの推進

(2)持続可能な開発(SDGs)の17のゴール
1. 貧困をなくそう2. 飢餓をゼロに
3. すべての人に健康と福祉を
4. 質の高い教育をみんなに
5. ジェンダー平等を実現しよう
6. 安全な水とトイレを世界中に
7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに
8. 働きがいも経済成長も
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
10. 人や国の不平等をなくそう
11. 住み続けられるまちづくりを
12. つくる責任つかう責任
13. 気候変動に具体的な対策を
14. 海の豊かさを守ろう
15. 陸の豊かさを守ろう
16. 平和と公正をすべての人に
17. パートナーシップで目標を達成しよう

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