Translation Service S. Arai
Here are some thoughts to share from the daily life of a translator...
翻訳者・通訳者の視点から主に言葉と文化についてつぶやいています。
Hier sind einige Gedanken zu Kultur und Sprache sowie dem Berufsalltag als Übersetzerin…
[初出:2008年3月] どうも最近、脇腹が痒い。こちらの空気は乾燥しているからだ。冬になると、その影響が肌に現われる。そのため、ボディケアにもオイルが好まれる。自然派化粧品店には、各種エッセンシャルオイルを使った様々な製品が置かれている。アロマセラピー効果もありそうである。しかし、湿気のある日本ではあまり売れない商品だ。ニベアクリームだって、日本のライセンス製造品に比べてドイツ本家のものはべっとり重い。大陸性の冷たい風から肌を守るのには、それくらいの方がちょうどいい。
[初出:2010年1月] 「グラスなしで楽しさアップ」と、市当局のポスターは謳う。ケルン市は、路上のガラス破片による被害を防ぐために、カーニバルの間、市街地における瓶やグラスの使用を禁止した。自由の侵害だとする市民の訴えを受けて裁判所がそれを退けたものの、直前に第二審で禁止が認められた。細長いグラスで飲むのがしきたりの地ビールも、プラスチックコップで嗜むことになった。 同様の問題を抱えるデュッセルドルフも無防備ではない。とはいえ、市民ではなく、犬の話である。一昨年から、旧
[初出:2009年12月] とうとう我が子も新型インフルエンザに感染した。小児科に行ったら、「今の風邪の9割は新型ですから」と事もなげに言う。今ではいちいち確認しないというのを頼み込んで検体検査してもらったら、やはり陽性だった。 やむをえず、一家で外出を自粛することになった。クリスマス4週間前といえば、街も華やぐアドベント(待降節)の始まりである。スケジュール帳はコンサートや夕食会などの予定で一杯だった。 それらの約束をすべて反故にして、子供と家にこもること5日。子供は
[初出:2009年12月] 日曜日の朝だというのに、夫は「今日、お父さんは仕事に行くぞ」と宣言した。実はこれ、子供に対するアリバイ工作。聖ニコラウスの日であるこの日、聖人に扮することになっているからだ。 凝り性の夫は、大金をはたいて衣装一式をそろえた。値段が張るだけあって、ビロードのマントと真鍮製の司教杖はずっしりと重く、威厳がある。さらに、念には念を入れ、友人に頼んでお供のクネヒト・ループレヒトを演じてもらう。 親戚の子供たちが集まっているところに、遠くから響く鐘の音
[初出:2006年9月] ベンチでお弁当を広げる人、犬を連れて散歩する人。墓場の昼下がりは長閑だ。日本人にとって墓場は気味の悪いものだが、ドイツではれっきとした保養の場だ。確かに緑は多いし、老人にも歩きやすいように遊歩道も整備されている。 また、墓石も素材や装飾に様々な趣向が凝らされている。大抵は、生年月日と没年が記されている。だから、それぞれの故人の生きた時代が想像できる。 核家族化のせいか、一族の墓というのは余り見かけない。そもそも、ご先祖様をまつるという概念が薄い
[初出:2008年6月] 前回のワールドカップで解禁になった感のある国旗。戦争の呪縛から逃れられず、国旗掲揚をためらうドイツ人。その屈折した自己意識はあれで払拭された。 今度はサッカーの欧州選手権が始まり、再び国旗を窓に付けた車が走るようになった。移民の国だけあって、ドイツだけでなく欧州各国の旗を見かける。片方にドイツの国旗、もう片方に祖国の国旗を付けたのは、ポリティカル・コレクトネスに配慮したものか。色とりどりの小旗で賑やかになった街角に市民のサッカー熱を実感する。
[初出:2006年8月] 一昔前のアートフィルムに、ダイヤル・ヒストリー(Dial H-I-S-T-O-R-Y)というのがある。スーパーのBGMのような音楽とともに、赤軍テロ最盛期の様々なハイジャックのシーンが映し出される。今から見て驚くのは、事件後は手荷物検査が導入されました、という当時のニュースからの一コマである。そうか、それまでは素通りで搭乗できたのか。 その逆に驚いたのは、英国の旅客機爆破テロ未遂事件を受けた手荷物制限の厳しさである。乾燥するあの機内に、飲み物の持
[初出:2006年7月] W杯の熱い闘いの日々が終わった。ドイツが準決勝で敗れ、意気消沈する人々を横目に、内心ほっとしていた。 街には国旗を飾った自動車が溢れ、ドイツが勝った夜は若者たちがクラクションを鳴らして凱旋パレードに繰り出す。この愛国ムードも、メディアでは好意的な取り上げ方が一般的だ。いわく、ドイツ人はナチ時代の呪縛をのがれ、明るく国旗を掲げるだけの健全な自負を取り戻したのだと。 果たして本当にそうだろうか。私が懐疑的なのは1990年W杯の思い出があるからだ。ド
[初出:2006年9月] 森の入口にポツンと置かれたコンテナ。窓に貼られたチューリップから、営林局のものでではないことは明らかだ。実はこれ、森の幼稚園(ウァルトキンダーガーテン)の園舎。スウェーデンを発祥地とし、ドイツでも90年代から各地に設立されている幼稚園である。ドアと壁のない幼児教育というのがコンセプト。雨の日も風の日も、子供たちは森のなかで過ごす。極端な悪天候の時だけ、仮設教室を使う。自然が遊び相手だから、市販の玩具は原則的に使わない。 最近の研究では、そこに通う
[初出:2007年9月] 中国製の玩具の安全性が問題となっている昨今、親としてもラベルをよく見るようなった。当地で売っている玩具も、ほとんどが中国製である。国内メーカーの製品でも、中国でOEM生産されたものばかりである。ドイツに昔からある大きなブリキ製のコマを買ったが、やはり中国製で少々がっかりした。 一方、知人にもらった電話の玩具は、安っぽいプラスチック製で、一目で中国製だと分かった。ボタンを回すと音楽が出る仕組みになっている。色々な曲が入っているのだが、そのうちに懐か
[初出:2005年6月] 芝居もコンサートも、子連れでは無理。そこで、我が家に唯一残された文化的な余暇活動は、美術館巡りである。ベビーカーで押しかけても、美術館のスタッフは一般に寛容である。お勧めは、田舎の美術館や工芸博物館などの余り人気のないところ。ルール地方に点在する産業博物館も穴場である。そういうところは、警備員も暇をもて余していると見えて、子供に愛想がいい。我が子もそれに応えて満顔の笑み。こちらも昼飯と昼寝を終えたベストコンディションで臨んでいるからだ。 上の階に
[初出:2007年7月] ごく普通の赤信号だと思った。しかし、後続車がクラクションを鳴らすのでよく見たら、信号の右横に緑の矢印が付いている。これは、信号が赤でも、車が来なければ右折できるという意味である。―昔前に当地で免許を取った時、学校では習わなかった交通標識である。というのも、ドイツの再統―後、西独が取り入れた数少ない東独の規則だからである。 東独生まれのといえば、ベルリンの歩行者用信号マーク「アンペルメンヒェン」が名高い。一時は廃止されたものの、惜しむ市民の声により
[初出:2006年11月] 数ヶ月前になるが、前首相シュレーダーがロシアから二人目の養子を迎えたことが伝えられた。そして、最近になってマスコミを賑わせているマドンナの養子騒動。そんなニュースを聞くたびに私は釈然としないものを感じる。 長年、不妊症に悩む友人がいる。もちろん養子も考えた。しかし、30代後半の彼らにとって、ドイツ国内での養子縁組は確率ゼロだ。正式な規則ではないが、35才が実質的な年齢制限らしい。 外国に選択肢を広げても、事は容易ではない。長年の手続を経た後に
[初出:2007年6月] 先の#G8 サミットでは、反グローバル化活動家の集会も大きな盛り上がりを見せた。ちょうどその頃休暇に出た私は、道中で彼らに出くわした。デモのあったロストック近郊を走っていると、年代物のポンコツ車がやたらに多いのに気づいた。どれもカラフルにペイントされていて、一目でその筋の人たちであることが分かった。ナンバープレートからすると、ヨーロッパ各地から集まったようだ。なかには、エンストで煙を上げながら立ち往生する者もいた。どうみても環境にやさしい車には思え
[初出:2008年5月] こちらに長くいると、身近に手に入る食材で和食を作る技も発達してくる。正月には黒豆の代わりにレッドキドニービーンズを煮付け、お彼岸にはミルクライス米でおはぎを作る。 リフォームハウスと呼ばれる自然食品ショップも、けっこう役に立つ。豆腐、米の粉、ソバ粉、胡麻などが手に入る。節分の時には、炒った大豆をそこで見つけた。 この季節自慢の考案は、アイヒェルというドイツオークの葉を使った柏餅である。ぎざきざ加減が柏にそっくりで、完璧なカモフラージュである。5
[初出:2006年5月] 畑道で道を訊ねたが、ドイツ語がよく通じない。そうか、アスパラガスの収穫の時期だったなと気が付く。盛り土のなかから白アスパラガスを掘り出すのは重労働である。私の住むドイツ北西部では、ポーランドからの出稼ぎ労働者にその労働力を依存している。長期失業者に対する雇用機会の創出を目指す「1ユーロジョブ」でも、ドイツ人にはなり手がない。機械化の難しい苺や醸造用ブドウの収穫も同様である。 昔は国内からの季節労働者もいたし、また家族総出で収穫したのだろう。学校の