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高卒就職問題 改善が進まないのは何故か 

高卒就職問題研究のtransactorlaboです。11月に入り、高卒就職戦線も終盤にさしかかりつつあります。最近の高卒就職では80%が初回応募で内定、15%が2回目で内定を得ます。残りもほとんどが12月中に内定し、年を越すのは本当にごくわずかなケースです。

それもそのはず、就職希望の高校生の数は年々減ってきており、今年2022年は全国で約13万人。対して求人数は約40万人分も出てていて、27万人分もの求人が余っている状態です。企業の採用担当者の方々のご苦労が偲ばれます。

高卒就職問題とは

初めてご覧になる方もいらっしゃると思いますので、高卒就職問題とは何かについて簡単に解説しておきます。高卒就職問題は裾野が広い上、実に多くの要因が複雑に絡み合っているのですが、代表的な問題は次の3点です。

(問題1) 就職後3年以内の離職率(「早期離職率」と言います)が4割を越える状態が長く続いていること。

(問題2) 給料が安く、休みが少ない求人が多いこと。超売り手市場が続いているのに最低賃金ラインの給料の求人が多いこと。

(問題3) 就職支援に当たる教職員の労働負担が過大であること。

要因としては次のようなことが挙げられます。

(要因1) 求人情報の公開性が低く、求職者・求人者、双方が共通した相場観をもちにくい構造。競争原理が働きにくい状態。

(要因2) 求人情報の出どころである厚生労働省所管「高卒就職情報WEB提供サービス」へのアクセスが教職員限定であること、および、情報提供の形が紙ベースの設計思想によるものであること。

現代の18歳人口は約100万人。そのうち高卒就職希望者は13%程度まで減少し、高卒就職市場はどんどん縮小しています。しかし、だからといって高卒就職問題を放置していてはいけません。

なぜならば、この問題は高卒就職者だけのものではなく、我が国の未来を左右する極めて重要な課題であるからです。

高卒就職者の給与や休日数などの労働条件は、全ての労働者の給与体系の基盤であり、また、高卒初任給は地域別最低賃金と密接な関係にあります。つまり、高卒求人の待遇条件は、非正規雇用も含めた全ての働く人々の待遇に強く影響する非常に重要なものだと言えます。

若年層の所得向上は、少子高齢化が急速に進んでいる日本の極めて重要な政治課題でもあります。若年層の所得が伸びなければ国全体の税収はどんどん減り、少子化はさらに進み、国家システム全体が危機的状況に陥ることが危惧されます。

この高卒就職問題改善策として、私は次の2点を提案しています。

(提案1)「高卒就職情報提供WEBサービス」を一般公開する。最低でも就職希望の高校生にログイン権を付与する。

(提案2)求人情報提供の方式を現行の個別PDFからデジタルデータベースの形に変更する。

この提案を見て「え?イマドキそうなっていないの?」と驚かれる方が多いと思います。そうなんです。こんな状態なのです。先生のいるところでないと高校生はWEBサービス上で求人票検索ができません。だから先生たちは多大な労力をかけて求人票をプリントアウトしないといけません。だから企業の方々も生徒たちも相場がわかりません。だから求人倍率が3倍を超えても最低賃金ラインの求人票が大量に出続けているのです。

かくして、「高校生の就職だから給料はこんなものだろう」という古い常識が幅をきかせ続け、若者の所得は低いままの状態が続きます。

長くなってしまいましたので解説はこれぐらいにとどめます。興味をお持ちいただいた方はこのマガジンの前の記事および私のホームページをご覧下さい。

NPO法人 高卒進路digitalにも寄稿しております。


問題改善が進まないのは何故か


さて、この高卒就職問題。最近出てきたものではありません。とくに高い早期離職離職率に関してはそれこそ30年も対策の議論が行われていますし、紙の求人票の扱いの大変さが学校現場を圧迫している問題も7~8年前から言われ続けています。

対策を考える機関がないわけではないのですよ。厚労省が主催して立派な会議が毎年2月に行われています。その会議の名前は「高等学校就職問題検討会議」。私はこれを中央会議と呼んでいます。年度が明けてから全ての都道府県ごとに同名または「連絡協議会」などの名称の会議が行われます。毎年です。



それなのに、改善が進まないのは何故なのでしょうか?

細かいことをあげればキリがありませんが、ざっくり言うと「改善のための会議になっていないから」です。現状を示す統計情報の説明に長い時間を割き、例年の申し合わせ事項の確認をし、ほぼ時間切れになるあたりにやっと「もし、ご意見があればどうぞ」といった形の会議。これを続けているようでは物事は良くなりませんよね。


教職員側の問題


もうひとつ言えるのは「教職員側が意見を出さないから」あるいは「出してよいと思っている教員が少ないから」です。そうさせる空気が学校現場に濃いことも事実です。

私はこのnote上で厚労省の姿勢を突っつくような物言いを続けていますが、一方で、教職員側の姿勢の責任の方も小さくないと考えています。理不尽でも上位下達に耐えて真面目に頑張るだけでなく、嘆いて終わりでなく、前向きな改善の意見を述べることができる、そんな人がもっと増えてほしいものだと思います。

人口減少が進む時代において、問題の先送りは次世代に対する罪だと、私は思いますが、皆さんどうでしょう?


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