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高卒就職問題「社長、その条件では生徒に勧められませんよ」

 高卒就職問題研究のtransactorlabです。田舎の高校で教員をしながら問題解消のため研究と提言を行っております。先日、しばらくぶりに投稿を再開したら予想以上にスキをいただきました。調子に乗ってもう一つ投稿したいと思います。

 前回に続いて、新卒高卒生獲得に動き始めておられる事業所の皆様へのアドバイスです。

 今日のタイトル「社長、この条件では生徒に勧められませんよ」は、高校現場の先生の心の声。しかし、この声が求人事業者の皆さんに届くことはほとんどいないでしょう。事実は事実としてハッキリ言うほうが世のためだと分かってはいても、本当のことを言うのは難しいものです。

 私は言いますよ。「この条件では生徒を推薦できません」と。

 就職指導の経験豊かな先生は、一枚の求人票を生徒に勧めるかどうか1秒で判断します。ランクの付け方は様々で「○か×か」、「上・中・下」、「S・A・B・C」などです。高校生の就職活動期間は非常に短く、求人票は大量かつ玉石混淆ですので、どうしても仕分けをせざるを得ないのです。

 でも、その「仕分け」も実はそう簡単ではなく、ある程度の経験が必要です。ちょっとやってみましょう。

 下は昨年度神奈川県の高卒求人で実際に出た運送・倉庫業の求人票です。6社のうち生徒にまあ勧めてもいいかなというものはひとつしかありません。どれだと思いますか?

神奈川運送の例

 

 答えはD社だけ。他は全て×です。Bは将来路線バス運転士候補としての募集で、見習いの待遇としてはそれほど悪くないように見えますが、月平均労働日数が22.3と平均より一日多く、月給18万はあるけども、同じ18万円のD社より一日あたりの給料ではかなり安い。

 この散布図に当てはめると分かりやすいです。縦軸が年間休日数、横軸が月給です。

分析 神奈川運送

 私の判断基準は、月給が地域の平均以上で年間休日110日程度以上です。神奈川県の場合は赤い線より右上となります。そうすると、D社(125日・18万円)が一応範囲内で、他は全て範囲外です。C社(105日・18.7万円)は惜しいところですね。月別労働日数をあと0.5少なくできれば年間休日数が6日増え、範囲内に入ります。

散布図を参考にしてみてください

 私は昨年度の全国高卒求人9万件余りを全て集めて分析を行いました。そのうち製造・建設・運送・飲食宿泊の4業種の分析レポートを私のホームページで公開しています。都道府県単位でダウンロードできますので、ご参考にしていただければ幸いです。


自動車運転免許取得費用を負担しては?

 運送業界の方に申し上げます。自動車運転免許取得費用を負担してはいかがでしょうか。運輸業界はとくに若い人材の獲得のため相当の努力をされていることは私はよく存じています。でも、人が集まっていないですよね。ハッキリ言います。投資が足りないからです。

 求人票の必要な知識・技能欄が「なし」「不問」も増えてきていますが、今だに「要普通運転免許」も多く見られます。運送業では当然だというのは過去の価値観に縛られていると言わざるを得ず、これを脱却しない限り若い人を集めることはできないでしょう。他の業種に人材を奪われるだけです。

 「人が欲しい」、「若い人を採ないと会社の存続が危うい」、「どうか生徒さんを紹介してほしい」とおっしゃるお気持ちはよく理解します。しかしですね、我々教員の本音はこうです。「だったらもっと投資しなさいよ。お宅の会社に就職するに免許取得に30万円以上必要だ。そのカネを出せない親も多い。他の求人を生徒が選ぶのは止められない。」

 求人票の「必要な知識・技能等の条件」の欄に、「要普通自動車運転免許。ただし、入社誓約書提出後、取得費用全額を支給」という記載があれば話は違ってきます。これぐらい太っ腹でないと若い人は採れない、そういう時代になっているのです。


これからの社会を支える存在への投資を

 運輸業界の方、失礼しました。しかしですね、若い人材が欲しいのはあらゆる業界で同じです。昔の価値観に囚われていたらダメなんですよ。40代後半以上、いわゆるベビーブーマー世代のおじさんたち(私もです)の世代の感覚が一番ズレていますね。

 「若者サマ」と呼ばなければいけない時代に既になっているのです。なぜならば、頭でっかち(高齢者が多い)の社会を少ない人数で支えてもらわねばならないのですから。

 看護士の世界に「お礼奉公」あるいは「紐付き奨学金」と呼ばれる制度があるのはご存知でしょうか。病院が経済的に余裕がない看護士志望学生に対し、その病院で一定年数勤務することを条件に高額な奨学金を貸与するというものです。昔からある人材確保手段のひとつです。功罪あると言われますが、この制度が日本の医療の一端を支えてきたというのは事実です。地方の教員にも似たようなものがあります。

 最近、介護や保育などの分野にも同様の制度が見られるようになりました。両方とも若い人材の補充がなければ成り立たない業種。危機感が高まった結果ですね。

 こうした流れはいろいろな業種に広がるでしょうし、また、そうでないと若い人材を確保することは難しくなるでしょう。

 あらゆる業種、あらゆる企業が若い世代の育成や人材確保、社会維持のために投資する・・・でも、これって税の考え方じゃないですかね?

 日本国民はいつの頃か税金の使い方を間違えてしまったのかもしれません。

 

 

 


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