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固い決意の眼差しを知る -ボウキョウによせて- 第六話

5.9

 話が通じないのなら、一歩も歩み寄ることができないのなら。しがらみとなるものを一切捨てて、一人で我が子達を育てる覚悟でいた。咲子さんと話をするまでは。

 ショッピングモールのフードコートの端っこで、私は身を縮めながら座っていた。絶望感と怒りと悔し涙でいっぱいで、顔を上げられる状態ではなかった。

「まずは、お水でも飲もうか」
 咲子さんの柔らかい声と共に、水の入った紙コップと、花柄のタオルハンカチが視界に入ってきた。
 ハンカチをそっと取り、涙を拭った。それからコップを手に取り、水を一口だけ飲んだ。またじわりと涙があふれたので、コップをテーブルに置き、ハンカチでそれを拭った。
 何回繰り返しただろう。しばらくしてようやく顔を上げると、潤んだ目で優しく微笑む咲子さんがいた。
「大変だったね」
 咲子さんの声かけに、強張っていた心がほどけていった。咲子さんには全て話せる、そう思った。


 
「康さん、あたしに話させて」
 今改めて、お義母さんと対峙している。悔しさと怒りで自暴自棄になっていた前の私とは違う。
 咲子さんから勇気をもらったから、お義母さんにきちんと全て知ってもらう覚悟を決めたから、康さんからではなく、私から直接話せる。

 私が、私の言葉で、私の本当の思いを打ち明ける時が来た。

 

 今回は主人公の中村充希の伯母、麗愛(レイア)の視点でサイドストーリーを書かせていただきました。(康:中村充希の伯父)


こちらは南葦ミトさんが連載されている長編小説「ボウキョウ」第六話から発想を得て書いた二次創作物(ファンアート)となります。


 ここからは前回の「ボウキョウによせて」のタイトルに添えた自由律俳句についてのお話。


抗いようのない爪痕に鳥肌の立つ


 こちらはボウキョウ第五話の5の前半。主人公(中村充希)達が水族館を巡っていると、東日本大震災の被災状況や復旧までを記録した写真が展示されているブースに差し掛かり、足を止めます。瓦礫と泥が生々しい爪痕を残す写真。それらを前にした主人公の感情を元に詠みました。

 彼の視線の先にあるのは、震災当時の被災状況や全館復旧までの歩みを記録した写真展示。最初の一枚に写っていたのは、瓦礫だらけで泥にまみれた場所――おそらく最初に通ってきた一階部分だ。人的な被害こそ写っていないけれど、抗いようのなかった自然の驚異の爪痕が、生々しく記録されている。

(引用:ボウキョウ第5話|南葦ミトさん)

 

 さて、ここからは南葦ミトさんの「ボウキョウ」と、元屋みやさんの「ボウキョウによせて」を同時に開いて読もうのコーナー。一緒に読む事で、「ボウキョウ」背景の理解が深まります。こちらにリンクを貼りましたのでどうぞご活用ください。

南葦ミトさん:ボウキョウ第六話
元屋みやさん:ボウキョウによせて3(ボウキョウ第六話分の感想note)


 次回はボウキョウによせて第七話にてお会いしましょう。

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自由律俳句

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