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抗いようのない爪痕に鳥肌の立つ -ボウキョウによせて- 第五話

5.02

 その写真が視界に入った瞬間、このまま通り過ぎてはいけないとなぜか感じた。それまで真司くんと歩きながら盛り上がっていたゲーム話も中断して、気づけば足を止めていた。瓦礫と泥とで混沌に包まれた写真。背筋が凍り、唾は上手く飲み込めなかった。

「これ……」初めて見た写真のはずなのに、妙な既視感があった。しかし、具体的にいつどこで見たのかという情報は自分の頭の中に入っていないようだ。これもきっと俺が失った記憶のかけらなのだろう。いつか思い出せるのだろうか。むしろこのまま思い出さない方が良いのか――

「大変だったのよ、どこもかしこも」その声と同時に、自分の手に温かい感触が伝わり我に返る。咲子だ。俺の手を大事そうに握るその手を辿ると、優しく、それでいてほんの少し寂しそうな咲子の微笑みがそこにあった。

「思い出してほしいことは多いけど、あの時のことは無理に思い出さなくていいわ」咲子はその微笑みを崩さないようにしている。

 俺が忘れた記憶を、咲子は覚えている。

 俺が手放した悲しみも、咲子は背負っている。

「まぁ、自分のことは全然思い出さねぇんだけどさ、こういう歴史、知れて良かったよ――」明るく努めてみたがどうだろう。今は咲子の思いを無下にしたくない。


こちらは南葦ミトさんが連載されている長編小説「ボウキョウ」第五話から発想を得て書いた二次創作物(ファンアート)となります。


 今回は主人公の中村充希の父、丈(タケシ)の視点でサイドストーリーを書かせていただきました。(真司:中村充希の彼氏、咲子:中村充希の母)

 ここからは前回の「ボウキョウによせて」のタイトルに添えた自由律俳句についてのお話。


花火にも負けない君の言葉のまっすぐ

 

 こちらはボウキョウ第4話の5の後半に、主人公(中村充希)が彼氏の真司に対して抱いた感情を元に詠みました。ここのシーンは個人的にお気に入りで、人を純粋に思いやる真司の優しさに心が洗われます。

 本当に真っ直ぐなのだ、この人は。
ボウキョウ 第4話|南葦ミトさん)

 既にボウキョウ第4話を読まれた方も、ぜひ読み返していただきたいです。

 さて、ここからは南葦ミトさんの「ボウキョウ」と、元屋みやさんの「ボウキョウによせて」を同時に開いて読もうのコーナー。一緒に読む事で、「ボウキョウ」背景の理解が深まります。こちらにリンクを貼りましたのでどうぞご活用ください。

南葦ミトさん:ボウキョウ第4話
元屋みやさん:ボウキョウによせて3(ボウキョウ第五話分の感想note)




 次回はボウキョウによせて第六話にてお会いしましょう。










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