恋文どろぼう

花垣さんは人のラブレターを盗んでいる。
彼女はさりげなく遠くにいるのがうまい。今時それでも机やロッカーにラブレターを入れる人というのはいて、そういう人は大抵、朝早く学校にやって来る。

花垣さんは学校で2番目に登校が早いので、そんな人たちを見守る。例えば、渡り廊下を挟んで向かいの教室から、とか。ラブレターを素早く収めることに腐心している人たちは、もちろん彼女に気づかない。彼女は向かいの教室の、一番廊下側の席に座っているから。

ラブレターの送り主は思い人と違うクラスであることが多くて、仕事を終えるとすぐ本拠地に帰る。そして花垣さんとすれ違う。

花垣さんは優秀な外科医みたいに、最良の軌道を選んでラブレターを回収する。

その後手紙を切り刻んで、文字ごとにノートに貼る。春のパン祭りのシールさながら、好 好 好 好 と並べている。監禁された文字たちを近くで見ることが、私の夢だ。