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『ザ・会社改造』改革の危機と突破

プロ経営者である三枝匡による、ミスミでの成功体験を描いた小説『ザ・会社改造』。経営改革のためのノウハウを学べるし、小説としても面白い。

今回は、特に僕の印象に残ったカスタマー・センターのオペレーション改革(第7章)についてまとめた。

『ザ・会社改造』 三枝匡 著


本章のあらすじ

ミスミは地方に点在するセンターを東京へ一括移転するという試みを行った。これにより600人体制で行っていたカスタマー・センター事業を、わずか145人でこなせる体制へと移行させた。

しかしその経緯は挫折の連続だった。三枝自身も「恥を忍んで」この章を書いたと記している。

今回は本書に書かれていた「変えるべきもの」「避けるべきもの」について僕自身の考えを交えながらまとめる。

①コア事業をの外注

ミスミはカスタマー・センターのオペレーションを派遣社員に「外注」していた。カスタマー・センター業務はマニュアルに沿った対応なので、外注する企業も多いだろう。

しかしミスミの場合、取り扱う商品の技術難易度が高いという特性があった。そのため、カスタマー・センターの対応も専門的になる。他者と対応力の違いを生み出すことができる「コア事業」という一面もあった。したがって、カスタマー・センターにも高度な専任者を配置すべきだったのだろう。

カスタマー・センター業務を外注していたことによって、ミスミでは以下の2点の問題が生じていたという。

・顧客の要望を拾い上げることが困難
・現場オペレーターの声を拾い上げることが困難

仕事の複雑さからカスタマー・センターのオペレーターは離職率が高く、社員は教育や採用のために多くの工数を奪われていた。コストダウンのための外注で、かえってコスト増が生まれるという結果になっていたのだ。

その問題に気づいた三枝によって、オペレーターは最終的に社員化されることになった。

現場業務が煩雑な場合こそ、そこから目を背けて外注に丸投げしてはいけない。外注によって社員の苦悩は一時的に解消するかもしれないが、必ずのちにツケを払わされることになる。

必要なのは煩雑化している業務をシンプルにまとめなおすこと。そのためには顧客からの要望と現場からの声の双方を拾い上げる必要がある。業務改革に取り組むためにも、現場最前線には責任感ある人物を配置したほうがよいと僕も思う。

②下準備の足りないシステム化

ミスミ新センターに導入した業務システムは、業務の90%をカバーできると想定されていた。しかし実際に使ってみると、多くの手作業が発生し、業務の二重化が頻発した。

システムの導入はシンプルに整理されたプロセスがあって初めて成功する。「システム化をすれば何とかなる」という甘い考えでは失敗する。三枝が本書の中で「すぐにシステム化の提案に行きたがる人は危険人物だ」と述べているのはこういった観点からだと思う。

僕は、業務効率化のためにシステム導入する場合、成功するかどうかは下準備次第だと考えている。下準備を行ったシステム導入はのちに大きな手戻りを呼ぶ。使われないシステムが生まれたり、「運用でカバー」の連続が起こるのは、システム要件定義の段階で失敗しているからだ。

③企画とオペレーションの対立

ミスミはカスタマー・センター改造の過程で、プロジェクトを推進する「企画グループ」とオペレーション業務を監督する「オペレーショングループ」で感情的対立が起こった。

混乱拡大を防ぐために、三枝はプロジェクトの延期を決定。その後、新たに着任したリーダーが対立を鎮火させた。彼は双方部署に問題の分析を行うように促し、挫折の原因を共同作業によって分析させた。それによって相互理解が深まり、感情的対立は解きほぐされていったという。

期限と成果に追われる「企画」の人間と、プロセスの順守と無事故を厳守する「オペレーション」の人間では大切にしたいものが異なる。そのために対立が生まれることは宿命といってもよいだろう。

メンバーたちが部分最適に陥らず全体最適を目指せるようになるためには、それぞれの価値観を知ることが重要だと思う。自分の部署だけのみを考えているだけでは決して問題解決はできない。

「企画グループ」と「オペレーショングループ」が互いの問題解決のために力を合わせたとき、組織は大きく前進することができる。リーダーはメンバーが外向きマインドセットを形成できるように助力することが求められる。

自分自身の体験を振り返って

僕自身も、規模こそ小さいものの似たような経験があり、共感しながら読ませていただいた。

過去の経験として、派遣社員へ外注(という名の丸投げ)されていた業務の問題解決は苦労したし、下準備不足による要件定義の失敗も経験した。

長らくオペレーション部署に従事していたこともあり、企画側の価値観を理解しきれず対立したことも多々あった(今思えば僕も企画側の価値観を理解するための姿勢が欠けていた)。

これはミスミでのできごとだが、どの組織でも似たような問題は起こっているだろう。異業種・異職種であっても共通して問題解決のためのヒントになると思う。成功体験の舌触りのよい部分だけを描かず、苦労された点も共有してくれている本書に心から感謝したい。

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