ローカルで活動するうえで大切にしたいこと。とよなか地域創生塾第7期「DAY3 地域を編集してみよう!」開催レポート
「地域で活動したいけれど、何から始めたら良いかわからない」
そう思ったことのある人も多いのではないでしょうか。地域で活動を始めるためには、まちのことを知ったりこれまでの事例から学んだり仲間を集めたりと、たくさんのステップを踏んでいく必要があります。途中で壁にぶつかることも多いかもしれません。
とよなか地域創生塾は「地域」を「創」り「生」かしていくための考え方と仲間が得られる、豊中市主催の連続講座です。全10回の約半年間をかけて、具体的にプロジェクトを実行できる「知」と「仲間」を創っていき、最終的にはマイプロジェクトを発表します。
コースは2つ。イベントの企画運営やメディア制作・活用をテーマにした「イベント・メディアコース」、公園やお店、拠点などをどうつくり、どう活かすかについて考える「空間活用コース」です。この2つのコースから、それぞれの塾生が希望のコースを選んで学んでいきます。
イベント・メディアコースのDAY3となった2023年11月9日(木)は、インプットの時間。「地域を編集してみよう!」をテーマに、主にまちづくりや場づくり、コミュニティデザインの分野で活動を続ける、株式会社ここにある代表の藤本遼が話しました。(株式会社ここにあるは、今回とよなか地域創生塾7期の運営も担っています。)
ローカルに根ざして活動を続けてきた藤本が大切にしてきたこととは?地域で活動したいと思っている方は、ヒントがたくさん載っているので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
文:田中美奈(たなか・みな)
「編集」とは、今あるものを活かして新しいものを生み出していくこと
そもそもコミュニティデザインとは?そんなところからレクチャーがスタートしました。
コミュニティデザインという言葉が日本に広がったきっかけとなったのは、2011年3月11日に起こった東日本大震災。地域のつながりや助け合いが大事だと叫ばれていた一方で、その関係性が希薄になっていることが震災で明らかに。そこから、なくなりつつある関係性をデザインの力でつなぎ直していこうとするコミュニティデザインが注目を浴びたという時代背景があります。
コミュニティデザインの第一人者として知られる、studio-L代表の山崎亮さん。山崎さんはコミュニティデザインとは「デザインの力を使って、コミュニティが持つ課題解決力を高めるよう支援すること」だと表現しています。
一方、同じ分野で活動するここにあるでは、コミュニティデザインではなく「地域における生態系の再編集」という言葉を使っているそう。「デザイン」ではなく、あえて「編集」と表現しているのはなぜなのでしょうか。そこには「ここにある」に込めている思いがあると藤本は話します。
「『デザイン』にはどうしてもまだ新しいものを生み出すというニュアンスがあるように思うんです。でも、僕が大事にしたいと思っているのは、今ここにあるものやことをかけ合わせて、新しい何かを生み出していくこと。そのニュアンスを表現するために『編集』という言葉を使っています。」
地域で活動するうえで重要なのは、自分の「納得」
「デザイン」と「編集」という言葉を使い分けていること。この話で藤本が伝えたかったことは何なのでしょうか?藤本から返ってきたのは「納得」という意外な言葉でした。
「会社の外から見ると、『デザイン』でも『編集』でも、どちらの言葉を使おうが別にどっちでも良いと思うんですよね。どちらが合っているとか間違っているという話でもない。でも、自分にとって心地良い、しっくりいく表現を問いながら探し続けていることは知ってほしい。自分が納得できているかどうかは、地域で活動していくうえですごく大事なポイントです。
納得とは『自分のものさし』で生きること。地域で活動するうえで評価はつきものですが、他者評価だけだとしんどくなっていくと思うんです。まずやっていることに対して自分が納得して意義を感じられていること。そのポイントは押さえていてほしいですね。」
藤本の話す「納得」という言葉。地域で活動するうえで、他の誰でもなく、まずは自分が「納得」できている状態を目指すこと。前半のレクチャーでは、それぞれの塾生が自分にとっての「納得」が何かを考える時間になりました。
行政主導のイベントを、みんなでつくるプロセスに変えていく
後半のレクチャーでは、藤本がこれまで地域で行ってきた活動を紹介。地域を編集する際の具体的なポイントや発想法を聞きました。どのように地域にあるものを活かして、新しいものを生み出してきたのでしょうか。
大学卒業後、NPOでの勤務を経て2015年10月に独立した藤本。「まちにENGAWAを。」をテーマに、まちを面白がるいろんな企画やイベントをプロデュースするプロジェクト「尼崎ENGAWA化計画」を立ち上げました。
商業ビルの空きスペースをリノベーションしてつくった私設公民館「amare(あまり)」や、ものづくりのまちとしての歴史を持つ尼崎の特色を活かして会場デザインを行った、出店やステージライブを楽しめるお祭り「尼崎ぱーちー」など、さまざまなプロジェクトを企画。ただ、活動を始めて2年ほど経ったとき、ある疑問を抱くようになったのだとか。
「どうして障がい者に会わないのかなって。地域で場を開いても、障がい者の方はほとんど参加していなかったんです。そのとき、障がい者と健常者の間に分断があるんじゃないかと思ったんですよね。それで、福祉の取り組みも始めることにしました。自分から障がい者に出会いに行ってみようと思ったんです。」
今回地域を編集した事例として紹介されたのは、藤本が2017年から企画運営に関わる、障がいがあってもなくても楽しめるフェス「ミーツ・ザ・福祉」。
前身の「市民福祉のつどい」は1982年から尼崎市主催で開催されてきたイベントで、尼崎市と市内の団体や事業者を中心にした実行委員会で企画運営が行われてきました。
2017年より提案型事業委託制度を活用し、尼崎市の障がい者支援団体「NPO法人月と風と」と「株式会社ここにある(当時は藤本個人)」、有志の実行委員会メンバーで企画運営を引き継ぐことに。
「市民福祉のつどいは、行政が企画運営の主を担っていて、障がい者が主体的に活動できる体制になっていなかったり、出店者や出演者に偏りがあったり、広報が行き届いていなかったりと、いろんな課題があったんです。
そこで、ミーツ・ザ・福祉ではみんなでつくるプロセスを大切にすることにしました。考えてきたのは、いろんな人が持っているスキルや思いを、どうやってイベントの中で表現するか。元々あった市民福祉のつどいのコンセプトを活かしながら、どうしたらよりいい感じのイベントにしていけるかを考えていきましたね。」
「問い」が生まれる場をつくり、主体的に関わりたくなる雰囲気を
行政主導のイベントをみんなでつくるプロセスに変えていく。具体的にどのようにイベントをリブランディングしていったのでしょうか?
ひとつは、イベント開催の半年前に行ったワークショップ。そこで「イベントに参加する中で嫌だと思ったこと」を参加者のみなさんと書き出すワークを行ったそうです。その中で、藤本自身もハッとしたことがあったんだとか。
「『身内感があるイベントは嫌』『雨が降ったら嫌』など、いろんな意見が出ました。でも、そのときとある耳の聞こえない女性が『そもそも困ることがわかっているのでイベントに参加しない。なので不便も困ることもない』という話をされたんですね。イベントの中身がどうかという話じゃなくて、参加のハードルが高いという話だった。
普段から障がいのある人と関わっている人は把握している事実だったかもしれないですが、そうじゃない人はそのとき初めてその事実がインプットされるわけです。そこから『自分にも何かできひんかな』という感情が立ち上がっていくと思うんですよね。」
他にも、障がいのある方から聞いた言葉で印象に残っているものがあると話す藤本。
「とある障がい者の方が『これまで参加する側・提供される側しか経験してこなかった。こうやって企画運営に関われて楽しい』と言ってくれたんです。障がい者を与えられる側にしてしまっている社会があるんだと思いました。
そうやってこれまで考えたこともなかった事実を知ることで、『自分もそのことについて考えてみたい』という空気感が生まれると思うんですよね。普段とは違うような状況をつくって日常をずらすことで、問いが生まれる。そこから、自分にできることを考える。この一連のプロセスで主体的な関わりが生まれていくんですよね。」
グラデーションのある場を設計し、余白・関わりしろをつくる
ミーツ・ザ・福祉ではイベント開催の半年前にワークショップを行い、継続的に企画運営に関わってくれる人を集めていったそうです。そして、「月に一度実行委員会をするので、みんなでイベントをつくっていこう!」と呼びかけ。地域のキーパーソンには個別で声かけをして、関わってもらいたい旨や思いをお話ししてきたんだとか。そして、50名ほどのメンバーがボランタリーに企画運営に関わるように。
また、イベント当日のボランティアメンバーへの説明会や交流会も実施。中学生から70代まで、100名ほどのボランティアさんが関わってくれたそうです。イベント当日の一般参加者は3000〜4000名だと言います。大切なのは、こうしてグラデーションのある場をつくっていくことなのだそう。
「これまでいかにして余白や関わりしろをデザインしていけるかを考えてきました。一緒にチラシ分けをする機会をつくって関係性づくりをしたことも。こうやっていろんな人が関わることのできる余白をつくっています。このプロセスを組むことがすごく大事かな、と。地域で活動するうえで、仲間内のメンバーだけでやらないことはすごく大事。
いろんな人にどうやって関わってもらうのか。どういうふうにやる気になってもらうのか。どういうふうに『自分のやりたいことかもしれない』と自分ごとにしてもらうのか。その辺りのコミュニケーションの仕方や場の設定の仕方は、僕はめちゃくちゃ大事だと思っています。
イベント当日にこんなにもたくさんの人が遊びに来てくれるのは、ミーツ・ザ・福祉自体にたくさんの人が関わっているからなんですね。たくさんの人が企画運営に関わっているからこそ、その人が友だちを呼んできてくれているんです。実際に、市内にある約1800か所の掲示板にポスターを掲示したり3万枚以上のチラシを配ったりしているのですが、『知り合いに誘われたから』という理由で来てくれている人が多いんですね。」
目に見えやすい評価だけでなく、どう日常を変えていけるか
地域で活動するうえで評価はつきもの。わかりやすいのは、来場者数や売り上げなど目に見えやすい評価です。その評価も大事な一方で、日常が変わっていくことこそが価値だと藤本は話します。
「日常が変わっていくことって豊かだし、楽しいことですよね。僕らはこれが価値だと思っています。ミーツ・ザ・福祉を通して、福祉事業所に遊びに行く学生が増えたり、障がいのあるメンバーの誕生日を祝うメンバーが出てきたり、普段から飲みに行く関係性ができたり。そういうことが、このイベントを通して生まれている価値なんじゃないかと僕らは思っています。」
ミーツ・ザ・福祉を始めて2年が経った頃。企画運営に関わるメンバーが言ってくれた言葉が、特に印象に残っているそう。
「『だれかのものさし(評価)を気にして今まで生きてきたかもしれない。だけどこの場は、このメンバーは、あなたのものさしで良いんだよ、と言ってくれているような気がする』。こう言ってくれたメンバーがいたんです。もしかしたらあなたのものさしで良いんだよと言ってもらえる場所を、僕らはあまり持っていないのかもしれないですね。逃げ場をどうつくっていくか、そういう場をどう社会に広げていけるかを僕らは考えているなと思います。」
地域で活動する中で、いかに関わっている人たちの日常を変えていけるか。イベントの開催日という点だけでなく、いかに日常という線を描いていけるか。今回のお話からは自分たちの活動の価値を問い続ける姿勢の大切さも教えてもらえたように思います。
次回は、空間活用コースDAY4モノをつくってみよう!
11月23日(木)の講師は、カモメ・ラボ代表の今村謙人さん。屋台をつくってまちなかで出店したり、まちの公共空間を使いこなしたりする実験をされています。今村さんのこれまでの活動のお話をお聞きつつ、ミニ屋台をみんなでつくるワークショップも実施します。次回のレポートもお楽しみに!
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