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17.5歩目。石職人さんの人生の振り返り。

●石職人さんの人生の振り返りについて


「私はとても恵まれている人生を送ってきたと思っています。自分自身の才能の小ささを知りながらも、そこで立ち止まらず歩き続けることが出来た、それが様々なクリエイティブな仕事において、どれだけ貴重でありがたいことか、意識しすぎることなく過ごすことが出来たからです」

「私に才能の欠片を教えてくれた父親、その才能を見出して信じてくれた貴族の方、そしてそれを伸ばしてくれるような環境を与え続けてくれた工房の親方には、本当に感謝しかありません」

「憧れの職人さん…彼とは、おそらくお互いに『片翼の鳥』という存在だったのだと思います。私ははじめて彼に出会った時、『この人はこんなに才能に溢れているのに、なぜ周りに認められていないのだろう?』と不思議でなりませんでした。そして、彼も私に対してそう思ってくれていたことが、長い年月のやり取りの中で、彼から伝えてもらった時に、お互いにそうなのだと確信したのです」

「私と彼の間には肉体的なやり取りは、多分、殆どありませんでした。そこに触れてしまうと、何か大切なものを(お互いがお互いから)奪ってしまうのではないかと怖かったからです。そのため、そういった触れ合いがなかったからこそ、作品作りの時には相手への思いをぶつけるように没頭していたように感じます」

「彼は、腕を怪我する前からずっと、私の才能に対して『自分が足を引っ張っているのではないか』といつも心配していました。私も同じことを彼に感じていました。ですが、お互いに『この人が居てくれるから、自分は(才能がないことを悔やみすぎて)倒れずに作品を作り続けられる』と思っていたので、そこにはあまり触れすぎに無いようにしながら、表面的な穏やかさだけを保つことに必死になっていた気がします」

「彼の才能を世に認めてもらうために、工房からの独立を軽い気持ちで提案したのは、実は私なのです。彼はそのことが原因で、大切な腕を傷つけてしまいました。だから、私が彼のことを背負い続けるのは当たり前のことだと思いましたし、二人だからこそ作れる作品でしか、私達は自分自身を表現することが出来ないことがわかっていたから、離れられなかったのです」

「彼が腕の怪我が元で、少しずつ心が壊れていくのを、私は側で見守りながらも止めることが出来ませんでした。彼が壊れきる前に、それを止めたくて、様々な神々にもすがりましたし、有名な祈祷師にも彼の心を助けてもらえるよう、依頼したこともあります。ですが、そうやって私が必死になればなるほど、彼は心を閉ざし、そして壊れていったのです」

「彼が亡くなる前の日に、私は一度だけ彼から激しく体を求められたことがあります。それはあまりにも突然で、私も始めは状況を理解できませんでした。薄っすらと覚えているのは、彼が泣きながら私の上に覆いかぶさっていたことくらいでしょうか…肉体的なやり取りがあるとすれば、おそらくそれが最初で最後だったのだと思います」

「彼は私にとって『四霊』であり『四凶』そのものでした。そして、その作品を作り上げながら、彼にとっても私がそうであったのだと気付いてしまったのです。それ以降の作品は、私にとっては彼への贖罪のためのものでしかありません」

「私にとって、彼が全てでした。その存在があるから、私はあの仕事を全うすることが出来たのだと思います。最後の瞬間も工房に居て、作品に向き合っている時でしたので、原因がなんであれ、クリエイターとしては最高の死に様だったと思っています」

石職人さんは、お話を終えた後、仕事道具をキレイに磨き、布の入れ物のようなものにしまって、机の上に置いたまま、「これで自由になれるよ」と笑いながら、光の中へ溶けるように歩いていかれました。

…という感じでした。

石職人さんのパートナーの方への想いというのは、本当に真剣で真摯なものだったでしょうし、お互いに言葉を飾れるほど会話が得意な方々ではなかったのだろうな、とは思います。

ただ、石職人さんは良くも悪くも「生粋のクリエイター」でパートナーさんは「職業でのクリエイター」という違いがあったのではないかな、とか考えてしまいました。

おそらくその辺の「実際に現場にいる人しかわからない微妙な違い」が作品作りへの向き合い方だとか、姿勢だとかに出ていたんじゃないかな…と。

だからこそ、パートナーさんを立ち直らせるための方法として「作品作り」にこだわったわけだし、失った後の心の隙間を埋めるための行動も「作品作り」だったんだろうな…と。

過去世もそうですが、過ぎ去ったことに対して「もし、こうだったら」と考えるのは、あまり意味はないのですが…ちょっと悲しい結末を視ると、やっぱりそういうことを考えずにはいられません。

「こうなるべくして、こうなった」

それも一理あるのかもしれませんが、違う選択肢を見つけて、選ぶことが出来れば、違う形の結末もあったのではないか、と思ったりもするのです。

今回はこのへんで。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

とよみ。

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