都心の廃校に美術館。子どもたちの声が蘇った。(東京都新宿区)

戦前に建てられたにも関わらず、少子化の影響で廃校になってしまった新宿区立四谷第四小学校。その歴史的な校舎を残す手段の一つとして、「東京おもちゃ美術館」は2008年に開館しました。もともと、おもちゃ美術館は、中野区で約40年前に開館した民間のミュージアムです。

「おもちゃは、人間が初めて触るアートである」

と唱え、世界各国の美しいおもちゃに実際に触れて遊べることを特徴としていました。おもちゃで遊び、一緒に来館者と会話を楽しむ私設美術館として、細々と活動を続けていましたが、四谷地域住民からの声がけに応え、旧校舎への移転を行いました。

 移転後は、約5000点のおもちゃを10教室にテーマごとに展示しています。家庭でのおもちゃ選びの参考になるのが「グッド・トイてんじしつ」。「グッド・トイ」とは、美術館を運営する認定NPO法人芸術と遊び創造協会のグッド・トイ選考委員会が毎年選定する優良な玩具です。

日本のおもちゃ市場では、毎年あふれるほどの新製品が発売されています。その中から、親や祖父母が楽しめるおもちゃを選ぶのは至難の業です。おもちゃ選びの目安になるようにと、約500点以上受賞玩具から、100点に絞り展示されています。ヨーロッパの木のおもちゃ、おもちゃ職人が山奥で手作りする国産玩具などを実際に手に取り遊ぶことができます。

 数ある展示室の中での一番人気は、「おもちゃのもり」です。旧音楽室に九州山地のヒノキ材を敷き詰め、国産の木製玩具が並ぶ空間は、木の香りと木のおもちゃで森林浴を味わえます。現在、おもちゃ美術館は、赤ちゃんから木に親しむ“木育”の推進に力を入れています。子どもは感性で生きています。そのパートナーとして最も適している素材は、五感を満たすことができる木しかありません。さらに、乳幼児向けの「赤ちゃん木育ひろば」は、ハイハイに最も適した材であるスギを、全国10地域から集めた子育てサロン。その温かさと柔らかさには、大人の心も癒されます。

 おもちゃを通じたコミュニケーションを推奨するこのミュージアムを象徴するのが「ゲームのへや」です。ヨーロッパを中心にアナログのテーブルゲームが並びます。テーブルゲームは、相手と会話をしないと楽しめないものがほとんどです。家族が顔を合わせ、楽しい時間を過ごすためのツールとして数々のゲームを紹介しています。この部屋ももう一つの特徴は、一流プレーヤーが指導してくれること。女流棋士、オセロ名人、テーブルサッカー日本代表をはじめとする達人たちからゲームの奥深さを味わえます。

 また、おもちゃ作りを楽しめる「おもちゃこうぼう」も毎日開催。牛乳パックや紙コップなど身近にある素材を使ったからくりおもちゃを無料で作ることができます。おもちゃは、買って楽しむだけでなく、自分で作って遊ぶのが本来の姿です。現代の子どもたちに、自分の手を動かし、創作する喜びを味わっていただいています。

 そして、美術館の大きな魅力にボランティアスタッフの「おもちゃ学芸員」の存在があります。300名が登録しており、彼らが遊び方の説明や展示解説、科学おもちゃのパフォーマンス、手作り指導などをしています。入館者とおもちゃの懸け橋となる人の存在があることで、どのような方でも、おもちゃを通じたコミュニケーションの楽しさを体験することができます。

 遊びは、子どもたちの心を育む大切な栄養素です。おもちゃを活用した多世代交流の実践が、社会全体が子育てを「楽しい!」と思えるようになる要素がこの美術館には詰まっています。


10周年、おめでとう。「東京おもちゃ美術館



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