鳳仙花
毎年夏になると韓国で従兄弟と遊んで過ごすのが楽しみだった。
幼少期はとにかく暇だった。
暇すぎて、シロツメクサで草冠作ったり、公園のヨモギをつんで友達のお婆ちゃんに蓬餅を作ってもらった。
当時はあまり好きではなかったが、現在では大好きなフレーバーのひとつである。下手したら抹茶より好きだ。
葉っぱで笛吹いたり、アロエの皮剥いて肌に塗ってみたり。サトウキビみたいな甘酸っぱい茎をしゃぶったりもした。
鳳仙花という花もある。色は赤というより紫に近い。緑の立派な葉のわりにチュンチュンとついている赤い花がある。
韓国に行くと、祖母がその散った花びらと薬品をすり潰し、混ぜ、幼きわたしの爪の上に乗せてくれたことがある。
ラップに包んで数分待ち、乾かすと、マニキュアをしたかのように爪に色がうつる。濁った血のようだったが、とても綺麗だと思った。
祖母は北朝鮮に生まれた。この鳳仙花爪染めは北朝鮮の文化から来ているらしい。
現在、祖母は韓国に住んでいるが、北という故郷にあたる国に帰ることが出来ないことをどう思っているのだろう。ふと、思い出したりするのだろうか。
韓国の北の方にはDNZといって軍事境界線非武装地帯というゾーンがある。パスポートを持って入り、(境界線であり国境では無い)今ではちょっとした観光地になっているほどだ。
双眼鏡から北朝鮮側を見ることも可能で、色々と他にも観光スポットがある。「統一を祈る」とか「平和」とかがかいてある。
擦り潰された花びらが爪に染み込むのを待つ時間を昨日のことのように記憶している。
夏休みが終わる頃には日本に帰り、なかなか色が落ちない爪を眺めて、また祖母の事を思い出していたのだった。
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