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さんかくのおさら

パスタを出した瞬間、ふうか氏に泣き叫ばれた。
「チガウ!」と言いながら皿を落とそうとするので、おいおい違くねーよと皿を回避。
パスタは好きなはずなのに。最近こんなことはなかったし、イヤイヤも緩和してきたとおもったのに。勘弁してくれ。

「いらないなら別に食べなくてもいいよ。その代わりなんもないけど」と言うと、さらに泣く。
「ラーメン」と言った気がして、「ラーメンは昨日食べたじゃん。今日はパスタだよ」と返すと、転がって泣く。
「ママがふうちゃんのも食べちゃお〜」と言うと、「フウチャンガタベル!」とその気になるときもあるので言ってみるが、今回は効果なし。

こりゃダメだとおもって一人食べていると、「サンカクノオサラデタベル」と言った気がする。
三角のお皿?頭に思い浮かべてみたものの、そんなおしゃれな形をした皿はうちにはない。「そんな皿ないけどな〜」と返すと、また泣く。もう知らんがな。

また一人パスタを食べていると、泣きながらもようやく立ち上がったふうか氏が近寄ってきて、わたしの皿を掴んだ。おいおい今度はなんだよ。
「フウチャンモ、サンカクノオサラデタベタイ!!」

そのとき、はじめて理解した。
三角と聞いて、わたしは上から見て三角のお皿を思い浮かべて「ない」と言ったのだが、ふうか氏は自分の目…つまり横から見てわたしのお皿を三角だと言っていたのだった。

要するに、ふうか氏は、
「ママと同じお皿で食べたい」
と言っていたのだ。

慌てて台所でもうひとつあるその器に盛り直してふうか氏の前に出すと、ふつうにモグモグムシャムシャ食べはじめた。ニコニコ嬉しそう。

なんだ、中身じゃなくて器が嫌だったのか。
いつもふうか氏が食べているお皿に盛っていたし、お皿が違うこともざらにあったので気づかなかった。

サンカクノオサラ。
面白いな…とおもいながらも、自分の嫌味ったらしい発言を思い返して、軽く自己嫌悪した。ふうか氏がイヤイヤ泣きすることに慣れすぎて、いかに説得するかばっかり考えて、それに疲れてしまって、なんだか時々見失ってしまうなあとおもった。
いっぱい遊びたいだけなんだよ、とか。
一緒のことしたいだけなんだよ、とか。
余裕がなくなると、自分の気持ちにばかり目がいってしまって忘れてしまう。
そのとき起こってることじゃなくて、根っこにはそういう気持ちがあるんだって、いつだって思い出せ。忘れたら思い出せ。応えられないときも、せめて思い出せ。

フウチャンガハンブッコスルノヤツ』に引き続き、この思い出に『サンカクノオサラ』というラベルを貼って、そっと心の中に置いておきたい。
そんな風におもった、金曜日の昼であった。

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