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140字小説集

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140字小説だけ集めたもの。コメント欄に設定付き。
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2016年1月の記事一覧

庭先で音。外を覗いた僕らは顔を見合わせる。犬小屋の前で金槌をふるうじいちゃん。「…何してんの」「コロの小屋、雨漏りしとるから」かんかんかん。ついにボケたと目をそらす僕。「コロ死んでるけど?」KYな妹。「知っとるわ!…これでいつでもばあさんと里帰りしに来れるやろ」もうすぐ、三回忌。

『ちよこれいと』『ぐりこ』『ぱいなつぷる』『ぐりこ』一事が万事そんな感じ。はじめの一歩しか勝てずじまいの双子の兄、俺。『ぱいなつぷる』『…』『ちよこれいと』『…』やめやめ。ぐりこ、とかばかみたい。『…』どうした?『…』一度転んだくらいでひるむなヘタレ。見よ、兄渾身の『…ぐりこ!』

くしゃみのち頭上で笑い声。見ると二度と会いたくなかった顔が手すりを掴んでいる。「相変わらずくしゃみ変だね」一瞬で高校時代に逆戻り、寝取られ事件を経て現在へ。「あの時はごめんね、つい」「ぶっ殺…」怒鳴りかけた声が詰まる。笑うやつには足がない。「ごめん、もう死んでたー」軽っ重っ嘘っ。

はーっと息を吐くと白く染まる。「あー寒。もう帰ろーぜ…」振り返るとアキラが小さな足で僕の足跡を追いかけてくるところだった。思い切り足を開いて一歩踏み出す。跳ねるように。背伸びするように。負けないように。追い越すように。視線を感じた。いつかの僕が、この瞬間を遠い未来から覗いている。

叔父は変わった人だった。子どもの目からもはっきりと親戚から浮いて、妹である母しか味方はいなかった。「あっち忙しそうだぞ、お前の押し付け合いで」隣に黒服の叔父が座る。「どこでも同じだよ」母がいないなら。「そうだな。もうどこでも同じだ」一人ぼっちが二人。「どこでもいいなら、来るか?」

先月別れた彼氏から漫画を返してもらってないことに気づいた。でも今さら連絡したくない。そうなると余計に読みたくなる…イマイチだった気がするのに。迷った末、全部買った。イマイチだった。悔しすぎて泣けた。私の純情と金返せバカ。「…っていうわけでそのマンガ買わない?」「いらねーわまじで」

うちの姉ちゃんは最強で最恐。それが結婚するとかで恋人連れてきたんだけど、そいつといる姉ちゃんは可愛らしくて気色悪い。廊下に呼び出す。「反対。あいつとおると姉ちゃんが死ぬ」「アホ」殴られる。「今まで死んでた私があの人の前でだけ生きれるんや」そんな笑顔知らん、とっとと嫁っちまえ!ぐす

タンスをどかすと壁にカビ。「どうしたの?」指差すと彼女は笑う。「ちょうど潮時だったのかもね」次々運び出される僕の荷物、彼女の荷物。行き先はばらばら。「さようなら」なんて正しい別れの挨拶。彼女が去るとカビの生えた僕らの時間と二人きり。目をつむる。ぴかぴかの僕らが笑う声が遠く響いた。

あいつが受かって俺だけ落ちた。合格発表の日から部屋に引きこもってる。メールやら電話やらいっぱい着たけど着拒した。親友なのに親友だから憎くて、それから。コンコン。「おい」あいつの声。「俺頑張ったから胸張って行くぞ」聞いてねーし。「なあ…昨日アメトーク見た?」「…見たよ、ちくしょう」

「疲れた…」事務所の席についたところで「店長」と声。「あれ、まだ帰ってなかっ」「本当は、話しかけたくもないんです」モジモジと笹崎さんは続ける。「コンビニの店長とかwwwって感じだし生え際やばいし存在モサいし…だけどあたし…っ」「ごめんなさい」「えっ、店長のくせに振るんですか!?」