- 運営しているクリエイター
記事一覧
隠れんぼに混ぜてもらえた。どきどきしながら鬼が来るのを待ってたら日が暮れた。誰の声もしない。皆僕を忘れて帰ったんだ。まぬけすぎて涙も出ない。月を仰いだ瞬間、背中を叩かれた。振り返れば汗だくの鬼。「隠れんのうますぎだろ!」「もう帰っちゃったのかとおもった!」二人してわんわん泣いた。
湿気った風がふいてもうすぐ雨が降るとわかった。洗濯物を中に入れなくちゃ。立ち上がろうと五分前から思っている。息子がわたしを呼んでいる。昼寝したはずの娘の泣き声がする。そのどれもが遠い。ぼんやり雨雲を眺めている。大雨警報、大雨警報。土砂崩れ発生の模様。ほんとうのわたしが生き埋めに。
「俺妹いるから三つ編みできるよ」「じゃああたしの髪でやってみてよ」どっと周りが沸いた。「えー…じゃあ触っていい?」わざわざ一言聞くところが好きだ。バカめ、あたしみたいな女の前で隙を見せよって。指が首にかする。ラプンツェルみたいに長くしてたらよかったな。今だけこの手はあたしのもの。
「日向歩いてたら死ぬからさ、影を渡って帰ろう」またいつもの思いつきだ。「えっ、そこ信号渡る意味ある?」「日影がある」遠回りに次ぐ遠回り、寄り道に次ぐ寄り道。きみは効率化の真逆をいく女。待って、そんなとこ何にもないよ!何もない場所?いいえ、世界にはどこにでも日向と日影があるんです。
「出かけるべきじゃなかったんだ」照り返しの熱が足元から立ち昇る。魚焼きグリルであぶられている魚の気分だ。上から下から。焦げ目はしっかり、汁がしたたる。「出かけるべきじゃなかったんだ」「二回言わなくていいから。じゃ帰る?」「いや……運命に挑む」「大げさか」癖で繋ぎかけた手を離した。