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読み物

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好きで書いている短編など。子供のころお金がなかったので、鉛筆と紙さえあればできる趣味を作ろうと書き始めました。それからなんと40年です。そのわりに巧くならない・・・・・・。
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記事一覧

のらねこブッチのあさごはん

のらねこブッチのあさごはん

朝が来た。このところポカポカ陽気で、ボクはうれしい。

「ナあーア」
足のつま先からシッポの先まで、大きく伸びをする。

ポリバケツのふたの上で、ミケが寝ている。先を越してホウライのおじさんのところへ行こう。おじさんは、店を閉めるときに、ごはんを出しておいてくれる。
ボクはミケを起こさないように、ソッと路地を抜けだした。

朝の繁華街は人がいなくていい気分。
車には気をつけなくちゃねと、思うそばか

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ろうそく出せ~七夕の夢

ろうそく出せ~七夕の夢

 山のふもとに、小さな神社がありました。その鎮守の森の草むらで、きつねの親子が休んでいました。食べる物を探して山を降り、人家の近くまで出てきたのです。車がたくさん通る道を渡ったり、離れ犬に追いかけられたりして疲れてしまいました。そのくせ、食べられる物はちっとも見つかりません。森の木の実が熟するまで、あともう少し。さわやかな秋の風が吹けば、山の木陰で何か見つけられるのに。お腹を空かせた子ぎつねは、そ

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 能(あた)わない象形

 能(あた)わない象形

街を見下ろす山の、中腹。閉じられた遊園地が在る。長い間うち捨てられ、木の葉が厚く降り積もった。フェンスは錆ばかり。電柱は蔦にのみ込まれた。大風が吹くと遊具が軋み、再び動き出すかのようだ。夜半、若者たちが面白がって肝試しに訪れた時期もあったが、倒れた草が絡まり合い足下が危なくなってから、寄りつく者はいなかった。
年月の重さが等しく積もるものの、回転木馬だけはかろうじてかつての姿をとどめていた。大きな

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