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「子供を殺してください」という親たち②病識のない精神病者を医療に繋げる方法

夫が本当におかしくなったのは結婚して8年が経った頃だっただろうか。

それまでも予兆はあった。
結婚前に連んでいた友達全員と縁を切り、家と会社と義実家の往復だけが彼の人生になり、家族に(とりわけ私に)異常に執着するようになった。

気に入らないことがあると何日でも不機嫌になり嫌がらせをした。

そんなある日、義父が癌で亡くなった。夫は長男だったので、何もできない義母に変わり喪主を務め、その後はあらゆる手続きや義父の仕事の引き継ぎに追われた。

そして怒りが止まらなくなった。私だけに憎しみが向けられ続けた。「箸が転んでもおかしい年頃」という言葉があるが、夫は「箸が転んでも怒り続ける」という状態だった。夫は私が冗談を言っても怒った。
いや、「怒る」なんて生ぬるい言葉では足りない。その頃私に向けられていたものは「憎悪」としか言い表しようがないものだった。

寝ても覚めても憎悪している異常な状況は、私の神経をすり減らした。そりゃそうだ、平和なはずの家庭の中でずっと憎悪を向けられ続けるのだからしんどいなんてもんじゃない。それに加えて私は、育った家庭の影響で不機嫌な人が異常に苦手なのだ。

今考えれば、夫は義母や義祖父からの過干渉で、強いコントロール下で育ったので、小さい頃に安心を感じる神経が育っていなかった。日常の小さなストレスを解消する方法さえ体得していなかったのだから、突然の父親を失くすという大きなストレスに対処できるはずもなかった。おそらくその頃、過度なストレスに神経が高止まりしてしまっていたのだと思う。
なぜか私だけに一身に憎悪を向けているので、悲しみに寄り添うこともできなかった。

本当に異常事態だった。心療内科に連れて行くしかない。でもどうやって?

夫はプライドが高く、加えて心の病に強い偏見を持っている人だった。そんな人で、しかも怒り狂ってる人に心療内科の受診を勧めて、大人しく病院に行くはずがない。

夫は自分が心の病に陥っていることを絶対に認めなかった。だから夫に心療内科を受診させるというのは相当ハードルの高いことだった。

私はここで初めて

「病識のない精神病患者を医療に繋げる」

という大きな問題にぶち当たった。


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