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【倒産2.0】 倒産体験談 元・若手経営者が倒産(申立から免責決定までとその生活)をまとめました。



数年前、私は建設会社の経営者だった。

その時の倒産の経験をここに書いていきたいと思う。
なぜなら私が倒産したときは会社を倒産させた経営者がその時の状況や心境を本音で記しているものなどはなく、弁護士事務所が掲載している法律に触れないような当たり障りのない文字で飾られた集客用ホームページしかなかったからだ。
私が体験した法人の破産について書く。
いわゆる代理人弁護士に委任し、その後破産管財人が財産をあれこれしていく破産手続きだ。
大きい会社は民事再生手続きや特別清算などの手続きがあるらしいが私にはわからない。

これを見ている貴方はおそらく今不安であり、倒産についてよくわからないから検索してたまたま出てきたこのページを見ているのであろう。
安心しろ。大丈夫だ。それを経験した私は死んでいない。現に生きている。
貴方も苦しいだろうがこの文章を読んで倒産を少しでも知れば僅かでも安心するだろう。金繰りで頭がパンパンに膨らみ、金以外のことなど考えられない今のあなたは頭を整理するべきだ。

私は周りに倒産した経営者などはおらず、先輩の金持ち経営者たちに助けられながら倒産した。
倒産に対しての知識がなかったし何より支払いをしていない下請け業者から電話が鳴りやまず、脅かされた。
そのような状況で手を付けている仕掛かりの工事現場を何とか別の人に引き継ぐ。
そんな不安定な状態だった。

人間は金が無い状態に陥ると人に対して自分の怒りをぶつけ、他の誰が何をしても癪に障りまた自分の中の怒りが増幅し頭の中を金と怒りに支配される。

それに加えて倒産について検索しても先ほど述べたような綺麗事しか載っていない。
倒産をするにも金が掛かることを私は知らなかった。
多くの人はそれすらも知らないだろう。
なぜなら皆自分で興した会社が倒産するとは思ってないからだ。

開業の手続きを指導できる経営者がいても破産手続きを指導できる経営者はごくわずかである。

それがあなたの知り合いにいる可能性はまずない。
そしてその体験談なども裏話やリアルな真実は、これだけ開かれた世界のインターネットでさえほとんど載っていない。

今から私が実際に体験した倒産の経験をここに書く。

会社を倒産させて、銀行などの連帯保証に自分の名前がある場合には多くの経営者は同時に自己破産も進める。
私がそれだった。銀行からの借り入れは8,000万円近くあり、最終の負債額は約1億円。
銀行借入が8,000万円ぐらいだったので一般債権者へは約2,000万円近くの支払いを法的に逃れた。
債権者は30社近く。
それも主に材料商社や下請けの工事会社でありその中には個人事業主として生業しているいわゆる職人と呼ばれる方々も多かった。

私は工事会社を経営して4年目に倒産した。
1年目2年目3年目も決算は赤字。現金が枯渇するとメインバンクからすぐ追加で借り入れをして、それをその月の買掛にあててまた頭を悩ませていた。
現金が潤沢にあってセレブな生活などをしたこともないし、飲み屋で奮発して散財することもない。
特別高い時計や高級車を買うわけでもなく朝から晩まで誰よりも働いていた。
休みを取ることは悪だと思っていてただ働けばいいと思っていた。
妻とその時幼かった2人の子供を連れて家族と出かけたことは数えるほどしかない。
数か月のうちのたまの日曜日に休みを取っても一日中くたびれたソファで横になっているだけ。
本当に真面目に仕事をしていてそういう状況になったのだ。
遊びに遊んで失敗したわけではないから、本当に経営者として無能だったのだろう。

私の会社は現場管理と呼ばれる業務が中心の仕事をしていて、ゼネコンやサブコン、不動産業者や近所の方などから仕事を請け負いその工事を協力業者に依頼して工事を完了させるといった仕事だ。町の工務店みたいなもんだろう。
私は大工ではないが。ブローカーともいうのか。いや、そうではない。

いわゆる元請けからの受注金額とこちらから業者に依頼する発注金額の差し引きが粗利益である。
従業員は3名。仕事を取ってくるのが私の仕事でそれを彼らにお願いしていた。
そして私が一番業務をしており営業もやっていた。
経理はほとんど見ておらず、銀行口座のデータと連携していた会計ソフトを税理士の先生と月に一度打ち合わせをしているときにたまに眺めるぐらい。
レシートをスクラップブックに張る作業があったが、それは従業員の1人にお願いしていた。
資金繰り表は銀行の担当者にきつく言われるまでつけておらず、今考えれば無責任な経営者だったのであろう。
しかし、当時の私はなんとか金額の大きい工事を受注して工事前に受け取る着手金を会社に入れて毎月の支払いをして、苦しくなる前に大きい利益を確保できる工事をものにしてこの状況から脱出しようと本気で考えていた。
というよりはそれしか自転車操業から抜け出せる方法がわからなかった。

このままコツコツ返していけるのだろうか。
毎月銀行への返済だけで90万円ほど。
さらに従業員3名と私の給料と事務所の家賃、駐車場代、さまざまな保険料、水道光熱費、ガソリン代、ETC支払い他諸々を合わせると約160万円。
合わせると会社が維持していくのに250万円毎月掛かるのだ。3期連続赤字で4期目に入ったばかりの従業員3名の会社なのに。
この状況までくるのにはもっと紆余曲折あったのだが割愛する。

そしてある年の10月中旬。
9月に施工した現場分の請求書が下請け業者と材料商社から届いた。ほとんどが郵送で、あとはメールなど。
計算すると1,800万円。入金予定は400万円。
以前から現場の着手金を当てにして毎月その金で支払いをしてきた。
赤字現場になるのを覚悟して受注をする、
そうしなければ金が回らなかったから。

私はその数字を見てからすぐに取引のあった20数社に片っ端から電話をかけて、「申し訳ございません。今月末の支払いを来月の中旬まで待ってもらえませんか?」と無茶なお願いを試みた。
私はそれまで一度も支払いを遅延したことなどなかった。当然のことなのだが、建築の業界では意外と支払期日を平気で守らない企業もあるらしい。
思い返せば一度きりで【紹介された】工事を知らない会社から受注した時に私も経験していた。
そして電話でしたお願いは規模の大きい会社ほど慣れっこなのか了承してくれた。
他にも個人でやっている方含めて15社近くが快く受け入れてくれた。
しかし当然の如く、受け入れてくれない会社も数社あって、その中に800万円近い請求書を送ってきていた会社もあった。
口座には200万ぐらいしかなく当然現金での保管もない。
その1社が待ってくれなければパンクする。
私はメインバンクの担当者に連絡したが、NOを突き付けられた。
頻繁な借り入れの数と何より金額的にもう無理だとのことだった。 
売上が約13,000万円で8,000万円近く融資しているのだから約60%の比率だ。
断るのも当然だろう。
よくこれだけ貸してくれた。
ありがとう。

次に、以前取引のあった信用金庫と日本政策金融公庫へ連絡してすぐに申込させてほしいと伝えて2社に前期の決算表と現在の資金繰り、架空で作成した受注工事明細、会社の謄本などを持参して相談した。
この時すでに10月の半ばから後半にかけてであった。
銀行の担当者がどれだけ急いで動いてくれても新規取引だと融資実行までに最低でも3週間かかる。

初回打ち合わせの段階でおおよその感触がわかった。
信金の担当者は知り合いが紹介してくれたので2,000万円の申し込みで保証協会がOKすればなんとかしてくれると励ましてくれたが公庫は無理そうだった。
担当者もイヤイヤに話をしていたのだが私は懲りずに熱弁してお願いをした。2社とも10日ほど待ってくれれば返事ができるといってくれた。
メインバンクに断られた時点で大口の支払いと他数社に支払えないことが確定していたので知り合いに金を借りに行ってなんとか500万円ほど集めたが、翌月の頭に銀行の返済がありその月の10日に従業員の給料も支払わなければならないことが頭の中からすっぽり抜けていた。
そして10月に施工した現場の金は既に入金してもらっている。11月の末にも支払いがあるし、いくらの請求になるのかもわかっていなかった。
もう無理か。

10月の末に数社分だけ銀行窓口で支払いをして、その足で以前から相談していた知り合いの先輩経営者に相談にいった。「もうこれ以上傷口広げるのはやめて、畳んだほうがいいんじゃないか。ここまでの額は俺も面倒見切れない。」と重い口を開いてキッパリ伝えてくれた。言いづらかっただろう。私は涙が出てきた。周りの人に数えきれないほどの迷惑をかけ、協力してもらい、今まで会社をやってきた。

経営していたのではなく、何とか金を回していた。
経営なんて出来ていなかった。

途中からは現金のために売り上げを立て赤字を出していたのだから、今考えれば何のための商売なのかわからない。その時は必死だったことだけ覚えている。

その言葉を聞いた私は「わかりました。」と返し頭を下げた。その方が知り合いの弁護士を紹介してくれると言ってくださり、翌日にその弁護士事務所に打ち合わせをしにいった。
会社のリアルな状況を伝えて、倒産の手続きを先生にお願いした。私は支払いを止めている下請業者からくる催促の連絡とこれからの不安で頭がいっぱいになりパニック状態だった。

自分の会社が倒産するなんて本気で思っていなかったからだ。バカである。

先生から倒産や自己破産のことについて聞いていくと、何もかも失うのが倒産・破産だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
生活する最低限の借りて住んでいる家や家具家財・日用品はそのままで、よほど高級なものがある場合はそれを弁護士が売るらしい。
「弁護士が通知を出すと債権者たちは家にきたらダメだから来ない。もしも家にきたら家から出るな。警察を呼べ。」そんな話をしていた。
私はよく理解できていなかったが先輩経営者ともう1人ついてきてくれていた知り合いが私のためにいろいろなことを聞いてくれていた。
この時に私は鞄に入っていた100万円を弁護士に支払った。倒産するにも金がかかるのだ。
法人の破産手続きの相場は約80万円。
それと破産管財人へ支払う予納金が20万円だ。
倒産する企業の経営者は覚えておいてほしい。
最低100万円は別で用意しておけ。
100万円がないと倒産出来ない。もっとも今は法テラスと呼ばれるなんちゃらがあるみたいだが私は知らない。

1回目の打ち合わせはそんな感じで終わり、私たちはそれぞれ帰った。
帰る途中、1人の先輩が「念のため引っ越しておいたほうがいい。」と私に言った。
私は弁護士の話だけ、いわゆる法律の決まり事だけを聞いていたので油断していたが、「債権者たちはそんな法律を守って家でおとなしくしているわけがない。法人の登記簿を上げて絶対に来る。お前がもし同じことを他の元請けにやられたらどうする?通知を出す前に引っ越せ。」と強く言ってくれて、その方の知り合いの不動産業者さんが持っていた家に引っ越すことになった。
その日は会社に帰らず家に帰り私は妻に、会社が倒産して自分も自己破産をすること・借りていた家から不動産屋さんが用意してくれている家にすぐにでも引っ越さなければならないことを泣きながら伝えた。妻は「わかった。」と言ってくれて、その日から荷造りを始めていた。

次の日の朝会社にいってすぐ、従業員に家で待機してくれと伝え先に給料を手渡しして帰らせた。今までありがとうと伝えて、後で連絡すると言ったきり今でも連絡を取っていない。
その中で古株の1人が残ってくれた。彼とは今でも連絡を取り合う関係だ。
その人と一緒に事務所の書類関係を全て段ボールにつめた。そして友人が借りていたコンテナのような貸倉庫に夜な夜な移動した。
その間、取り掛かっている現場を何とか断ったり引き継いだりして仕掛かりの工事をなくした。

とりあえずやらなければならない「仕事」を無くしたのだ。
先の予定は放置だ。出来るわけがない。

次の打ち合わせの日。
11月の6日か7日ごろだっただろうか。
Xデーを決めようという話をしにいった。
いわゆる弁護士の受任通知が届く日にちを決めるということである。家の引っ越しがあったのでいろいろ調整して決めた。ちなみにこの時に弁護士の先生には引っ越すことを伝えていない。私は「債権者リスト」と呼ばれる社名や未払い金額などを記入した紙を渡して、弁護士からは「陳述書」という倒産までに至る経緯を細かく書いたものを用意してこいと紙を渡された。
申立て手続きで裁判所に提出するのにそれが必要なのである。

2回目の打ち合わせが終わり数日経って、とうとう受任通知を出した。
発送した2日後の昼頃から夕方にかけてほとんどの債権者たちに届いただろう。
借りていた事務所にはもう戻れない。会社の登記簿に載っている家の住所にも戻れない。
まだ弁護士の受任通知が出た段階だ。
法的に完全に保護されたわけではない。
とはいえど弁護士からの正式な書面が出ているわけだから、経験のある人間はまずこない。
踏み倒した業者の中には事業歴の浅い会社さんもあった為、電話は鳴りやまなかった。

大事なのが、受任通知が「向こうに届くタイミング」だ。

郵便は予想しているよりも早い。
午後に届く算段で行動していてもそうはうまくいかない。
実際にその日の昼頃に、会社を潰すことを事前に伝えていた仲間から「俺のところにもう通知が届いたぞ。気をつけろ。」との連絡があった。
大手はやっぱり動きも早い。私の連帯保証人のところにもすぐ来たらしい。
商社は本部に法務部的なそれ専門で仕事をしているようなところもあるので届いた受任通知を持って静かにやってくる。怒ることなく業務的に淡々と話をしてきたみたいだ。
一般債権者たちはそうはいかない。
慣れている会社さんは連絡すらないが、やられた経験が一度もないと向こうも必死だ。
私は友人に元事務所の近くを通って確認してもらったが、3台から4台の債権者たちの車があったそうだ。
電話に出なければLINE、メール、ショートメール、私の親・親戚・知り合いなどあらゆる方法で連絡を取ろうとする。
弁護士から事前に「電話に出ても埒が明かないから出るな」と伝えられていた為、私は電話を取ることもなかった。言われなくても出なかっただろう。どうしようもできないのだ。
申し訳ない気持ちだけ伝えても仕方がない。
こちらはこちらの事情でこうするしかないのだから、「ごめんなさい。」と言ったところで 「謝罪はいいから金払え。」と言われて終わりだ。

本当はいけないことなのだが、昔からの仲間数人と一部の業者には事前に現金で支払いをして領収書を個人名でもらっておいた。
業界的に怖い人が多かったのでそうしておいたのもあるが、その時にはまた建設の業界で何とか復活する予定だった。
だから何本かの強い太いパイプは繋いでおかなければならなかったのだ。
あとは本当にお世話になった工事会社さんに全額は払えなかったが、いくらか持って謝罪をしにその人が作業している現場まで行ったところもある。
あとは昔からの信頼出来る仲間には筋を通して今後もなにか連絡ができるようにしておいた。
結果的に建設の業界に復帰することは無かったが、これでよかった。
他にも2社回ってお金を持っていく予定だったのだが、遅かった。通知が届く予定の日の昼過ぎに連絡がなりやまなくなり、1社は距離が遠いところだった為・1社は先に通知が届いてしまい感情的になっていた為こちらも諦めた。申し訳ない。

倒産する方は、これもよく注意しておいてほしい。
事前に挨拶をしておきたい業者がいるのならば受任通知が届く日時をよく確認して弁護士と連絡を取り合ってほしい。
少し早めに出向いたほうがいいだろう。
しかし、金が少しでも用意出来ないのなら謝罪にいくな。情報だけ回される。相手が悪ければそのまま捕まって拉致されるかもしれない。

そして受任通知が出てからは現金の移動も何もできない。銀行口座からは現金で降ろしておくこと。
足の付く口座間の資金移動はするな。

復活したときに再度取引したい業者がある時は前もって全額支払いを出来る状態を作って、「絶対に漏らさないでください。復活したら何とかお願いします。」と約束してこい。
そして「その金はもらっていないことにしてください。」とお願いするのだ。

偏頗弁済(へんぱべんさい)といって、特定の誰かにだけ勝手に支払うことは許されないのだ。そんなことをすると破産管財人はその支払いを取り消すことができる。
事前に、わからないように支払っておいて、支払われていないことにしてもらうしかほかない。
取引開始時に保証金や預かり金などを支払っている会社があるときは、買掛がそれより下回るなら放っておけ。
破産管財人もその保証金のすべてを取ることはしない。保証金から買掛を差し引いた分を債権者は管財人に返金するのだ。それすらもしない管財人もいる。
面倒だからだ。
復活した時に再度取引したいのならば事前に、前述の方法で謝罪に行け。

あらかじめ用意しておいたレンタカーに乗り、帽子を深くかぶり、怯えながら引っ越し先へ帰った。
玄関のドアを開けると、引っ越したばかりの家に急いで荷物を詰めたダンボールが山積みになっていた。
奥へ進むと買ってきた安い惣菜をおかずに夜ご飯を食べていた。
私はとても安心した。家族に何かあるのが一番怖かった。この時に、前の住所の家に居れば大変なことになっていただろう。事務所まできた債権者たちが何社もいるのだから、自宅に来ることが容易に想像できる。1回目の打ち合わせ後に引っ越しを強く勧めてくれた先輩とその知り合いの方に感謝を伝える電話をした。

その後鳴りやまない仕事用の携帯電話はマナーモードにして下駄箱の上に置いた。バイブレーション機能のついたそれは狂ったようにブルブル音を立てて震えていたので、電源を落としてハンドタオルに包んで捨てた。
子供は何故引っ越しをしたのかを理解出来る年齢ではなく、「前の家のほうがよかった。前の家に戻りたい。」としきりに妻に訴えていたが妻はそれをなだめ、布団も用意できていない狭いリビングの冷たい床の上に横たわりタオルケットをかけて寝た。
私は妻と今後について深く話した。私がしばらく実家に行くことになった。
その時には引っ越し先の住所は誰にも知らせておらず、ココ(新居というか引っ越した先)が一番安全だろうという2人の意見だった。もし私が債権者に見つかりマークされてもココに帰らなければ子供たちの居場所はわからない。申立手続き書が出して裁判所に受理されるまで私が実家で暮らすということだ。

申立手続きが出来ないと完全には保護されない。

急いで実家に連絡をし、次の日早朝に実家に行った。レンタカーは延長して車は近くのコインパーキングに止め両親に頭を下げた。破産は事前に伝えていた為、子供たち(両親からすると孫)が安全ならそれが一番いいだろうと理解してくれた。

それから申立手続きまでは弁護士と週に何回かメールをして、必要書類を揃える。
会社の帳簿類と記帳した通帳、保険証券などのお金が絡むものは全てだ。
直近の決算書も必要だろう。これらの書類が揃わないと手続きが受理されない。

「会社」に関わる書類は何としてでも安全な場所に保管しておけ。

私の知り合いには刑務所に入っている間に下請けの業者に事務所を荒らされて倒産することも出来ない元経営者の方もいる。

帳簿・通帳・保険証券類はまとめて段ボールでどこか安全な場所に移動しておくべきで、究極は全てスキャンをかけてデータで持っておけ。
おそらくそんな時間はないだろうが。

もし売り掛けがあるのなら早めに回収しておくんだ。
しっかりと両者の記名捺印された債権債務をはっきりさせた書類を持っていても倒産してからは自分のものではない。管財人が債権者にいびられない程度に回収して割合に応じて振り分ける。
受任通知を出してから口座に振り込まれても引き出せないし、ネットバンキングでも資金移動できない。
凍結されてしまったら自分ではどうすることもできない。かといって踏み倒した銀行に電話したところで意味ない。バカでもやらない。売り掛けと債権は早く回収すること。

それと領収書は何でも取っておけ。
直近の口座からの引き出し、それも大きい金額のものはのちに管財人から絶対に突っ込まれる。このお金は何に使ったのですか?このお金はどこにいったのですか?とこと細かく質問される。
復活してから再度取引したいと考えている業者やお世話になった業者に事前に現金で支払いなどをすると、それなりの金額を銀行口座から降ろさなければならず、それが記帳された通帳は裁判所に提出するので、多額の現金のやりとりは残っていると管財人にバレてしまう。お金を使ったものの証拠は全て取っておくこと。
管財人の中でも破産管材を専門でやっている弁護士もいればそうでない人もいて、いわゆる裁判所の手下みたいなものだ。
とはいえそれが仕事でその対価をもらえるが故、弁護士方もその仕事を請けている場合が多い。
よほどメディアに注目されるような大型倒産でなければ、正義を貫いて何もかも指摘していくような重箱の隅をつつくようなことはしない。
彼らも金になることを金にして自分の報酬にするだけだ。
とはいえ国の遣いなのだから、裁判所が気になるだろうことを事前にこちらにチェックしてくる。倒産する会社の経営者はおろした現金の内訳と言い訳を事前に用意しておくのに領収書が必要なのだ。辻褄が合えばそれ以上は何も言ってこない。早く終わらせて早く次の管材事件に取り掛かるのだ。

郵便について。
倒産した会社へ届く郵送物や同時に自己破産手続きをする私へ届く郵送物などはすべて管財人に転送される。そして中身を勝手に見られて、問題がなければ渡される。
そして【管財人発信】という赤い文字の印鑑を押されたものが自分のところに郵送される。
ちなみにこの破産管財人というのは、私が委任をした弁護士の先生とは違う人だ。
「申立て手続き」までをやるのが自分の委任した弁護士で、「申立後」から清算手続き完了・破産終結までをやるのが破産管財人だ。
この破産管財人は当然だが選べない。
委任した弁護士すら申立後裁判所から連絡がくるまでの間、どの弁護士が破産管財人となるのかも知らない。
営利関係が無いようにする為とか色々な事情があるのだろう。まあ考えれば当然だ。

私は実家で数週間過ごしていると、弁護士から「週明け、裁判所に申し立てします。」と連絡がきた。
私は安心し、そのことを家族に伝えた。
このころもまだ外に出るのはまだ恐怖があった。
家の前に怪しい車があるとインターホンのモニターで監視をしていた。
弁護士に原本を送らなければいけないものなどはなるべく明るいうちに近くのコンビニで発送していた。

父母が貸してくれた現金が少しあった為、私は仕事もせずにいた。
ちなみに最初に債権者に通知がいくのが「受任通知」だ。
これは、もう会社がダメなので倒産するために弁護士の私に連絡くださいね。という文言の書類で、このときまでに前述した様々な段取りを踏んで準備しておかなければならない。
その後発送されるのが、「申立手続き開始決定」の通知だ。
受任通知とほとんど変わらないが、これは「受任通知」が出てから1週間ぐらいで発送される。私の時はそんな感じだった。
やっぱり無理なので、倒産するために手続きに入りますよ。という弁護士からの手紙。
その後破産申立の書類を揃えて裁判所に提出すると発送されるのが、「破産手続き開始決定」の通知である。倒産の手続きを始めるので皆さんいくら支払われなかったか教えて下さいね。という破産管財人からの手紙だ。
この時に官報公告される。確かそんな感じだ。
破産手続き開始決定の通知が出てから何日後か状況によるが弁護士の先生と、初回打ち合わせといって破産管財人弁護士と面会にいく。
この時には破産管財人の名前は依頼した弁護士方から聞いていた。
初回打ち合わせは何をするのかというと、あらかじめ裁判所に提出された書類のすべてを管財人がチェックしていて、その中で気になるところを質問される。
私もここで何個か厳しい追及をされたが、何とか切り抜けた。言い訳がエビデンスで残っていれば大丈夫だ。
最もその前から委任した弁護士伝いでメールのやり取りはしており、明らかにおかしいだろうことは質疑応答されていた。
書面や文面だと理解しにくい、わかりづらいことを聞かれる。
特に資金隠しなどをしていない貴方は聞かれたことの事実をそのままに、知らないことは知らないで誠実に話せばいい。
私は何としても支払いをしたかった会社さんがあったため、所有していた自動車を知り合いに売却していた。
それも弁護士さんとの1回目と2回目の打ち合わせの間にである。倒産寸前のタイミング。
これも中古車などを取り扱うかなり信頼出来る筋の付き合いの業者さんがいなければ成立できず、売買契約書の日付を遡って記入し、さも半年や1年前に売却していたことにして現金に変えてくれた。
もちろん決算書に記載のある資産だとそれ以上は決算期より前には戻れないためその付近の日付でやる。
中古車屋さんには領収書を渡して、自分は現金をもらいそれを工事会社に支払う というのが1個のパターンだ。

もう1パターンは、売却して借りていることにするやり方だ。

売却して現金の授受があったというような書類を作るのだけれども、実際には売っていないし車も渡していない。自分の会社名義の車をその中古車屋さんの名義にするだけ。

そしてそれは自分が乗っているという方法だ。
信頼していた中古車屋さんに何とかしてもらって数か月後、自分の名義に戻した。

これらは、もし現金の使途や諸々が管財人にバレてしまえばその車の売買契約は取り消され、倒産の手続きも進まなくなり私は詐欺などの別の罪で問われていたかもしれない。
たまたま運良く突かれなかった。
その中古車屋さんからもう1回別の名義にしてその後私に戻したりとか第三者が入ったりして何とかくぐり抜けてきただけだ。
会社保有の車は全部で4台有り、全部の車それをやると危ない気がしたので、他の2台は素直に管財人に差し出した。
管財人側の中古車屋が2社きて、相見積もりの上持っていかれた。いくらで買い取られたのかは私にはわからない。

そんなこんなで第1回の債権者集会を迎える。
これは官報で公告されているので何年何月何日の何時にどこで行われるかは調べようと思えば調べられるし、何より管財人からの債権調査票で出欠確認が行われている。
その時私はもう違う仕事を始めていた。
同じ業界で復活する予定だったがそううまくいかない。同じ土地で似たようなことは出来なかった。
前日には委任した弁護士から「適当な作業着で来てくれればいいよ。スーツにネクタイなんてしなくて結構。」と電話で言われたので、言われたままの服装をして裁判所へ向かった。

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