「ゲーム機の恐怖」第十六話
先代
やれること
後輩さんよ、俺の声、届いてるか?そうか。聞き取りにくいかも知れねぇが、ちょっとよ湿っぽいついでに聴いてくれよ。
あの豪鬼みてぇな顔の裕哉の父ちゃんな。あぁ、これは俺の一つだか二つ前だかの先代の頃の話なんだけどよ。
ありゃぁ、裕哉がまだ5つぐれぇの子ども時分かな。あの父ちゃんな、仕事から帰ってきて無言でご飯食ったらよ、多分、虫の居所が悪かったんだろうねぇ。バシっと先代の電源つけて、やっぱり”信長の野望”をやってたわけよ。ありゃぁ、血筋だね。あはは。
んでよ、いつもだったら1時間くらいで終わるけど、そっからいつまでやったと思う?なぁ。
ガタガタッ!!!
そう!正解!
明け方!
おいおい、隣の隣の部屋から返事しやがったよ、ギターの野郎。耳が良いんだな、あいつ。知らなかったぜ。
ギターの野郎は知ってるかも知れねぇけどよ、俺は後輩に話してんだよ。答え言うなってんだよ。タイミング良く音立てやがって。なにが”アケガタッ”だよ。近しい音を立てんじゃねぇって。打楽器かてめぇは。弦楽器だったら弦鳴らせってんだ、この野郎。
正解!じゃねぇよ、俺もよ。
また話が脱線しちまったよ。
そう、明け方までずーーーーーーーーーっとやってたんだよ。あの顔で?そう、あの顔で。あはは。チクるぞ、お前。って、コントローラー起きてたのか。あはは。まぁいいや。
明け方までずーーーーーーーーーっとゲーム。
先代もその時ばかりは熱い熱いってボヤいてたみてぇだ。
あの怖ぇ顔した父ちゃんもよ、仕事でヤなこととか、くだらねぇことあった時には先代で遊んでたんだとよ。
先代が言ってた。「俺たちは、たかがゲーム機なんだ。忘れんじゃねぇ。今を笑顔にすることしかできねぇ。何かの拍子で思い出したとしても”懐かしいね”で終わっちまう。だからこそ今を最高の笑顔にすんだよ。たかがゲーム機なんだよ、俺たちは。それ以上にはなれねぇ」ってな。
だけどよ、小さい頃から裕哉をみてるからよ、俺にも”情”ってもんが湧いてくんだよ。そりゃあ人間様の未来をどうこうなんてできやしねぇ。裕哉を学校に行かせることも、父ちゃんと完全に仲直りさせることもできやしねぇよ。人生観を変えてやるなんて大げさなことは言わねぇ。
だけどよ、この瞬間、この瞬間だけでも裕哉を笑顔にさせることはできんだよ。
なに、俺も言わねぇよ。たかがゲーム機だからよ。ほんの少し裕哉の役に立てただけで嬉しいぜ。だから俺も言わねぇ。
”されどゲーム機”なんて安っぽい偉そうなことはよ。
たかがゲーム機だからこそできることがあんだよ。
この瞬間だけでも笑顔にできんだよ。
例え忘れられちまってもよ。
俺ぁ、裕哉の笑顔が見れて、俺は幸せだ。
あぁ、幸せ者だ。
秘密
そうそう。
あの父ちゃんな、明け方まで”信長の野望”やって、ようやく終演(エンディング)したみてぇでよ。どうすっかなって思ったら裕哉のマザーに言ったみてぇだ。「みんなに見せるんだ」って。あはは。子どもらが起きてくるまで眠らず、ずぅぅぅっと待ってたみてぇだよ。んで結局眠らず出社。アホだねったく。
これにはさすがにマザーも呆れたみてぇだよ。「子どもね」ってマザーが先代に呟いたみてぇだ。
っでよ、まだ続きがあんだよ。子どもねって毒吐いたそのマザーも夕飯作るのそっちのけで”ドクターマリオ”やってたようだぜ。
子どもたちにご飯は?って言われて、「うわぁ!!!」慌てて先代の中のバイキンそのままで電源切ってたってよ、あはは。
ったく、裕哉怒ったり、俺を隠すんだったらよ、我がフリ直せってなもんよ。あはは。
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