卒業と学校の変容

彼らの卒業

これまで書いてきた事件を起こし続けてきた生徒たち。

花火を飛ばしたAくんは、その後も数々の問題を起こし続け、何度も警察や児相のお世話になった。

これまでの行動歴、家庭での保護能力などを鑑み、2年の途中で別の施設(あまり詳しくは話せない)で学ぶことになった。

それでも、完全に転校したわけではないので、定期的に会いにいった。

丸刈りで、ジャージを着て寮に入って生活をする。規則正しい生活を送り、外出は禁止。
授業が終わったらクラブ活動をし、夕飯の支度を自分で行い、食べ終わったら入浴して寝る。

完全に別人だった。中学生では当たり前の生活を、彼は今まで送ってこなかった。そういう環境にいなかったのだ。もしこれが幼少期からの日常だったとしたら…と思うこともあった。

家庭環境、周囲の仲間や先輩から受けた影響が大きかった。この施設でようやく人間らしさを取り戻していった気がする。

私と会うと挨拶をし、部屋に案内してくれる。興味のある雑誌や、勉強している問題集のこと、運動会で活躍したことなど色々話してくれた。

元々別室で雑談してきたので、関係はできていた。落ち着いて話すことができれば、いいコミュニケーションをとることができた。

寮には同じような境遇の子が共同生活を送っており、その子たちともうまくやっているように見えた。

彼は頭の回転が速い。そうでないとあれ程の悪事は思いつかない。その回転の良さを活かせる環境にようやく出会えた。そんな気がした。

Aくんは学校からいなくなったが、その仲間たち(4名ほどいた)は当然学校に在籍したままだ。

Aくんがボス的な存在だったので、以前ほどの勢いはなくなっていった。

そして、2年生の頃に地道に雑談をして関係を築いていったことが生かされてくる。

落ち着いて話を聴けるようになり、波はあったが、ピアスや携帯電話は登校時に素直に預けるようになった。

関係性ができれば、会話ができる。彼らが荒れ狂っていたときに、粘り強く寄り添い続けてきたことが、伝わっていたのかもしれない。

学年の職員はほとんど会話できた。

しかし、他学年の無関心な職員や、彼らを毛嫌いしていることが誰からみても明らかな職員に対しては心を開かなかった。その姿を見て、私は他学年の生徒とも関わりを持とうと誓った。

最後はエスケープなどもなくなり、授業に集中して取り組める環境になった。

そうして彼らは全員進路が決まり、卒業式には全員出席した。

Aくんは最後までその施設にいたのだが、卒業式だけは学校の校長室で、学年職員に見守られながら卒業証書を受け取った。

校長先生に名前を呼ばれ立派に返事した姿と、校長先生からのアドバイスに、頷きながら真剣な表情で話を聴いている姿を見て涙がこぼれた。

今まであった苦労が思い出された。そしてここまで成長するのだと思い、純粋に感動した。

最後言葉を交わし、握手して別れたことは今でも忘れられない。

学校の変容。そのポイントとは

初任からの3年間がこうして過ぎていったわけだが、学校が変わることになった要因をあげてみる。

①何があってもまずは関係作り。
→いざというときに話ができるようにする。
 その人数は多いほどいい。
②とにかく寄り添う。
→目を離さず、現状察知。
③パワーで対抗しない。
→同じ土俵に立つと、揚げ足をとられる。
④他学年のフロアも見回りをする。
→学年職員だけでなく、学校がチームとなって対応できるようにする。学校が落ち着いても見回りは必ずやる。
⑤雑談が最強の生徒指導。
→関係作りの基本。相互理解を深める。どんなに荒れていても、雑談はマスト。後々ものすごい効果を発揮する。(打算的だとは思わんでください…)

この辺りがポイントになると思う。
特に、④⑤ができると強い。

対象学年だけに任せがちになるが、他学年の職員が関わりを持てるようになると、指導に幅が出て、チーム対応が可能になる。生徒も学校に対して悪い感情を抱きにくくなる。

だから私は積極的に見回りを行い、他学年の生徒にも関わるようにしていた。

実際、移動教室なのに教室に残っている生徒や、廊下に座り込んでいる生徒を発見することがあり、話しかけるようにしていた。

どうしたのか事情を聞き、どうしたいのかを確認する。落ち着いて話を聴くと大抵は行くべき場所に自分で移動していく。

これをサボると、崩壊しやすい。つぼみの段階で正しい声かけをしていくことが重要。

4年目と5年目は大きな問題はほとんど起きなかった。ようやく学級や授業、部活動の指導に集中できるようになった。

生徒の主体性が育まれていき、いきいきとした雰囲気になっていった。

やはり教師ということにあぐらをかいてはいけない。間違えると学校は荒れる。

同じ人間として関わり合い、共に学んでいこうとする姿勢をもてるかどうか。

その姿勢があれば、時間はかかっても学校は再生できると思う。これからも学んでいきたい。

次は番外編ということで、荒れていた時にふとしたタイミングで生徒から言われた、ある一言について書きたいと思います。

さりがない一言ですが、とても深く考えさせられました。

ありがとうございました。


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