最後の夏、ダントツ優勝候補を破った話

最後の夏の大会で、自分でいうのも変ですが金星をあげた試合があり、その詳細についてまとめてみます。

かなりコアでマニアックな内容になるので興味ない方はご遠慮ください笑

1年秋、2年夏、2年秋と甲子園のチャンスがある大会ではことごとく1回戦で負け続けた。

自分も含め、精神的な弱さがあり、劣勢に立たされると焦りから自分を見失い、ミスを連発した。

甲子園に行くと掲げながらも、全く結果がついてこず、理想と現実のギャップに相当苦しんでいた。

冬の練習から少しずつチームの意識が変わっていく。

5月の練習試合では横浜高校と試合する機会があり、敗れはしたが、自分の投球がある程度通用するという手応えをつかんだ。

迎えた最後の夏。私の高校は1回戦を延長13回サヨナラ勝ちで3年ぶりに初戦を突破すると、2回戦もサヨナラ勝ち、3回戦は5点差をひっくり返して逆転勝利を収め、ベスト16に進んだ。

ベスト8をかけた4回戦。相手は第2シードで春の県大会優勝校。春の東北大会では岩手の花巻東(大谷翔平の母校)に圧勝し、優勝した宮城の東北高校(ダルビッシュの母校)に敗れはしたものの接戦を演じている。

大会前からぶっちぎりの優勝候補。4回戦までも全てコールド勝ちで圧倒。投手陣は左右エースの二枚看板、打線は重量打線で下位打線も切れ目なし。

周囲からは「さすがにここまでだろう」という空気が流れていた。

自宅で母親までも「次が最後の試合か…」などと私に聞こえるように言ってくる。

ここまできて満足するわけない。勝つために必要な準備が始まった。

当時大学生の先輩が2名練習に来てくださっていたのだが、その方達が撮ったビデオを見ながら各打者の特徴、弱点、守備位置を徹底的に分析した。

特にバッテリーは何度も何度もビデオを見て打ち取り方をシミュレーションした。

前日は酸素カプセルに入って体調を整えた。

とにかく平常心で。これまでやってきたこととデータを信じようと心に決めて当日を迎えた。

1100人動員の全校応援

試合会場は相手校の地元の球場。本来であれば、完全なアウェイで戦うことになるはずだった。

しかし、学校が頑張った。バス28台をチャーターし、片道1時間半かけて全校応援を敢行。

一塁側内野スタンドから外野席まで本校の生徒と教職員で埋め尽くした。

決勝ならともかく、4回戦でここまでやるのは異例である。そのくらいの大一番だった。

相手校も応援団やチアリーダーが来ていたが、完全にこちらが圧倒していた。地元で試合をしているような感覚になり心強かった。

試合が始まった。うちは後攻で、先頭バッターを打ち取ると、怒号のような歓声が一塁側スタンドから響く。

正直マウンドに立っていて鳥肌が立った。

ポイントは初回。

先頭を打ち取った後に一死二、三塁のピンチを迎えたが、4番と5番を打ち取り無失点に抑えた。

その裏のうちの攻撃。相手が浮き足立っているのか、四球やエラーなどで一死満塁のチャンスを得た。

ここで5番打者が2球目を強打し、センターオーバーのツーベース。一気に3点を先取した。

このとき、相手キャッチャーが天を仰ぎ、感情を表に出していたのを私は見逃さなかった。

その姿は、劣勢に立たされると焦って自滅していた過去の自分たちと同じ姿。

嫌というほど経験してきたからわかる。

これは初回で精神的に優位に立った。まして相手キャッチャーはチームの4番打者で中心選手。

4番はチームの鑑。プレー中の負のオーラはそのままチーム全体に伝染する。

淡々と、落ち着いてプレーしていけばより相手の焦りを引き出して平常心を失わせることができるかもしれない。しかもこちらは全校応援。相手にとってはいつも通りプレーすることが難しい状況を初回に生み出すことができた。大きなチャンスだと感じていた。(冷静に振り返っているので言語化できているところはあるが、相手の表情を読み取れるほど落ち着いていたのは事実である)

2回にもスクイズで1点追加し4-0。3回と6回に1点を返され、4-2となり8回を迎えた。

二死から連打され、二死一、三塁のピンチを迎えた。

ここでバッターは4番。あの焦っていた4番である。点差と状況を考えても、このバッターと勝負するのが定石。

だが、ここでタイムがかかって確認。この4番はきわどいところを突いて歩かせ、次の5番で勝負しろという指示。

どんなに強い相手でも、「穴」は必ず存在する。要はその日「もってない」奴だ。相手チームの「穴」を見極めて、そこを突いていくと案外脆く崩れていくことがある。

この4番は「穴」になりかけていた。だが、6回にタイムリーを打たれ、精神的にはノッてきている。元々県内屈指の強打者。スイングスピードは恐ろしいほど速い。

かたや5番はこの日ノーヒット。雰囲気的にイマイチ覇気がない。守備の様子を見ても動きが怠慢。私のボールにタイミングが合っておらず、表情は強張って見えた。4番よりも「穴」である可能性が高く、より打ち取る確率も5番の方が高そうだ。無理に平静を装おうとしている印象もあった。

4番を歩かせると逆転のランナーを背負うことになるが、リスクを負って5番との勝負を選ぶ。チームの方針が決まった。

その方針が決まったと同時に、ライトの選手の守備位置が右中間寄り、やや深めに変わる。

5番打者の特徴と傾向に加えて私たちバッテリーの配球から、打球がくる確率の高い位置に守備位置を変えたのである。

ビデオをみて事前にシミュレーションしたデータに基づく変更だった。

予定通り4番を歩かせ、5番勝負。懐に投げ込んだストレートをパワーで弾き返された。

その打球の先には守備位置を変えたライトがおり、ほぼ定位置で捕球。

打たれた瞬間は「やられた」と思ったが、5番のこの打球を平凡なライトフライにして見せたプレーこそ、それまでの準備と分析の賜物である。

最終回は3人で抑え、4-2で勝利を収めた。

スタンドの盛り上がりが半端じゃなかった。揺れていたように感じた。

全校生徒で歌う校歌は、音源とスタンドのタイミングが合わずバラバラだった(笑)だが、喜びに満ち一つになった校歌だったと思う。

スタンドに挨拶すると、後輩や先輩が号泣していた。「次で終わりだね…」とわざわざ聞こえるようにボヤいていた母親まで。

グラウンド外に出ると、テレビカメラとインタビュアーが一気に駆け寄ってきた。

「去年までずっと一回戦負けだったので勝てて嬉しいです」と私が言ったコメントを、テレビで見ていた1学年上の先輩たちは、その瞬間だけ凍りついたらしい。

話したこともない女子が駆け寄ってきた。

こんなこと人生で2度とない。

大会後、夏休みの補習を受けるために登校した際、試合後に興奮して駆け寄ってきた女子とすれ違ったが驚くほどスルーだった。そのギャップが可笑しかった。

甲子園には結局行けなかったが、根拠のある努力が勝利を引き寄せることと応援のパワーを知ることができた。

弱者の戦法

この試合でポイントになることをまとめてみる。

①相手校のデータ分析

②「穴」の見極め

③精神的に優位に立つ

④現状把握と状況判断→4番敬遠で5番勝負

⑤応援の力

正直言って10回やったら9回は負けている。

そのくらい戦力差があったと思うが、この5つの要素が整えば、その1回の勝利を引き寄せる可能性は高くなっていく。 

②は、どんなに強いチームにも必ず「もってない」奴がいる。大阪桐蔭も1番から9番まで全員大谷翔平ではない。

今回は4番打者の負のオーラ、5番打者の緊張に加えて、後日わかったことだが右のエースが風邪を引いていたらしい。先発したのは背番号10の左ピッチャーだった。

「穴」を見極めて突いていくこと。バッテリーやベンチにいる選手の観察が重要である。

③に関して言うと、うちはそれまでの勝ち上がり方が全て接戦だった。ギリギリの戦いを重ねるうちに、どんな状況でも落ち着いて対処していく強さを身につけていた。

相手校はそれまで全てコールド勝ち。本当の意味でプレッシャーがかかった場面は経験せず4回戦まできていた。

そして初回にうちが3点を先制した。当然相手は「ヤバい」と感じる。「いつもと違う」「なんとかしないと」

精神的に逆境にたたされる。加えて負けたら終わりの最後の大会であるというプレッシャー。今回でいうと応援のプレッシャーも重なる。優勝候補と言えども、いつも通りプレーするのは難しいだろう。

強者は一度波に乗ると強い。プレッシャーから解放されると、畳み掛けるように攻撃してくる。実力通りの力を発揮されたらひとたまりもない。

うちも一気にやられる可能性はあったが、じわじわと相手を追い詰めていく状況を作り出すことができた。偶然ではなく必然的に引き出せたと思う。 

条件が重なれば、東北大会優勝校と競り合うチームに、前年まで県大会1回戦負けのチームが勝てるのである。

どなかの参考になれば。

私自身も改めて振り返ることで今後に生かせる引き出しが増えた。

応援の大切を学び生かしていく

最後に教育的な観点の話。

私は体育祭や陸上の大会では、声を張り上げて応援することを心がけている。

この試合を通じて、応援されることで得られるパワーを身をもって感じたからだ。

陸上の大会では声を出しすぎて本部から注意されたこともあった。

それでも、私が応援されることで感じたことを生徒にも伝えたいと思い今でも実践している。

卒業生から、「応援が力になりました」と連絡をもらうこともあり、とても嬉しい気持ちになる。

他者に無関心だと自分に返ってくる。

仲間が全力を尽くして頑張っているなら、全力を尽くして応援しよう。

どんな場面でも共通して伝えていきたいことだ。

マニアックな話に付き合っていただきありがとうございました。

次は大学野球で学んだことを書いていきます。
ありがとうございました。







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