見出し画像

【投機の流儀 セレクション】「裏の裏は表だった」による大いなる安堵感

この項目は8日収録の「動画」で述べた内容です。よって動画視聴者の方々には二番煎じになり恐縮ですが、動画以外の方々に是非ともお伝えしたいことですから、敢えて詳しく文字にいたします

トランプは御承知の通り、多くのメディアと喧嘩している。
喧嘩を売ってきたトランプのことをメディアは悪い面だけを伝えたがる。
我々のトランプ像はそのメディアを通して知るところであるから、トランプの実態は、我々の知るところよりも少しはマトモな人なのかもしれないと、少なくとも筆者は“裏読み”してきたが、今回の選挙で下院に(特に若年層有権者に)、アンチ・トランプが強かったということは、「裏の裏は表」であって米国内においてもトランプ像は多くの票田に否定された事を知った。
筆者は大いに安堵した。

米国は軍事力と経済力というハードパワーと「理念の合衆国」というソフトパワー(人権の尊重・自由・議会制民主主義・市場経済等)をもって世界のリーダーだった。
「だった」と言ったのは、トランプがソフトパワーの全てを破壊しアメリカ合衆国は果てしないポピュリズムの泥沼にはまりつつあるかと、筆者は長期的には株式市場よりもこの方を不安に思っていた。
別の項目で述べる「米中の新冷戦」は「米ソの旧冷戦」と異なり、資本主義・対・共産主義の判然たるイデオロギーの対立はなく、資本主義・対・資本主義の対決であり、しかもグローバリズムによってこの対立は拡散されるし、経済的にも不可分なものにはまり込んでいく。

旧冷戦時代は我々は西側を、特に米英を見ていれば足りた。
ところが今後は新冷戦という複雑で広範な状態に陥り、しかもアメリカがポピュリズム化(ポピュリズムは極左か極右になる。古くは自由・平等・博愛を標榜したフランス革命もそうだったし、レーニン革命もそうだったし、ヒットラーもそうだった)しているので、明確な価値観や行動基準が混沌としてしまった、という長期的な視野に立った不安を筆者は持っていたが、今回の選挙で下院がアンチ・トランプが多数となり、しかも若年層の票田にアンチ・トランプが多いという報道に接し筆者は大いに安堵した。

77年(だったと思う)「ロッキー」という単純明快な映画が公開され、これが米国で史上空前の興行成績を上げたと聞いて、筆者は「アメリカの将来は捨てたものではない」と直感した。
その当時はベトナム後遺症のためにアメリカは疲弊し弱体化し、大国の衰亡はこのようなものなのかと思えた時代である。
折しも65年~85年の「株は死んだ」“Death of Equities”と言われた低迷時代であった。
しかし映画「ロッキー」のラストシーンで血まみれになった主人公がマットにダウンせずにファイティングポーズをとって立ち続けていた、このシーンを見た時に筆者は、

「この姿こそ今のアメリカなのだ。この映画は史上最高の興行収入を上げたという。アメリカには復活力がある」

と思ったものだ。
今回の選挙結果を見たときに筆者はあの当時の既視感を持った。
あの当時はレーガンが出るまではアメリカは傷だらけになっても倒れずに立っていた。
けれども復活力はなかった。
ところが、そのかなり後に映画「タイタニック」が出てこれが史上最高の興行収入を上げたと聞いた。
これはご承知の通り、CGを駆使した物珍しさもあったろうが、要は単純明快な純愛物語だ。
日本で言えば「野菊の墓」や「伊豆の踊子」のようなものだ。
これがアメリカの若者に大ウケしたと聞いた時、筆者はアメリカの若者の感受性を信じ、彼らに未来があると直感じた。
今回の選挙の結果には当時の既視感がある。
しかも当時は、京都大学の国際政治学者の最高峰と仰ぎ見られた高坂正堯著「文明が衰亡するとき」をもって古代ローマ・中世ヴェネチア・現代アメリカを挙げていた頃であった。
現代アメリカに対する衰亡論は高坂正堯をもってしても(幸いなことに)的中しなかった。
今日、アンチ・トランプの勢力の健在さを見せられて、メディア報道の「裏」を想像していたところ実際には「そのまた裏」でアメリカ国内は若者を中心としたアンチ・トランプが生きていたのだ。
「裏の裏は表だった」と持って回ったような表現を筆者がしたのは以上のような経緯があったからである。

普通は中間選挙の関心はさほど高くないものだそうだ。
ところが今回は期日前の投票者数が過去最高となったそうだ。
テレビの画像で見る限り、投票所へ行く若者たちは「壁をつくるのではなく橋をかけよう」というプラカードを持っていた人が多い。
これは一昨年秋の大統領選で民主党のヒラリー・クリントンが選挙演説で頻発した言葉であった。


【今週号の目次】
(1)米中間選挙後の株高をどう見るか
・米中間選挙の当日の動き
・当面の市況
・QUICK、5日発表の国内投資家見通し
(2)狭いレンジの動きで循環買い相場が続くと見られる日本市場
(3)欧米と比較した日本株の割安感
(4)不透明感がなくなった「ねじれ議会」
(5)「ねじれ議会」はトランプ政権に手かせ・足かせ
(6)「裏の裏は表だった」による大いなる安堵感
(7)景気拡大10年目を迎え試される米国経済の正念場――目先の効果を追うトランプ政権の行く末は見えている
(8)米中間選挙後に渦巻く不安と期待
(9)4~7月決算をひと言でまとめるとこうなる
(10)上方修正に素直に反映する日本企業
(11)ブラジルの事情とレアル相場、要約
(12)トルコリラの戻りについて
(13)米中の「新冷戦」について
(14)中間選挙後の外交内政はより過激になる
(15)公募投資信託の純資産総額について
(16)米中貿易戦争の落着見込みでの556円高は、前の項目で述べたように日本だけのハシャギ過ぎだった
(17)返信への返信;宇都宮のKさんとの東電株の御質問における交信につ
(18)DJ-【コラム】米中経済に「鉄のカーテン」元財務長官の警告

【来週以降に掲載予定の項目】
○華やかなりしもの久しからず――REIT市場での小型銘柄の凋落
○朝鮮半島の非核化が含む問題

【お知らせ】
「投機の流儀 セレクション」のアーカイブは、電子書籍の紹介サイト「デンショバ」にてご覧になれます。

デンショバ
http://denshoba.com/writer/ya/yamazakikazukuni/touki/

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。

ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
https://amzn.to/2AebYBH
『投資で勝ち続ける賢者の習慣』
https://amzn.to/2vd0oB4
『投機学入門 不滅の相場常勝哲学』(電子書籍)
https://amzn.to/2AeQ7tP
『会社員から大学教授に転身する方法』(電子書籍)
https://amzn.to/2vbXpZm

その他、著書多数。以下よりご覧ください。
https://amzn.to/2va3A0d

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?