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飛鳥の夢舞台

今年の夏、奈良を訪ねました。

橿原神宮(かしはらじんぐう)、久米寺(くめでら)、飛鳥大仏、石舞台、岡寺、高松塚古墳、橘寺(たちばなでら)・・・日本の古代ロマンの里・飛鳥地方に2泊して駆け足で巡りました。日本文化発祥の地とも言えるこの地は私にとって初めてで、色々と勉強になりました。

櫃原神宮に隣接して、聖徳太子の弟が建立したとされる久米寺があり、その古い縁起と有名な故事“久米の仙人”の話は、ここが出所と初めて知った次第です。

~今は昔、吉野の竜門山腹にある竜門寺に、久米という男が籠もって仙人の術を修行していた。めでたく仙人となった久米が、空を飛行していると、吉野川のほとりで若い女が着物の裾をたくし上げ、洗濯しているのが見えた。その真っ白いふくらはぎに目を奪われ、あろうことか、久米は神通力を失って、女の前に落ちてしまった。
久米は、やがてその女と夫婦になった。そのころ、天皇は、都を造ろうと人夫を集めていた。久米もその人夫として働いていたが、仲間が彼のことを「仙人」と呼ぶのを聞いた役人は、「では、多量の材木を空を飛ばせて運んでみよ」といった。 そこで久米は、ある静かな修行道場で身心を浄め、断食し、七日七夜祈り続けた。八日目の朝、ついに久米の術は成功した。
一天にわかに曇り、雷が鳴り、雨が降り、が、しばらくすると空は晴れた。その時おびただしい数の材木が南の山から空を飛びこちらへ向かってくるではないか。
それを見た役人たちは久米を敬った。この噂は天皇まで届き、 免田(税を免除される田))三十町 (ヘクタール)が久米に与えられた。彼は喜び、そこに寺を建てた。それが久米寺である~

※「県民だより奈良」ホームページを参照

これは『今昔物語集』収録の有名なエピソードですが、久米寺の資料では、あの東大寺の建材をわずか3日間で全国より神通力で集めたともあります。こうした逸話に事欠かないのが、奈良の社寺の凄いところです。

穏やかな山に囲まれた平野の中にコスモスが咲き始め、1000年以上の歴史と天変地異や災害、戦禍など、その時代時代に人々の喜怒哀楽がありました。そこには人の力では成し得ないような出来事も多くあり、祈りが必要とされたのです。

「大切なものは目に見えない」と言います。まさに『魂』に接した時間でした。

人々の祈りが地層のように折り重なった飛鳥。

"百聞は一見に如かず”と言いますが、自らの来し方、行き方にあらためて想いを巡らせ、センチメンタルな気分に浸らせてくれた、盛夏の訪問でありました。


(住職 記)

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