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ラブカプチーノ 2

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気まずい……。

慧くんは一言だけそう言ってアタシを座らせると、カプチーノを作り始めた。
いつもなら笑顔で迎え入れてくれる慧くんも、今日は無表情。
……やっぱり、怒ってるよね?
慧くんから連絡がないってことはそういうことだもん。
アタシからも連絡してないし……。

元々はアタシのわがままから始まったケンカ。
やっぱり、アタシから謝らなきゃいけないよね?
さっき、カズさんがムリヤリ慧くんと変わってもらったって言ってたけど……
慧くん、本当は休みを取ってくれてたのかな?
だけど、簡単にカズさんと休みを変われちゃうような、なんでもない日でもあるんだよね?
アタシとバイトとどっちが大事なの? なんて聞きたくない。
そんな質問、最低だもん。
でも……思わず口にしちゃいそうになるのはさっき、うれしそうにチョコをもらってたのもひとつの原因かもしれない。
あの笑顔は……頂けないよ。

ねぇ、慧くん、アタシ、どうしたらいい?
わがままで意地張ってるのは分かってる。
でも、どうしても素直に謝れないよ。
そう思うとやっぱり、帰ったほうがいいよね。
こんなとこでまた、ケンカなんてしたくない。
もう一度冷静に考えてから出直そう! そう立ち上がった時だった。

「おまたせしました」
慧くんがあたしの目の前にカプチーノとチョコをを置いた。

え?
これは……バレンタイン仕様?

「何これ? 超かわいい!」
アタシの隣にいた人がカプチーノを指して声を上げた。
「本当! 何これ。アタシも飲みたい!」
「キャーかわいい。わたしにも作って!」
カウンターにいた人が次々にアタシのカップを覗き込む。

それもそのはず。
アタシの目の前に置かれたカプチーノ。
このアタシですら初めて見たカプチーノ。
白いハートのカップに小さなハートがいくつも描かれていた。
カプチーノの茶色のキャンバスにミルクで作られた白いハートが浮かぶ。
ノスタルジックな表情のカプチーノにアタシのココロが震える。

この、デザインカプチーノは慧くんが練習していたのはアタシも知ってる。
バリスタになるには必須とか言いながら練習していた。
でも、難しいからなかなか上手くいかないって言ってたのに……。
やっと、慧くんの練習の成果が実ったのかな。
そう思うとうれしくなる。
「これはある方からのサプライズなんですよ」
なんて笑いながら他の女性客に対応する慧くん。
ある方なんて……一人しかいない。
こんなステキなサプライズをしてくれる人なんて、この目の前にいる愛しい人しかいないよ。
「なので、彼女限定で……ごめんね」
そして、そっとチョコの置かれたお皿の横に小さな箱を置いた。

え?
白い箱にブルーのリボンがかけられていたその箱をアタシはそっと手に取る。
これ、あけてもいいのかなぁ?
隣の女性の前にはコーヒーカップとチョコの入ったお皿だけで、箱なんて見当たらない。サプライズ……これもアタシへのものなの?

何となくカウンターのお客さんたちに背中を向けた。
シュルッと音がしてリボンが解け、そっと小さな箱をあけると、そこにはシルバーのハートクロスネックレスが輝いていた。
うそっ……。
とんでもない慧くんからのサプライズにアタシの体が震えて涙が零れ落ちる。

 慧くん……覚えててくれたんだ。
まだ付き合いたての頃、アタシがすごく欲しがってたハートクロスネックレス。
クロス部分にハートがかかってて、そのままつけてもいいし、ハートをとってクロスだけでも使えるものだった。
ただ、高校生のアタシには手の届かないもので……。
卒業してバイトをしてから買おうと思ってたんだ。
あの頃は、そのネックレスを彼からもらうと幸せになれるって噂があったからすごく欲しかったけど、今はそんなうわさすら消えていた。
でも、アタシは可愛らしさと使えるネックレスだと思ってずっと欲しかったんだ。
慧くんはそれをちゃんと覚えててくれてたんだ――。

「ちぃちゃん、こっち来なよ」
気づくといつの間にか白いシャツに黒のエプロン姿のカズさんが後ろに立っていた。
「あれ……彼女さんは?」
溢れる涙を手で拭ってカズさんを見る。
「帰ったよ。オレ、これから仕事だし……慧、休憩室にいるから行ってきなよ」
カズさんがアタシに耳打ちするとアタシは荷物をとネックレスを握り締めてスタッフルームに飛び込んだ。

「あ……」
ノックもせずに入ると、そこにはマスターと慧くんがいた。
マスター、いたんだ……。
「おーちぃちゃん、今日は慧を借りてごめんね」
「いえ……」
「カズの奴が人生一大事の日だっていうからさ。仕方なく変わってもらったんだよ」
そういうことだったんだね。
アタシ、慧くんの話も聞かずにケンカしちゃったから全然知らなかった。
「もーマスター、早く店に戻ってくださいよ! あ、美和さんにちゃんとお礼、言ってくださいよ?」
「ああ、この歳でチョコなんてなかなかもらえねーからな」
そう、マスターがガサガサと手を入れてる袋はさっき、慧くんが笑顔で受け取っていたチョコ。
「あ、それ……」
思わず声に出て慌てて口を押える。
「この歳になってもチョコをもらえるっていいもんだな」
「娘でしょ?」
冷たくあしらう慧くんの言葉に声が大きくなる。
「む、娘? え? マスター結婚してたの?」
「してたよーあれ? ちぃちゃん、知らなかった? まぁ、離婚もしてるけどね」
そう笑うマスターにアタシは口が塞がらなかった。

初めて知ったし。
マスターがパパで、あんなキレイな娘さんがいるなんて……。
慧くんはあの人がマスターの娘さんって知ってたんだ。
「ちぃちゃん、ゆっくりしていきなよ」
ヒラヒラと手をふってマスターがお店に戻っていった。

「ちぃ、座ってて」
ドアの前で立っていたアタシの背中を押して慧くんが部屋を出て行った。



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