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File7:「IT化=効率化」の呪縛を解く~社外コンサルタントの存在価値


某企業のデジタル担当役員からご相談をいただきました。
「当社はデジタル担当役員を設置している割にIT投資には渋く、自動化・効率化に投資するくらいなら新たな(本業の)技術開発に投資したいと考える傾向があるのです」と。
「当社はIT化に遅れています。今や世間では当たり前のようにスマホアプリを使って効率的に営業員が稼働しているのにそういうことを全く知らないのです」
デジタル担当役員は、残念ながらIT部門は管掌しておらず、新たに創設されたイノベーション創出部門の管掌でした。
私は「スマホアプリで営業員の効率化をしたい」というお考えを聞いて、少し暗い気持ちになりました。
どんなに便利なスマホアプリを導入しても、それだけでは営業員の仕事の効率化に影響を及ぼすことはありません。
そもそもの仕事を変えなければ効率化は出来ないのです。
スマホアプリを入れば効率化できると信じる役員の、「効率化」プロジェクトはスタートすることになりました。
今回は、この企業の問題点とどうやって弊社が支援していったのかをお話ししたいと思います。
1)IT投資は費用対効果が判断基準という誤解
プロジェクトのスタートは決まったものの、その時にはまだ伴走相手を誰にするかは決まってはいませんでした。
私(当社)にも「役員会でプレゼンをして欲しい」との依頼が。
プレゼンの日、役員会議室の前室に通された時には既にプレゼンをしている会社がありました。
立ち聞きするつもりは無くても、流石に前室だと全てが聞こえてきます。
Windows OSを開発したIT会社の営業部長らしき人。
SaaS環境で提供しているXXXX365とやらを導入すれば「あら不思議、社内の課題がスルリと解決されて全てが上手くいく」と熱弁を振るっていました。
相談元のデジタル担当役員の入れ知恵なのかはわかりませんでしたが、漏れ聞こえるプレゼンを聞きながら、私は変な汗をかく羽目になりました。
さて、私(当社)はどのようなプレゼンをしたのか。
・ITに投資する価値について
・ビジネス・プロセスという経営上の概念を導入する重要性
・アジリティという経営能力の重要性
そして、ソフトウェアの導入やツール類の導入は「二の次である」というプレゼンをさせていただきました。
そう、デジタル担当役員の意図とは違う話をしたことになります。
結果はどうだったかというと、SaaS導入は優先度が下げられ、まず、社内のビジネス・プロセスを整備することから始めようということになりました。
役員会の全員がそう決めてくれたのです、懸命な方々だと思いました。
また「IT投資に渋い」と聞いていましたが、この結果から「きちんと説明していない」IT部門の問題が大きいこともわかりました。
2)誤解を解くには真向からのきかっけが必要
私は、間を開けずに複数回役員同士が議論する場が必要だと説得しました。
それから3ヶ月以内に役員合宿が何回も開催され、私(当社)はその度にワークショップを提供しました。
日程調整に走り回った企画部長は「うちの役員さんは分からず屋が多いですから」とぼやいていました。
しかし、役員の皆さんは、場の必要性を理解し、熱心に議論されていた。
「IT投資に渋い」のではなく、議論のきっかけがわからなかったのでしょう。
意外に、現場は自社の経営幹部のことをキチンとみていない。
会社の人間関係は複雑怪奇な影響システムが働いていて「親の心、子知らず。子の心、親知らず。」に陥りがちです。
ちなみに、これもコミュニケーションツールを導入したからといって改善されるものではありません。
3)役員(経営幹部)は議論すべきことを誤解してはいけない
「ITを理解していない」と思われていた役員の皆さんは、合宿で何を議論していたのかについて。
まず、ITのビジネス価値とビジネス・プロセスについて説明をし、正しく理解をしていただく必要がありました。
議論すべきは「部署・部門の壁を超えて解決すべき全社的な課題」であることに気付いていただくためです。
そして、その課題とは何かを特定することからはじまりました。
いくつもの課題があがり、最優先すべきものが何であるかが「無制限一本勝負」「一切手抜き無し」で議論されました。
無制限は合宿形式なら実行しやすいが、一切手抜き無しは難しいだろいうと思われるでしょう。
そこは、私(当社)のようなコンサルタントのノウハウを活用していただきたいところです。
皆さんが悩むべきなのは、方法論ではないのですから。
4)中期計画で決めなければいけないことの誤解
この会社には中期計画が存在し、そこには中期で達成すべき目標が掲げられていました。
しかし、残念ながら「部署・部門の壁を超えて全社が連携しなければ達成不能な課題」は含まれていません。
正確に言うと主管部署(概ね事業部)を中心に課題を解決するように工夫されていました。
そこで、主管部署を決めにくい全社的な課題を洗い出すことに注力していただきました。
これもきっかけがわからないと議論は違う目標を作ってしまいます。
私(当社)は、その会社で実施している顧客満足度調査の「自由記入欄」のワードマップを提供しました。
役員の皆さんは、その結果に驚きを隠せなかったものの、お客さまの意見(苦情)に「納得」した様子。
そして、役員総意として「次回の顧客満足度調査からはそのワードを一切登場させないようにする」という目標が設定さたのです。
そう「ビジネス・プロセスを改善する」という素晴らしい目標を設定ができたのです。
お気づきでしょうが、漠然と課題を探しにいったのではありません。
この会社の場合、社長・会長を含めて「現在までの延長戦上に当社の将来は無い」というToBeが見えていたのです。
5)ビジネス・プロセスを誤解しないように
ここでビジネス・プロセスについて説明しておきたいと思います。
ビジネス・プロセスはビジネス戦略を達成するために概念として存在しています。
これは言い換えるとビジネス・プロセスが(正しく)実行されるとビジネス戦略の戦略目標が達成できる可能性が高まる(有効性の向上)ということです。
経営者から見ればビジネス・プロセスは「経営の意志が全社に正しく伝わる」ツールとして理解いただけるでしょう。
ビジネス戦略は、日本では中期経営計画と言われる場合が多く、財務目標だけか、そこを中心に目標を設定する企業が後を絶たないのが現状です。
しかし「財務目標は結果として得られる」ものであることを忘れてはなりません。
ビジネス戦略の戦略目標とは、ビジネスそのものに関する目標を定めます。
ターゲットとする顧客や、マーケットそのものを如何にするのか。
製品・サービスの変化・革新などが具体的な目標になります。
6)組織は変われないという誤解
この会社では自社のサービス品質について具体的な目標を定めました。
この会社でもそうでしたが、現場では戦略目標を達成することよりも財務目標を達成することに重点を置いていました。
むしろ「財務目標を達成したのだからサービス品質に関わる目標は未達でも問題ないでしょ?」
くらいの顔をしていた事業部長が、正直沢山いらっしゃいました。(だらけといっても過言ではない)
そういう現象を仕方なしとせずに、経営トップ自らが身を乗り出して誤った価値観を正して欲しいと思います。
ビジネス・プロセス改善に着手したこの会社では、全事業部長が戦略目標を達成するための計画を策定して社長室の壁に貼り出しました。
もちろん、事業部長が全員集まり議論し、組織を横断したプロセスを意識して目標を策定した結果を、です。
7)数々の誤解を解いた結果
この会社、結果的に財務目標は過去最高になりました。
全社的な目標に手を付けることが出来れば、ビジネス・プロセスが正しく実行されることになります。
顧客から見ても、その会社の意志が正しく(わかりやすく)伝わります。
そして、新たなお客さまを開拓できたり、クロスセリングに成功したりするのです。
これぞ、正しく「効率化」が行われたということでしょう。
無事着地できてひと安心でした。

しかし、組織というのは案外簡単に元に戻ってしまいます。
タッチコアは、そうならないように、継続してサポートしていきたいと考えています。

APPENDIX
プロジェクトスタート冒頭のスマホアプリの話は、立ち消えになりました。
実際には、小さな営業所でトライアル運用してみたらしいのですが、上手く回らなかったらしいです。
そして全社導入は諦めたとか。
誰かの顔を立てて、仕事を作る。日本企業に多くありますね。
これも社員を大事にしているという誤解かもしれません。


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