見出し画像

奄美大島という奇跡

雨続きの奄美の冬、しばらくぶりに快晴となった日のこと。
検討中のツアーの下見に行こうと思い立った。

一番の目的は、オープンからかなり日が経って、ようやく入りやすくなってきた≪奄美大島世界遺産センター≫。

何ていったって≪入場料無料!≫は驚き。

マングローブパークに併設している事もあって、駐車場はいつだって混雑。

快晴の日の駐車場、平日なのにかなり埋まっている。
観光ツアーの団体バスもやって来る。観光地らしい光景が広がっていた。

一回、センターにゆっくり入ってみたい……。

センター側を見て浮き立つ心の声

宇検村からは車で30-40分のところにあるセンター。
市内へ行くたび、何度も何度も、前を通り過ぎていた。
たまに立ち寄っても、宇検村のリーフレットを受付で渡し、すぐ村に戻っていたのだけれど……。

奄美大島世界遺産センター 小規模ながらじっくり見ればあっという間に時間が過ぎる。

一度はしっかり時間を取って確認して、所要時間を測ってみようと、意を決してセンターの中へ。

まずはガイドあるあるのトイレチェックから。
地方の観光地ではまだまだ和式が多いトイレ。奄美大島も例外ではない。
観光客が何万人と押し寄せる京都でさえ、駅のトイレは和式だらけ。

さすがにここは出来てから間もないとあって、洋式トイレ。
車椅子でも利用可能。授乳ができるスペースも。

どうやら観光バスから降りた人たちはトイレ休憩にこの建物を利用している模様。
ところが大勢の観光客は、あっという間にマングローブパーク側へと消えていった。

ここ、そんなにすぐに見終えられるものなのか?

不思議な光景に疑問を感じた心の声
入り口には希少動植物のイラストが

中に入ると、コンパクトながらも奄美大島に生きる動植物たちの情報が満載だった。

奄美大島がどうやってできてきたのか、自然にフォーカスして書かれている入り口通路に描かれた絵と、そのものがたり。

入り口のところを素通りしてしまって中に入ってしまう人が多かったのだけれど、是非この物語も読んだうえで中に入って欲しい。

通訳案内士の方であれば、その英語はなかなか役立つはず。

そうして、中に入って一番驚いたことは何かというと……。

全部見たことあるやつやん……。でも、動いてないやん。

この一年、普通に希少動植物を見ていたことに気づいて驚く心の声

そう、意図せず、追いかけるわけでも無く、普通に、自然に、季節ごとに、何気なく見かけていた動植物。
展示されている内容を見て、それが普通にある宇検村の凄さに改めて感動してしまった。

移住一年、希少動物か否かに関わらず、普通に、生き物たちと共に暮らしてきた。

カニが集団で道路を横切っても、
超小型のやもりが家の中で鳴いていても、
ヤギが集団で車の横を走っていても、
イノシシと激突しそうになっても、
サシバが並走して飛んでいても、頭上をくるくる回っていても、
ルリカケスがとんでもない声で叫んでいても、
ハブの死骸が道路中央に転がっていても、
無数の黒い蝶に囲まれても、
道路の真ん中で微動だにしないヤマシギと目があっても、
昼間っからクロウサギが跳ねていても、
カメがいても、イルカがいても、
アカショウビンが涼やかに鳴いていても、
毎朝同じ場所に、真っ青な羽のイソヒヨドリがいても、
職場の窓枠にアリが行列していても、
職場の蛍光灯付近に珍しいトンボが回っていても、
職場の壁にヤモリが走り抜けても、
真っ白な雲(霧)の中に飛び出す得体のしれない動物を見ても、
「ああ、いるな」と、
それが今や全く普通になっていた自分に気が付いた。

自分が奇跡の島にいること、この島にいられること自体が奇跡であること。
ここにいられる嬉しさが、それまでの大変さを上回っているからこそ、
ここにまだまだいたいと願う。

いつか、離れたいと思う日は来るだろうか。

動植物に関心が無ければ、おそらく15分で外に出てしまうだろうなと感じる展示。時間の無い団体ツアー客があっという間に消えたのも頷ける。

けれど、この実物が見られるツアーがあることを知ったら、そこへ行きたい、そのツアーに参加したいと思う人はどれくらいいるだろうか。

そんなことを思いながら、1時間ほどでセンターを後にした。

そしてそのまま、あまりに良い天気につられて、マングローブパークへ。
こういうのをきっと、小春日和というのだろう。

パーク入り口に、でかでかたなびく宇検村カレーののぼりを見つけた。
空港でも販売を頑張っているのだけど、ここでも営業マンさんが頑張っている。

実は宇検村で買うと、少しお得です。

このマングローブパーク、500円支払えば、庭園内をぶらぶらできる。
(令和4年12月時点)

カヌーに乗るのであれば、決まった時間に30分前に集合で2000円が必要なのだけれど。今回は時間がうまく合わなかった。

時間の融通が付かない方、どうしても自分の都合の時間に合わせてカヌーに乗りたい方には、すぐ隣にある丘の上のマングローブ茶屋の方が便利かも。

久しぶりのお天気に、こころは弾む。マスクを外して深呼吸。

綺麗な芝生だけど、むやみに歩けない。その理由は……。

ずいぶん綺麗に整備されているなと思ったら、グラウンドゴルフのコース。
折しもランチ時、テントの下では地元の方たちが楽しそうにお弁当を頬張っていた。8ホール既に回って、これから残り8ホール回るらしい。

なかなかの広さです

地図を見て、ふと「展望台」という文字が目に入ったので、のんびり歩きながら、その方向へ。
5分ほど歩くとカヌー乗り場が見え、その右手には……。

なかなかの階段の数

これ、登るん?

既に汗だくで、気力がさらに奪われたときの心の声

階段のふもとで、写真を撮ってからしばし佇む無体力自慢のひと。

しかし、下見に来たんだからと、自らを励まし続け、ひたすら登り始めた。
途中、絶対あなたわたしより年上ですよね?という方が軽快に後ろから通り過ぎる。

息も切れ切れに上まで登った先には、さらに最期の展望デッキに登る階段が。そしてその周りはかなりの草が生い茂って生えている……。

ハブ、出ないで。

久しぶりの草むらに怯える心の声

何とか最期の階段を上りきると、目の前にはマングローブエリアが広がっていた。

干潮の頃

ここで、飲むものを何も持って来ていないことに気が付いた、愚か者。
みなさま、ここまで登る時には、是非何か飲み物をご持参ください。
座ってゆっくりと、この景色を楽しめます。

喉が渇きすぎて、必死で上ってきたのにすぐさま階段を降り始めた愚か者。
自販機までは遠い……。

そんな時、ふと目に留まった奇妙な植物。

ワサビの木? ご存じの方、教えてくださいな。

携帯で検索するも、いくつも候補があがって来る。

暑さに耐えかねて、建物内へ戻り、ようやく喉の渇きをいやしてからはたと思った。

ここだけで、半日かかるかも。

所要時間計算をしている仕事モードの心の声

さっきまでいた大型の団体バスは、ひとまわり小さいバスと入れ替わっていた。
一体一日に何台ここに観光バスがやって来るのか。

バスの添乗員さんや運転手さんに挨拶すると、「今日は宇検村にも行くよ」と言われて嬉しくなった。
けれど、どうやら夕食を食べに立ち寄るだけの模様。

夜は灯りがほぼ無い宇検村。
夏場よりも雲が厚く、星空もあまり見えない冬の空。

そんな中で、真っ暗になってからやって来る観光バス。

数種類の柑橘類や格安島バナナが並ぶ市場に立ち寄ることもなく、
クロウサギに出会う事もなく、ハブも見ずに、透き通る海も見ずに、
マングローブのバス停も素通りして、帰っていくのね。

残念がる心の声

果たして、この方たちの心に、「宇検村」という村はどのように映っているのか。
どうか美味しい夕食であって欲しいと願う。
もう一度来たい場所になって欲しいと願う。

バス会社との連携は何故できないのか?
そんな思いで、添乗員さんのお話を聞いていた。

観光バスが去った後、マングローブパーク前のバス停の時刻表に目がいく。

上の段が、市内行。下の段が、瀬戸内方面行。(令和4年12月現在)

これ実は、左(平日)右(土日祝)はほぼ同じ。
一部だけ時刻が違うトリッキーなやつ。
間違い探しゲームみたい。

マングローブパークから市内行き時刻表、ズームイン!

『車に乗れない個人インバウンド客が、楽に観光できる島になって欲しい。
屋久島のように、予約で乗れる観光バスが欲しい。
ルートに聞いたことのない地名ではなく、世界中の人が理解できるように、番号を振って欲しい』

去年訪れた時から、一歩も進まない課題だけれど。
声をあげ続ければ、きっといつか変わると信じたい。

もしも、そんなバスができたら。
それだって、≪奇跡≫なのかもしれないけれど。

帰り際、車でバス停の前を再び通り過ぎた時、
「ねぇ、まだ1時間もあるよ、どうする?」と、悩む二人連れの旅人の声が聞こえていた。

宇検村行きの、湯湾岳行きの、小さなバスがあったらなぁ。
いや、無いものは作ろう。

彼らを乗せることは今はできないけれど。そんなルートを作りたい。
本当に「やりたい」と思っている人たちだけで。

そんな奇跡を、おこしたい。

空港から58号線をひたすら1時間半ほど南下して、85号線と交わるところで右折。
そこからひと山を越え、その道のりの更に先にある宇検村。
住用マングローブパークからは車でおよそ30分で宇検村にたどり着く。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?