【読書】小笠原弘幸「オスマン帝国英傑列伝」幻冬舎新書

書店で新刊本として平積みになっているのを見て、「幻冬舎から本格的な世界史本とは珍しいな」と思った(失礼)。もっとも、著者は中公新書「オスマン帝国」などを書かれている研究者の方なので、購入するときの心配はなかった。中公新書「オスマン帝国」を読んで通史を理解してから、本書に進むとよいと思う。

オスマン帝国の有名人といえば、やはりスルタンを思い浮かべる。メフメト2世やセリム1世、スレイマン1世などだ。本書の特徴は、そうしたスルタンたちには偏らず(紹介されている10名中3名しかいない)、女性や文化人にページ数を割いていることだ。

「オスマン帝国の英傑」と聞いてすぐ挙がるであろう名前は、1章のオスマン1世と、2章のメフメト2世、10章のムスタファ・ケマルくらい。最盛期のスルタン・スレイマン1世ではなくその寵姫・ヒュッレムを選ぶなど、センスを感じさせる人選だと思う。

個人的に面白かったのは、オスマン帝国近代の文化をになった画家、オスマン・ハムディを取り上げた8章である。19世紀のオスマン帝国は衰退期で「瀕死の病人」などと評されていたが、政治・軍事のみならず文化面でも近代化に向けて苦闘を続けていた。西洋列強に対して、自らが文明国であることを示すため、パリ万博やウィーン万博にも力を入れていた。これは明治日本とも共通することだという。
「トルコのジャンヌ・ダルク」とも呼ばれる女傑ハリデ・エディプの章も興味深い。

余談だが、8~10章にかけて、オスマン・ハムディにハリデ・エディプの最初の夫、ムスタファ・ケマルと、「仕事では開明的だが家庭では保守的な夫」が3章続けて登場するのには苦笑を禁じえない。

一般的な知名度は低い人物たちだが、人間味に溢れたエピソードも多く紹介されているので気楽に読めると思う。

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