【書評】飯田洋介「グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争」(NHKブックス)

1870年、プロイセンとフランスの間で普仏戦争(独仏戦争)が始まった。宰相ビスマルクの率いるプロイセンは、入念な準備もあって戦いを優位に進めて勝利し、ドイツ統一を成し遂げた……と、高校の世界史で習う。

フランス皇帝ナポレオン三世はセダンの戦いで捕虜にされ、第二帝政は崩壊した。また、ドイツ皇帝の戴冠式は占領されたヴェルサイユ宮殿で行われ、アルザス・ロレーヌ地方の割譲もあってフランス人に大きな屈辱を与えた。

そのため、この戦争はプロイセンがずっと軍事的優位を保ち続けていたようなイメージが先行している。確かに陸戦ではプロイセン優位だったが、本書では別の視点からビスマルクの戦いを浮かび上がらせている。

当時のフランスはイギリスに次ぐ海軍大国で、海軍力の面ではプロイセンは質・量ともに圧倒されていた。一方、プロイセンには中世以来の商業都市であるハンブルクなどを抱え、ドイツ商船が世界で活躍していた。

つまりプロイセンは、海運大国ではあるが海軍大国ではなかったのである。フランスとの戦争において、ドイツの商船はフランス軍艦の脅威にさらされてしまう。ドイツ船が拿捕されたり、港で足止めを食らったりする経済的打撃は無視できない。しかもフランス側には、戦時の船舶拿捕に関する国際法(パリ宣言)違反の疑いがあったが、ビスマルクの必死の訴えにも関わらず、国際社会を動かすには至らなかった。普仏戦争を海から見た場合、プロイセンの方が苦境に立っていたのだ。

「普仏戦争でプロイセンはフランスを圧倒した」という表層的な理解では見えてこないものがある。歴史の意外な一面を明らかにした、優れた一冊である。


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