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あいにいく【あらすじ、筆者紹介】

あらすじ
突然の交通事故で息子を亡くしてしまった篤子。ひょんな事から息子のセクシャリティを知ってしまったのをきっかけに、息子の友人を訪ね歩いていく。

筆者より
ご覧いただきありがとうございます。毎度苦労しながら書き上げてもうイヤ!と思うのですが懲りずに今回も書いてしまいました。
今回はテーマが「自由」とのことだったので、女性が主人公です。文フリの桃鞜で女性主人公を書くのは初めてなので、あらゆる面で迷走しつつの執筆でした…。
それでも書くのは楽しいものです。
少しでもお楽しみいただけたら幸いです。

抜粋

 ピーピーと洗濯機が終了の合図を告げる音がする。朝食が済み、うつらうつらしていたところに電子音が耳に入ってきて急に現実に引き戻された感じがする。夫と二人だけの洗濯物だとこんなにも少ないのかと、二人暮らしになってからもう十年程経つにも関わらず寂しい感じがしてしまう。
「はぁ……」と思わずため息をつく。数年前から高血圧の薬を飲むようになってからか、一日中だるさが抜けない。生きるために必要な薬とはいえ、毎日こうだと中々しんどい。ひとつひとつの動作の前に、気合いを入れてからでないと動けなくなってしまった。
「あ、お水変えてあげないと」
 リビングの椅子から立ち上がり、サイドボードの前まで行く。
「ごめんね。今日はちょっと遅くなっちゃった」
 遺影の中の息子、航平に話しかけた。遺影の前に置かれたコップを手に取り、台所で新しいお水に入れ替える。最近ようやくこの一連の動作を落ち着いてこなすことができるようになった。

ーーこちら都立国領総合医療センターです。石田航平さんのご家族でいらっしゃいますでしょうか。
 病院関係者を名乗る人物から電話がかかってきたのはもう三ヵ月前になる。最初は何かの詐欺かと思ったが、今では詐欺であった方が何万倍もマシだったと思う。
ーー本日、石田航平さんが交通事故に遭い、非常に危険な状態です。これから緊急手術を行いますので、ご家族の方はこちらの病院までお願いします。
 頭が混乱して一回聞いただけでは意味がよく理解できなかった。しどろもどろになりながらどうにか病院の住所や必要なものを聞き出し、すぐに夫にも連絡した。
 それからのことはよく覚えていない。気づいたら病院の待合室にいて、ただただ航平の無事を祈っていた。五体満足でなくていい。せめて生きていてほしい。普段は信じていない神にも必死で祈ったし、悪魔に魂を売り渡しても良いとも思った。
「ひとまず手術は成功しました。あとは本人の体力次第です」
 それから航平は本当によくがんばった。航平の姉にあたる麻美子もすぐに駆けつけてくれて一緒に病院に泊まり込んでくれた。
 緊急手術から三日目の午後、家族全員がそろったタイミングで航平は静かに息を引き取った。


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