米澤穂信『氷菓』 | 文学の香りがする省エネの名探偵
夏は本好きがワクワクする季節ですよね。新潮文庫『新潮文庫の100冊』、角川文庫『カドイカさんとひらけば夏休みフェア』(不思議なフェア名だな)、集英社文庫『ナツイチ』。
あの冊子が本屋のレジ前に置かれる時期になるとそわそわと本屋を覗きに行きます。
注目作がこのタイミングに合わせて文庫化されることが多いのもそうですが、コピーや紹介文が良いと新刊じゃなくても「やっぱり読んでみようかな」という気持ちになり、この夏のフェアがなかったら出会えなかったという本に出会えるのが好きです。
今年は角川文庫の紹介がよくて、一気に3冊書いました。
その1冊がこちら。米澤穂信のデビュー作『氷菓』。
このミステリーがすごい!常連のミステリー作家•米澤穂信。
2014年に刊行した『満願』が「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」の国内部門1位で史上初のミステリ・ランキング3冠に輝き、第27回山本周五郎賞を受賞。
ミステリーランキング3冠、山本周五郎賞受賞なんて、超絶面白いに決まってる!!!!と鼻息荒く『満願』を読んだんですけど、何故かあまりハマらなかったんですよね。
1回読んで「……うむ」となって(面白かったなとは思ったものの、これが3冠か……となりました)、その後読み返していないので、正直内容覚えていません。
私は「米澤穂信さんは合わないのかも」と早々に決めつけて、その後は読んでませんでした。
でもその後も米澤穂信さんすごいじゃないですか。『満願』そこまで響かなかったけど、あれってもしかして私の読解力とか感性が悪かった可能性あるんじゃ……と最近感じてまして、また読んでみようかどうしようか悩んでいたところで角川文庫の夏休みフェア。
冊子に載っていた『氷菓』の紹介文を読んで、買うことにしました。
夏休みフェアの紹介文はこちら↓
このフェアの冊子に載ってるコピーか好きなんですけど(紹介文はもともとの紹介文使ってると思うんですけど、コピーはオリジナルの場合多いですよね!)、これもよくないですか?「今の青春と、あの時の青春」。
『氷菓』は、小さな謎解きの中に、33年前の真実を追う、という大きな柱があるので物語の中で「今の青春」と「あの時の青春」が描かれます。
ただ同時に、2001年に米澤穂信のデビュー作として刊行された『氷菓』が今もイチオシ作品として勧められているところにも「今の青春」と「あの時の青春」を感じて、なんかいいんですよね。
※この先はネタバレになります。未読の方、サクっと読めちゃいますので、ぜひ米澤穂信のデビュー作をご覧になってから戻ってきてください!
いやー、これはアニメ化したくなりますね〜!
実際してるんですけど、これはしたくなる。登場人物の設定から、性格、学校の立地や雰囲気、古典部に流れる空気感まで、これはアニメ化したい。
主人公•折木奉太郎の、一見やる気ないんだけど最後には謎解いちゃうところとか、ちょっと捻くれてるところとか、1回足突っ込んだら結局は放って置けないところがいい。やる気のない省エネの名探偵、という感じ。
同じ古典部(ヒロイン的立ち位置)の千反田えるは、豪農で知られる千反田家の令嬢という設定、清楚な外見と裏腹な好奇心、「私、気になります」の一言が引き金となって折木を振り回すところなど、若干漫画っぽい雰囲気もありますが、それを差し引いてもとっても魅力的。
折木の親友で古典部にも所属し、自らを「データベース」と自認する福部里志も、福部に好意を寄せて福部を追って古典部に入部した伊原摩耶花も、登場人物がみんな個性的で、可愛くて、彼らのことをすぐ好きになってしまいます。
ちなみに、これ前に実写映画化もしてましたよね。
山崎賢人、広瀬アリスという錚々たる顔ぶれ集めてましたけど、これは実写化じゃないでしょー!実写化したら奉太郎の魅力も半減しそうだし、えるは設定的にも実写化すると嘘っぽくなりそうじゃーん!!!!
と思って「氷菓 映画」で検索したらめちゃくちゃイケメンの山崎賢人とめちゃくちゃ美人な広瀬アリスの映画ポスター画像が出てきました。
……奉太郎こんな感じか、かっこいいな……えるも思ったより悪くない……いや、むしろいい……
これはこれでありかもしれん……!!!
となりました。
さて、物語は、高校の中で起きるちょっとした謎が短編で解かれつつ、古典部にまつわる大きな謎に主人公たちが迫っていくストーリーです。
この大きな謎とは、同じ古典部の千反田えるが子供のころに伯父•関谷純から聞いた古典部に関わる話についてです。その話を聞いて泣いてしまうほどの内容だったものの、現在はその内容について全く覚えておらず、叔父に確認することも叶わない(行方不明中)ため、どうにかそれを思い出したいというもの。
過去に「伝説の英雄」と呼ばれた関谷純。
古典部の文集『氷菓』がその手掛かりだと知った奉太郎は、仲間たちと共に、『氷菓』に秘められた33年前の真実に挑みます。
少ない情報の中で仮説を立ててはそれの粗を潰していく奉太郎たち。
どんなに納得できる仮説でもそれはあくまでも仮説というところがいいなと思っていたら、最後にばっちり当時を知る人が登場。
「何も言えねえ……」と言いたくなるほどのど正解を発表してくれました。
完全なる正解を教えてくれるのね。
たぶんこうなんじゃないかな、きっとこうなんじゃないかな、というロマンじゃないのね。
と思いましたが、文集につけられた『氷菓』の意味についてはその人も知らず、主人公がラストに解き明かすところは鮮やか。悲しいながらも爽やかな読後感があります。
周囲にいくら英雄と言われ、伝説ともてはやされたところで、それは決して彼が望んだ結果ではなく、たった一度きりの青春を突如強制的に終わらせられたというのはどれほど孤独だっただろうと胸が締め付けられます。
どれほど学校側と対立し、それがどれほど学校側にとって望んだものではなくても、彼1人に全ての責任を押し付けて終わらせるのは間違っていた。彼に全ての責任を押し付けて、自分たちの願いを押し通した生徒たちも間違っていた。
まだ少年だった彼の心の叫びが、最後のキーでした。
これ、古典部シリーズとして他にも関連本あるみたいですね。
ミステリー初心者はもちろん、小説初心者にもとても読みやすい本だと思います。
中学生くらいの子が初めて出会う小説って大事だと思うんですけど、そんな1冊にもおすすめかと。まさに夏フェアにぴったり!
この夏もたくさんの少年少女がこの『氷菓』に出会うのかな、と想像した本でした。
おしまい。
アニメの『氷菓』見てみたいな〜と配信(primevideo、J:COM、FOD)で探したんですけどなくて(レンタルはありました)、
映画の『氷菓』は?と探したんですけどなくて(レンタルはありました)、
ちぇっとなりました。←レンタルはしたくない。
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